• 2020年は気候変動・環境問題への危機感が表出した
  • VCは「国策ベンチャー」の創出支援の重要性が増す

激動の1年となった2020年。新型コロナウイルスの世界的流行によって、人々の生活様式は大きく変化し、またそれは大企業からスタートアップまで、ビジネスのあり方も大きく変えることになった。

DIAMOND SIGNAL編集部ではベンチャーキャピタリストやエンジェル投資家向けにアンケートを実施。彼らの視点で2020年のふり返り、そして2021年の展望を語ってもらった。今回はANRIジェネラルパートナーの鮫島昌弘氏だ。(連載一覧はこちら)。

2020年は気候変動・環境問題への危機感が表出した

2020年に大きく盛り上がったと感じるのは「次世代型原子炉」です。次世代型原子炉の中でも特にSMR(小型モジュール炉)は工費が安く、短く、さらには電源喪失時に自然冷却による炉心冷却が可能などのメリットがあり、開発が進んでいる状況です。

アメリカ、中国、ロシアなどで開発が進んでおり、世界で50個以上のSMRが開発中です。その中でも進んでいる、アメリカのベンチャー企業「NuScale」は2020年9月に米原子力規制委員会(NRC)から設計段階の安全認証を取得し、SMR実用化に向けて大きな一歩を踏み出しました。また、Netflixでも出てきた、ビルゲイツが出資し会長を務めるベンチャー企業「Terra Power」の新型炉も2020年代後半には実用化を目指していますが、2020年8月にGE、日立との共同開発を発表しました。

さらには、2020年に猛威をふるった新型コロナウィルスですが、ワクチンの開発状況を見ましても、アメリカ(モデルナ、ファイザー)、ドイツ(ビオンテック)、イギリス(アストラゼネカ)、中国(シノバック、シノファーム)などと比較しても日本勢の開発状況は大きく遅れています。残念ながら日本の科学技術力の低下が露呈してしまいました。

コロナにより我々の生活様式が変化した一方、それに伴い生命維持としてのライフサイエンス・ヘルスケア技術の重要性やこれから人類が直面する気候変動・環境問題への危機感が表出した年だったと感じています。

VCは「国策ベンチャー」の創出支援の重要性が増す

それを踏まえて、2021年以降は本質的に今後人類が直面する気候変動・環境問題を解決するベンチャーや、将来の日本に必要なものの大企業がまだ参入できていない分野における社会課題を解決するベンチャーが益々求められると感じています。

これまでのベンチャーは大企業のインフラや課題を解決することで収益化するケースが多いですが、今後はベンチャー自らが社会インフラを作る、例えば新しい電力会社となる。そういうチャレンジが増えてくるのではないでしょうか。

今後のVCはそのような「国策ベンチャー」を長期的な視点に立って、創出する支援ができるかどうかの重要性が増すと思っています。

実際、日本政府から2050年の温暖化ガス排出ゼロに向けた実行計画「グリーン成長戦略」が発表されました。気候変動は今後世界的にも大きなテーマになることは間違いないと思います。米国では2020年初頭にSequoia Capitalなど大手VCがClimate Tech(気候テック)への強化を発表しましたが、2020年12月にはUnion Square VenturesがClimate Techに特化したファンドを設立するなど、動きが加速しています。

一方、SDGsの前文("heal and secure our planet")にも記載がある通り、人類は今後、気候変動だけではなく、マイクロプラスチック問題などの環境問題にも取り組むべきだと考えています。具体的には、上述のような次世代原子炉(小型モジュール炉や高温ガス炉)、核融合の分野については今後本格的に取り組んでいこうと思っています。

最後に、イーロンマスクがPayPal後にTeslaやSpaceXを創業する時にコメントしていた以下の言葉をお借りして、一人でも多くの起業家の皆さんと共に、地球規模の困難な課題解決に挑み、より良い地球を、2050年の日本の圧倒的な未来造りに貢献しましょう!!

Going from PayPal, I thought: ‘Well, what are some of the other problems that are likely to most affect the future of humanity?’ Not from the perspective, ‘what’s the best way to make money?’(意訳:「儲けるために一番いい方法は何か」という視点ではなく、「人類の将来に最も影響を与えそうな問題といえば何か」を考えた)