
- スタートアップバブルから一転、コロナで冷え込み回復した2020年
- 2021年はSaaSに加え、マニアックなレガシー領域のDXに期待
激動の1年となった2020年。新型コロナウイルスの世界的流行によって、人々の生活様式は大きく変化し、またそれは大企業からスタートアップまで、ビジネスのあり方も大きく変えることになった。
DIAMOND SIGNAL編集部ではベンチャーキャピタリストやエンジェル投資家向けにアンケートを実施。彼らの視点で2020年のふり返り、そして2021年の展望を語ってもらった。今回はスタートアップの採用・転職支援を行うキープレイヤーズ代表取締役でエンジェル投資家の高野秀敏氏だ(連載一覧はこちら)。
スタートアップバブルから一転、コロナで冷え込み回復した2020年
私は、人材エージェント会社とエンジェル投資家をしています。その立場から、2020年のスタートアップの振り返りと2021年の展望をお伝えさせていただければと思います。
まず、2020年になる頃を振り返ると、「スタートアップバブルではないか」と言われるほどにスタートアップ・ベンチャー界隈は盛り上がっていたように思います。
しかしコロナ禍に入り、4月から6月の投資環境は冷え込みました。ただ、その後いわゆる「ニューノーマル」と呼ばれる新しい生活様式が定着し始めてからは回復してきたというのが2020年全体の流れだと理解しています。
私は常に「巻き込み力がある、魅力的な起業家がいれば起業前から応援したい」というスタンスをとっており、投資の話があればオンラインでお話をさせていただいておりました。社会全体が苦しい状況だからこそ立ち上がろう! という気概を持った起業家の方も多く、話を聞きながら私も元気をもらいました。その中でも、2020年は特に医療・ヘルスケア領域のスタートアップの活躍が目立ちました。
例えば、新たな生活様式が浸透していくにつれ、「オンライン診療」などを手がけるメドレーが成長を遂げました。
起業家や他の投資家の方からも、「第二のエムスリーやメドレーとなる会社はどこなのか?」という質問や相談を受けるようになったのが印象的でした。スタートアップの中でも、医療・ヘルスケア領域の企業への投資熱は今もどんどん高まっています。
ヘルスケア×ITと言えば、オンラインフィットネスサービスを展開するLEANBODYのビリーズブートキャンプのコンテンツがヒットしたことも記憶に新しいです。
健康志向・フィットネス熱が高まる中で外出を自粛する環境になったことで、自宅で健康的な生活を送るためのサービスがユーザーをうまく獲得していきました。
新しい生活様式で獲得したユーザーをサブスクリプションでストック収益化
自宅での生活の変化という観点では、自己研鑽に励む人が増えたことから、AIプログラミング学習サービスのアイデミーも成長しました。
広義で生活様式の変化を捉えて新しく拓かれたマーケットとしては、バーチャルSNSのcluster(クラスター)があると思います。ハロウィンでは、バーチャル空間で渋谷のスクランブル交差点に集まる現象も発生していたのが印象的です。
新型コロナウィルスは、各社がサービスの価値を見つめ直す機会にもなったわけですが、うまく価値を転換することで新たなマーケットニーズを捉えたケースもあります。
その一例が、多言語AIチャットボットのビースポークです。元々、観光客を中心に、観光や旅行をサポートしていました。
しかし、コロナ禍で情報が分断されてしまった海外滞在者に向けて、「BeBot」を通して無償で情報提供できるようにしたことで、世界中の自治体へサービス導入が進みました。日本だけではなく、世界の自治体ニーズを捉えたケースと言えると思います。
また、こうして生活様式の変化に伴い獲得したユーザーを、着実に収益を上げられるサブスクリプションビジネスが広く普及したことも、2020年の大きなトレンドのひとつと言えるでしょう。
2021年はSaaSに加え、マニアックなレガシー領域のDXに期待
2021年については、引き続きB2BのSaaSモデルの会社は投資が集まると予想しています。2020年のSaaS銘柄の株価が好調であったこともありますが、何より「予実管理がしやすい」点が、上場のルールに向いていることが大きいと考えています。
また、マザーズ上場ベンチャー企業の株価が高騰した事業領域には、今後も継続して投資が集まることが多いです。その観点からも、SaaS企業に引き続き投資が集まると考えています。
SaaSのほか、医療・ヘルスケア、インフルエンサーには今後も期待
SaaS領域では、Google、freee出身の村尾祐弥氏が手掛けるマジックモーメントに注目しています。大手企業向けにサービスを提供できる布陣であり、2020年も大きく成長していますが、2021年も期待しています。
予実管理などの経営管理系SaaSとしてプロフィナンスも期待しています。経営者の木村義弘氏の人間力、粘着力は非常に強く感じているので、すぐにPMFしなくても何とかしてくれると期待感があります。冒頭に紹介した医療・ヘルスケア領域も、菅総理による「オンライン診療」の恒久化に向けた取り組みが進むなど、今後も注目すべき領域だと考えています。
東証一部上場のエムスリーの評価は上がり続けており、2020年12月現在で時価総額は6兆円を超えています。医療・ヘルスケア領域のこの上昇トレンドは続いていくのではないかと思います。
他には、インフルエンサー領域も引き続き成長していくのではないかと考えています。そういった意味で、Bitstar、Firebugに注目しています。領域に期待できるだけでなく、経営者も強いので着実に成長を遂げています。
一方で、個人的には銘柄的にも過当競争すぎるかな? という感覚もあるので、もっとマニアックな領域に着目していきたいと考えています。
小売・店舗など領域特化型のSaaS
そのひとつが領域特化型のSaaSです。
例えば、小売向けではMatchbox Technologies。新潟発のスタートアップとしてコンビニエンスストアのローソンを10数店舗運営しています。ただコンビニの実店舗を運営するのではなく、その経験を活かして小売向けのSaaS事業に展開しています。
店舗向けのSaaS事業を展開するLerettoも成長が見込めます。代表2人の「巻き込み力」が素晴らしいです。店舗向けといえばシフト管理SaaS「らくしふ」のクロスビットも着実に成長していくのではないかと予想しています。
レガシー領域のDXスタートアップにも注目
他にもマニアックな領域としては、レガシー領域をDXするスタートアップに注目しています。
例えば、建設機械のプラットフォームのSORABITO、建設会社が簡単に見つかるクラフトバンク。両社とも、現場の実業の事業・経験を持ち、その経験を生かしてマッチングシステムを作っているのが特徴です。建設×ITでは、建材比較サイトのtrussにも期待しています。
他にも、レガシー領域をDXするスタートアップとして、国際物流を革新するShippio、自動車のアフターマーケットを手がけるSeibii、住宅プラットフォームのギバーテイクオールなどにも期待しています。
2021年はHR領域も再度成長軌道に? 期待と意気込みを込めて
最後に、私の本領域でもある、HR領域について紹介したいと思います。
HR系はコロナの影響で採用を控えるという会社も2020年は多かったですが、すでに下げ止まり成長に転じつつあります。
採用領域では、特に「PayCareer」に期待しています。人材採用において、相変わらず「会いたい人に会えない」「優秀な人材は引っ張り合いになってしまう」という問題があります。PayCareerは、1社面談にいくと求職者の方が3万円もらえるというサービスです。
PayCareerでは、紹介成果報酬ではなかなか会えない人材採用、特にエンジニア採用に活用されており、2021年以降さらに成長可能性があると見ています。
他にも、HR系ではスローガン、リーディングマーク、ヒュープロ、Techouse、Micoworksの成長に期待したいです。また、キャリア美人の新サービス「mentee」も成長しています。私自身も、エンジェル投資家兼転職エージェント業を営む経営者として、HR業界、ベンチャー・スタートアップの発展に貢献していければと思います。