Netflix Japan コンテンツ・アクイジション部門ディレクターの坂本和隆氏(左) アニメチーフプロデューサーの櫻井大樹氏(右)
Netflix Japan コンテンツ・アクイジション部門ディレクターの坂本和隆氏(左)、アニメチーフプロデューサーの櫻井大樹氏(右)
  • Netflix、5年での変化
  • 江戸前寿司も出すし、カリフォルニアロールも出す
  • ニッチだけど強烈に興味を持つようなテーマを発掘していく

2015年に日本上陸。この5年で有料会員数が500万人を突破したほか、50作品以上の日本発のオリジナル作品を配信するなど、年々存在感を強めているNetflix(ネットフリックス)。同社は2021年、さらに日本での攻勢を強めていく予定だ。

先日配信がスタートし、すでにシーズン2の制作が決定している『今際の国のアリス』を皮切りに、実写オリジナル作品は2022年までに15作品以上を配信する予定。

禁断の不倫愛をテーマにした『金魚妻』や宇多田ヒカルの「First Love」と「初恋」にインスパイアされた『First Love 初恋』、週刊少年ジャンプで連載された人気バトル漫画『幽☆遊☆白書』などの制作・配信がすでに決定している。

また、アニメ作品も同様にラインナップの拡充を図る。1990年代に週刊少年サンデーで連載され、一世を風靡した伝奇アクションコミック『スプリガン』や「バイオハザード」シリーズの新作アニメ『バイオハザード:インフィニット ダークネス』、映画「パシフィック・リム」のアニメ版『パシフィック・リム: 暗黒の大陸』、『リラックマと遊園地』など数多くのアニメ作品の制作・配信が決定している。

この5年で瞬く間に世間に浸透したNetflix。同社はこの5年を踏まえ、2021年以降どのような戦略で日本市場を攻めていくのか。Netflix Japanコンテンツ・アクイジション部門ディレクターの坂本和隆氏、アニメチーフプロデューサーの櫻井大樹氏に話を聞いた。

Netflix、5年での変化

──Netflixが日本でサービスを開始してから5年が経ちました。

坂本:ここ1〜2年でNetflixは映像制作業界でも市民権を得て、知名度もすごく向上したと思います。それこそ、5年前にサービスを開始した頃は監督やプロデューサー、芸能事務所の人たちと話をする際、最初に「そもそもNetflixとは何か?」を説明し、サービスの特徴や制作プロセスなどをきちんと理解してもらうことからスタートしていました。

ただ、今は状況が180度異なります。特に80年代を舞台にAV監督の村西とおるさんとその仲間たちの青春や熱狂を描いた『全裸監督』を配信してから、私たちのもとに企画のオファーをいただいたり、相談の話をいただいたり、活発にコミュニケーションを取らせていただく機会が増えました。振り返ってみて、魅力的な作品を数多く配信し、それを幅広い人たちに届けられたことで、ここまで成長できたのかなと思います。

また、現在はスタジオ機能の内製化とローカル化を推進しています。ひとつの作品を構想してから配信まで、いろんなチームに支えられている。もちろん私がクリエイティブの統括はしますが、私以外にもプロダクションを管理する人や編集過程をサポートする人など、さまざまなチームで動いています。

こうした動きは5年前にはできなかったことなので、改めて多くのスタッフがNetflixの作品づくりに関わってくれているな、と思います。

櫻井:アニメ作品に関して、数年前まではどうしてもSF(サイエンス・フィクション)系やファンタジー系にジャンルが偏りがちでしたが、ここ数年でギャグ系や日常系
など作品のバリエーションが増えました。ただ、アニメーション作品はどうしても制作に時間がかかってしまいます。

大体ひとつの作品を制作し、配信するまでに3〜4年かかるので、配信の権利を預かるだけでなく、いかにクオリティの高いアニメ制作会社と一緒に制作できるか、が大事になってきます。実際、Netflixは2018年にプロダクション・アイジー、ボンズとのパートナーシップの締結を筆頭に、ここ1〜2年の間に複数のアニメ制作会社と中長期的に作品づくりに向き合える体制をつくることに注力しています。

それこそ、最初はアニメ制作会社にパートナーシップ契約の話をした際も、Netflixは外資系の会社ということもあり、契約書の中身を熟読されるなど警戒されている感じがありました。ただ、アニメ制作会社とのこうしたやり取りも2周目、3周目に入ってきたので、受け入れられ方はだいぶ変わってきたと思います。

「前回と同じですよね」という感じでお互いに契約書のフォーマットをわかっているので、やりとりが早くなり安心してご一緒いただけているのでは、と思います。

坂本:それはやはり、櫻井がアニメ制作の現場を知っているということも大きな要因ですね。現場の制作プロセスを知っていて、アニメ制作業界の現状を理解している。そんな人間が責任者として中に入り、Netflixのリソースを最大限活用しながら、アニメ業界に恩返しをしようとしている。そういう姿勢を見ると、多くのアニメ制作会社は「ただの外資系企業ではない」と思うんじゃないでしょうかね。

(編集部注:坂本氏は映像制作会社で働いた後、2015年にNetflixに入社。一方の櫻井氏も前職はアニメーション製作会社のProduction I.Gで、脚本家・プロデューサーとして活躍した後、2017年にNetflixに入社。2人とも映像・アニメ制作の現場で働いた経歴がある)

櫻井:坂本もそうですが、"現場上がり”というのは信用されているポイントではないでしょうか。テレビアニメ『鬼滅の刃』の制作を手がけたufotableの近藤光社長ともお付き合いがありますが、「櫻井さんはテレビプロデューサーやパッケージ製作会社のプロデューサーではなく、現場上がりだから信用しているし、話をしていても楽しい」と言われました。現場で苦労してきた連帯感を共有することで、仲間だと思ってもらえるんだと思います。

坂本:実写作品でも、「制作進行」が一番現場を走り回るわけです。実際、私も制作進行を経験したことがあるので、隅々まで制作現場の人たちの気持ちを理解しながら、そういう人たちが何を求めているのかまでを考えられるのは作品全体のクオリティをあげることにおいて良い影響があります。

また、日本と海外を含めて、それぞれの国の制作プロセスを理解した上でNetflixにとってベストな制作アプローチは何か、を提案するのも私たちの役割なので、現場で汗水垂らして走り回ってきたバックグラウンドが今に生かされているのかなと思います。

江戸前寿司も出すし、カリフォルニアロールも出す

──アニメ作品に関しては『スプリガン』や『パシフィック・リム:暗黒の大陸』、『テルマエ・ロマエ ノヴァエ』などの作品の制作・配信を発表されていましたが、新規作品は増やしつつ、放送中の作品のライセンスも獲得していくという方針で進めていくのでしょうか?

櫻井:そうですね。いま流行っている作品に関してはきちんと届けられるようにしていかなければいけない、と思っています。そういう意味では、従来のアニメファンを満足度を高めることも戦略の柱として重要ですが、一方で今までアニメを見ていなかった人たちも世界規模で取り込んでいける機会が大いにある、と考えています。

また、世界に目を向けるとアニメ作品は意外と"日本風の味付け”ではない作品が好まれる傾向も見えてきていて。『悪魔城ドラキュラ -キャッスルヴァニア-』や『ゼウスの血』などが良い例です。日本のアニメが好きな人たちからは「これはアニメなんだろうか?」と思われるかもしれないのですが、世界的には評価が高く、たくさん視聴されています。

こういった作品は「寿司」で例えるならば、カリフォルニアロールですね。カリフォルニアロールによって寿司が世界にも認知され、すそ野が広がっていったように、アニメも世界の人たちに向けてカルフォルニアロールのような作品を提供する必要があります。だからこそ、Netflixは伝統的な江戸前寿司も出しますし、カルフォルニアロールも出す。

そのためにインターナショナルな制作チームもつくっていますし、他にも監督が日本人だけど制作会社が海外や、逆に監督が海外の人だけど制作会社は日本といったように、いろんなバリエーションで制作していければと思います。今までドメスティックな制作チームで固まっていたのを壊し、なるべく世界のお客さんにも食べやすい形にしてアニメ作品を提供したいと思っています。

そうすることでカリフォルニアロールから入ったお客さんがゆくゆくは伝統的な江戸前の寿司にたどり着き、江戸前寿司の再評価に繋がるかもしれません。そういった形で、お客さんの幅を拡大していければと思います。

──実写作品については、いかがでしょうか?

坂本:先日発表しましたが、実写オリジナル作品に関しては2022年までに15作品以上を配信し、さらにラインアップを拡充させていく予定です。制作を手がける作品のテーマは具体的に決まっていませんが、まんべんなく様々なジャンルに挑戦したいと思っています。

例えば、『全裸監督』と同じようなテーマの作品は手がけるつもりはありません。それよりも、まだ世の中に語られておらず、実写でアプローチできていないテーマは何かを考えて作品を構想していきたい。そこへの欲求が何よりも強いですね。

──Amazon Prime Videoが配信している『バチェロレッテ・ジャパン』が話題を集めたように、日本でリアリティーショーはドル箱コンテンツだと思います。Netflixは海外発の『ザ・ジレンマ: もうガマンできない?!』や『ラブ・イズ・ブラインド ~外見なんて関係ない?!~』が人気ですが、日本発のリアリティーショーは今後考えられているのでしょうか?

坂本:日本の市場だけを見るとゴールデンタイムのテレビ番組の70%はバラエティ番組で構成されている。それを考えると、リアリティーショーは日本人の生活リズムや視聴リズムに合うジャンルだと思っています。

今後3年先を見たときに、日本でもNetflixの良さを提示した形で、より多くのリアリティーショーは作っていきたい思いはあります。

──また、2020年は韓国ドラマの視聴数が6倍以上に伸びるなど、韓国ドラマブームが巻き起こりましたが、それについてはどう捉えていますか?

坂本:今は“第4次韓流ブーム”と言われていますが、もともと日本の人たちの生活習慣に韓国ドラマは入り込んでいたんだと思います。

それがNetflixのように韓国ドラマを見やすいサービスが出たことで、触れる距離がさらに近づき、改めて多くの人に視聴されたのではないか、と思っています。

ただ、これは韓国に限らず違う国でも起こることで、いきなりスペインや台湾の作品がすごく人気になるかもしれない。そういう意味で、作品の多様性もNetflixの魅力のひとつになっていると思います。

ニッチだけど強烈に興味を持つようなテーマを発掘していく

──Netflixは2021年にアジアのオリジナルコンテンツ向け支出を2倍に増やす計画である、と報じられました。日本の実写オリジナル作品、アニメ作品にかかる期待も大きいと思いますが、来年以降の抱負を最後に聞かせてください。

坂本:Netflixの強みは全世界に約2億世帯の視聴者がいることです。その強みを存分に生かしながら、メジャーなジャンル、ニッチなジャンルを含めて面白いストーリーを作っていければと思います。例えば、『クイーンズ・ギャンビット』は良い例です。

“チェス”がテーマの話ですが、配信開始から28日で過去最高の6200万世帯が視聴したほか、63カ国では総合TOP 10で1位に輝いています。そういう意味では、相撲の裏側をテーマとした作品は「サンクチュアリ -聖域-」は面白いことになるのではないか、と期待しているところです。メジャーなジャンルではないけれど、3000万世帯くらいの視聴者が強烈に興味を持つようなテーマを今後も発掘していきたいですね。

櫻井:『バキ』が約50カ国で総合TOP 10入りしたり、『7つの大罪』が70カ国以上で総合TOP 10入りしたり、アニメ作品が世界で総合TOP 10に入ることは今や珍しいことではなくなっていて。ブレイクスルーが起きているな、と思います。

一方で先日、カプコンの大ヒットゲーム作品「ドラゴンズドグマ」を題材にした作品を配信し約15か国でのTOP10に入りました。世界のお客様のニーズはまだまだ勉強中で、年々成功のハードルが上がっているな、と感じています(笑)。

ただ、今後も多くの人に楽しんでもらえるアニメ作品を数多く配信できるように、社内外のクリエイティブと年上や年下など関係なく自由にディスカッションしながら、作品づくりを続けていきます。

坂本:数字はあまり気にせず、純粋に良い作品をどうすれば見やすい形で楽しんでもらえるのか。Netflixはそれを全員が集中して考えているので、数字的なノルマを達成すること以上に、引き続き良い作品づくりに集中していくつもりです。ぜひ今後配信される作品を楽しみにしてもらえれば、と思います。