YJキャピタル代表取締役 堀新一郎氏
  • 個のエンパワーメント、ワークスタイルの変化、コロナ後“爆伸び”の3領域が成長
  • 大人起業が増加、GovTechの需要が爆発的に生まれる2021年に

激動の1年となった2020年。新型コロナウイルスの世界的流行によって、人々の生活様式は大きく変化し、またそれは大企業からスタートアップまで、ビジネスのあり方も大きく変えることになった。

DIAMOND SIGNAL編集部ではベンチャーキャピタリストやエンジェル投資家向けにアンケートを実施。彼らの視点で2020年のふり返り、そして2021年の展望を語ってもらった。今回はヤフーのコーポレートベンチャーキャピタル、YJキャピタル代表取締役の堀新一郎氏だ(連載一覧はこちら)。

個のエンパワーメント、ワークスタイルの変化、コロナ後“爆伸び”の3領域が成長

YJキャピタルのポートフォリオ企業のExitが叶う、素晴らしい1年でした。パレットクラウドの大阪ガスへのM&A Exit、そしてRetty、Kaizen Platform、ヤプリと3社がIPOしました。

2020年は合計36億円の出資を25社に行いました。新規投資が12社、既存投資先へのフォローオン投資が13社でした。SaaS全盛の時代ですが、2020年に出資した会社の内、B2C企業が7割近く占める結果となりました。

2020年を振り返ると3つの領域が盛り上がっていたと感じます。

1つ目は、「個のエンパワーメント」。YoutuberやInstagramのインフルエンサーの活躍は今では当たり前になりましたが、SNSを通じて情報発信する個人がYoutubeやTwitter、Facebookというプラットフォームだけでなく、新しいクローズドな環境に活躍の場を広げていったと思います。弊社支援先ではゲーム実況SNSのミラティブ、インフルエンサーのファンクラブサービスを手掛けるTHECOO(ファニコン)は今年はとても躍進したと聞いています。YJキャピタルでは本領域に将来性を感じ、音声SNS・音声配信プラットフォームのstand.fmとマンガの新刊情報メディアのアルに出資を行いました。情報発信者とリスナーやファンが様々な形でエンゲージする世界は、現存するコミュニティの形に応じて今後も多様化していくと思います。

そして2020年、コロナは私たちの生活を大きく変えました。2つ目に取り上げたいのが「ワークスタイルの変化」です。オフィス通勤、営業スタイル・営業管理のあり方、セキュリティ対策、組織マネジメント・人事評価、承認フロー(捺印)などコロナが私たちの働き方のあり方を一気に変えました。代表格はなんといってもZoomになりますが、弊社支援先でもオフィス家具のサブスクリプション化を手掛けるsubsclife(サブスクライフ)、営業のオンライン化を助けるベルフェイス、動画ライブイベント演出をサポートするCandeeは緊急事態宣言で法人需要の見通しが悪くなってからもワークスタイルの変化の波にしっかりと乗ることで業績を伸ばしています。変化の波に乗れた会社があった一方、飲食業や旅行業は波に押し潰される最悪の1年だったと言えます。YJキャピタルでは、ここに投資の勝機があると読んで、支援先のサポートを強化しました。

3つ目の領域は「コロナ後の爆伸びサービス」です。人類は絶対にこの苦境を乗り越えます。そして乗り越えた後には、爆発的な需要が戻ってきます。その時のマーケットリーダーと今から準備を進めたい。弊社支援先のコロナ直撃代表企業として真っ先に思い浮かぶアソビュー、そして衣服のクリーニングLenetを手掛けるホワイトプラス。当該領域では、事業撤退の声も沢山聞きます。ここで逃げずに、耐え忍んで、需要復活の波を捉えることができればマーケットシェアを大きく伸ばすことが出来ると信じています。

大人起業が増加、GovTechの需要が爆発的に生まれる2021年に

去年予測した内容(「スタートアップトレンド2020」著名投資家50人が大胆予測!/前編【総予測2020】)を読み返したのですが、まだ実現していない内容が多いと感じました。ただ、大局観はあまりずれていないと思っています(笑)。

折角なのでいくつか予言をしたいと思います。

「大人起業」、始まります

資金調達市場は活況です。シリーズCラウンドで30億円以上の調達が出来る環境にこの2年で大きく様変わりしました。シリアルアントレプレナーの再挑戦にかつてから親交のあるVCが巨額のお金をシードラウンドでも出資する機会をよく見るようになりました。大企業で経験を積んだエース級の人材による、スタートアップ挑戦も今後増えていくと思います。弁護士や医師のスタートアップ挑戦も毎年増えていますが、経験豊富な人材によるスタートアップチャレンジが増え(特に業界特化型SaaS領域)、一つのトレンドになると思います。40才、50才からの起業というケースは米国では一般的ですが、日本でも当たり前の時代に突入するでしょう。

GovTech需要爆発でノーコードとセキュリティがお祭り状態に

2020年9月にはデジタル庁が立ち上がり、2021年10月10日と11日にはデジタルの日が創設されます。行政のDX化は待ったなしです。沢山の優秀な人材が流入するでしょう……いや、はたしてそうでしょうか? 人材は有限です。DX化が思ったより進まないということが起こりえます。人手不足を解決するノーコードのサービスはあらゆるところで導入が進んでいくでしょう。また、オフラインの時はそこまで心配のいらなかった情報セキュリティに対して、否が応でも対応しないといけません。セキュリティ市場はこれまで見たことないほどの需要になると予想します。

副業、じわじわと広がって社会問題にまで発展

副業にチャレンジ・応募したい人材は山ほどいます。しかし、オフィス勤めで副業を行うのは不可能でした。コロナの前までは、副業は本当のごく一部のセグメントで行われている行為でした。しかし、コロナ禍ではオフィス勤務が必須でなくなった人材は通勤時間がなくなったことによって生産性もあがり、副業に挑戦しやすい環境が整ってきました。

2020年10月にはヤフーがギグパートナー制度という外部タレントと新規事業を考える取り組みを開始しました。本取り組みでは応募が沢山集まり、私もその反響に驚きました。今後も様々な副業が増えると思いますが、現在では受け入れ企業側の準備やルールが整っておらず、一部の企業・団体やスタートアップ界隈での導入に限定されています。

しかし、この流れは不可逆なため、多くの企業が副業ワーカーを招聘し、新しいプロジェクトに着手していくと思われます。情報漏えいや勤務時間など多くの課題が出て、社会問題にまだ発展すると思いますが、そういった課題を解決するサービスやプロダクトがさらに登場し、副業を有効活用し味方にすることが出来た企業のパフォーマンスが向上すると期待されます。

2020年に起きた労働環境激変のインパクトの余韻は2021年も続くと予想され、それに伴う新しいサービス・働き方がどんどん誕生する。投資家としては休んでいられない、激動の年になると想像してワクワクが止まりません。2021年は2020年よりも素敵な年にしたいです。一緒に沢山チャレンジしましょう。