エンジェル投資家・柳澤安慶氏
  • コロナ禍で進んだGAFAなど巨大企業の寡占化
  • アンチGAFA、プロシューマーの活躍に期待する2021年

激動の1年となった2020年。新型コロナウイルスの世界的流行によって、人々の生活様式は大きく変化し、またそれは大企業からスタートアップまで、ビジネスのあり方も大きく変えることになった。

DIAMOND SIGNAL編集部ではベンチャーキャピタリストやエンジェル投資家向けにアンケートを実施。彼らの視点で2020年のふり返り、そして2021年の展望を語ってもらった。今回はエンジェル投資家の柳澤安慶氏だ(連載一覧はこちら)。

コロナ禍で進んだGAFAなど巨大企業の寡占化

2020年の投資環境は、コロナ禍でマイナス、DX化でプラス、プラスマイナスゼロといった印象です。GAFAなどの巨大IT企業はコロナ禍を追い風にしており、株式市場もアフターコロナの業績回復局面を期待して高い株価を維持できているうちは、投資環境に大きな変化は起こらないでしょう。

そんな中で、私が注目しているポイントは2つあります。1つはGAFAなどの巨大企業の寡占化がコロナ禍で一気に進んだことです。たぶん5年くらいかけて緩やかに起きることが一気に半年で起きてしまったような状況だと思います。これによってGAFAの収益は伸びるのでしょうが、人々の不満は様々な場面で高まるはずです。一部では独占に対するクレームも出始めていますが、GAFAが最も恐れるのはユーザーの不満なはずです。人間って飽きっぽいですし、ニーズに限界がありませんからね。だとすると、アンチGAFAな芽はすでに足元で育ってきているんだと思います。

2つ目は、「すき間マーケティング」の消滅です。スマホの登場は、いつでもどこでもネット空間に人々を接続させることに成功しました。これによって今まで眠っていた巨大な「すき間」時間が生まれました。この「すき間」を利用してゲームやSNSなどのビジネスが急成長したわけですが、コロナ禍はその「すき間」を奪いました。この流れが、新しい生活様式による一時的なものなのか、それとも人々は、コロナがなくても加速する情報空間に疲れはじめていて、在宅などで生まれた「大きな時間」に回帰しているのか。ここも新しいビジネスを考えるうえで、重要なヒントになるんだと思います。
2020年は、足元の出来事にとらわれず、未来をしっかり考えることができるのかという、アントレプレナーや投資家の想像力が問われた年だったのではないでしょうか。

アンチGAFA、プロシューマーの活躍に期待する2021年

2021年以降に注目すべきは、やはりアンチGAFA的なトレンドだと考えています。私はインターネットに出会って以来ずっと「プロシューマー化」という概念に注目しています。プロシューマーとは生産者(Producer)と消費者(Consumer)を合体させた造語です。

大量生産大量消費時代は、生産者と消費者を分離し、あいだをメディアや流通でつなげるやり方が「足りないモノを隅々まで届ける」方法として合理的だったわけですが、モノがいきわたり、あふれる時代になると、次第に生産者と消費者を分けるやり方がそぐわなくなり、人々は生産者であり消費者でもあるプロシューマーに移行していくという考え方です。

コロナ禍はまさにこのプロシューマー化を加速させたと思います。簡易ECツールなどを利用して、あるいはフリマなどのマーケットプレイスを利用して、消費者である自分が生産したものを販売するという人々が急激に増えています。

複業という考え方もまさにこのトレンドの一部だと思います。自分が持つ技能や情報をいかに商品化して、販売するか。これを支援できるツールや場の提供は今後も大きな市場を生み出すと考えています。

プロシューマーを支援するツールとして、すでにSNSは大きな役割を果たしていると思いますが、SNSはそのビジネスモデルが、大企業(資本家)から広告を通じて資金を得て、消費者に情報を取らせる(あるいは情報を吸い上げる)というものです。これはつまり消費者に大企業が作り出したものを相変わらず届ける仕組みであり、大量生産消費時代の延長だと捉えることもできます。そう考えるとSNSそのものは、本当にプロシューマーの味方なのか? という大きな疑問が生まれてきます。このあたり答えあわせをできるようなビジネスが、アンチGAFAのトレンドともつながって2021年以降のスタートアップから生まれてくると面白いですね。

ネットビジネスでは今後GAFAのような巨大企業を生み出すことは、難しいかもしれません。けれども、小さくて、儲からなくても、しっかりとした人間の生活に根差した本質があり、周囲の人々を巻き込みながら経済を生み出すビジネスモデルがたくさん生まれてくることをいつも期待しています。

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