• 設立から1年足らずの“意識高くない系”家電メーカー
  • 家電の仕入れから独自ブランド立ち上げへ
  • 最初の製品は巨大わたあめの製造機
  • 「インスタント焼きそば、実は焼いてない」会話がヒットの契機に
  • 社員の「やってみたい」も製品化
  • 新製品「家庭用コーヒー豆焙煎機」は3700万円以上を集める

カップ焼きそば「ペヤング」専用ホットプレート、30センチサイズの巨大わたあめメーカー、3600万円以上を集めるコーヒー豆焙煎機――斬新な商品を次々に生み出し、クラウドファンディングサービスを通じてヒットさせているのが、大阪発の家電メーカー・ライソンだ。同社の製品開発に対する思いを代表取締役の山俊介氏に聞いた。

ライソン代表取締役の山俊介氏(左)と企画課の柏原清享氏(右)ライソン代表取締役の山俊介氏(右)と企画課の柏原清享氏(左) Photo by Yuko Nonoshita

設立から1年足らずの“意識高くない系”家電メーカー

 市場にはまだ存在しないが、人によっては強烈に「欲しい」と感じる――そんなニッチな商品を作り出すため、企画者がオンラインで支援を募る「クラウドファンディング」を利用するケースがこの数年で急増している。もともと多かったスタートアップのみならず、大手メーカーもクラウドファンディングを通じてさまざまな商品のプロジェクトを公開しており、販路の1つとして利用するケースも目に付くようになってきた。

 そんなクラウドファンディングで、1年足らずの間に4つのプロジェクトを公開し、全て目標額を達成しているのがライソンだ。資本金は約2000万円で社員は20人以下という小さな会社ながら、家電製品や日用品、アウトドア用品など、SNSで話題になる商品の企画開発から販売まで手掛けている。

 ライソンの本社は大阪府東大阪市。町工場が多い地域で“何でもつくれるモノづくりのまち”として知られるだけに、大企業にはない高い技術力を持つ、意識の高い家電スタートアップと思いきや、オリジナル製品を開発するようになってまだ1年足らず。代表取締役の山俊介氏も「昨年なりゆきで社長になったばかり」と語る。

家電の仕入れから独自ブランド立ち上げへ

 ライソンが誕生したのは昨年5月。さかのぼると、音響部品の製造会社として1954年にスタートした吉名工作所がそのルーツ。同社はその後ピーナッツ・クラブに社名を変更。アミューズメント施設やディスカウントショップ、家電量販店向けに商品の企画やデザイン、卸販売を手掛けてきた。自社ブランド製品の企画開発卸部門を立ち上げるため、ピーナッツ・クラブの家電事業を会社分割したのがライソンだ。

「もともと私はグループ会社に入社して、おもに中国から家電を仕入れて、日本向けに仕様やデザインを変えてドン・キホーテや家電量販店などへ卸す仕事や、クレーンゲーム機の景品を開発する仕事を担当していました。ですが、ある日上司から『新しい家電ブランドを立ち上げる』と言われ、社長を任されることになったんです」(山氏)

 社員は営業7人、貿易担当者4人、日本向けに商品のアレンジやパッケージ制作を手掛けるデザイナーが3人のほかは事務だけという小さなチーム。だが元大手家電メーカー出身の社員もおり、中国の家電製造工場と協力して日本向けに販売する仕事を何年も手掛けてある程度ノウハウも蓄積していたため、勝算があると判断した。ちなみにライソンという社名は、「LIFE(生活)」と「MARATHON(マラソン)」をつなげた造語だ。生活の中でより快適に、より長く使っていただける製品を作るという意味が込められている

最初の製品は巨大わたあめの製造機

 折しも、アイリスオーヤマやニトリが安くてシンプルな生活家電を自社ブランドで販売して売り上げを伸ばしていたタイミング。新ブランドの差別化をはかるため、話題になる商品を売ろうと考えた。もちろん話題になるだけではなく、売れることが大前提。挑戦的ではありつつも、過去に人気を集めた家電をベースにした企画を選んだ。それが、直径が30センチメートルもある巨大わたあめ製造機「ジャンボわたあめ屋さん」だった。

ライソン初の製品となった「大きなわたあめ屋さん」ライソン初の製品となった「ジャンボわたあめ屋さん」 Photo by Yuko Nonoshita

「販売も今までの卸しとは異なるルートを開拓するため、初めてクラウドファンディングサービスの『Makuake』を使いました。資金を集めるというよりプロモーションが目的で、狙いどおりSNSなどでも話題にもなり、目標金額30万円のプロジェクトに約150万円が集まりました」(山社長)

「インスタント焼きそば、実は焼いてない」会話がヒットの契機に

 クラウドファンディングを通じた販売に手応えを感じたライソンは、次も話題性の高い商品を企画。インスタント焼きそば「ペヤング」の調理に特化したホットプレート「焼きペヤング専用メーカー」を開発してクラウドファンディングサービスの「Readyfor」に掲載したところ、50万円の目標に対して500万円以上が集まる大ヒットになった。

「社員飲み会で『インスタント焼きそばって実は焼いてないよね』という話をしたのが開発のきっかけ。そこから実際に焼いてみて、社員の間で一番美味しいと評価されたインスタント焼きそば『ペヤング』に合わせて、1人用ホットプレートを開発することになりました」(山社長)

 インパクトを出すため、名称も「インスタント焼きそば専用」とはせず、「焼きペヤング専用」にし、“世界初”と冠することも狙った。グループ会社を通じてペヤングを製造するまるか食品の社長に相談したところ、開発やネーミングについても快諾。以後の商品化もスムーズにできた。

「焼きペヤング専用ホットプレート」 Photo by Yuko Nonoshita「焼きペヤング専用メーカー」 Photo by Yuko Nonoshita

社員の「やってみたい」も製品化

 それまでは次のヒット作を考えるため、毎月社内で企画会議を開いていたライソンだが、ホットプレートの成功を機に、「次の製品は社員が面白いと思って、やってみたいものだけ作ろう」となった。そこで誕生したのが「ショベルカーも壊せない」とうたうクーラーボックス「インペリアルクーラーボックス」である。

「とにかくアウトドア商品が大好きという社員の『どうしてもやってみたい』という熱意をくんで開発したんですが、まさか本当にショベルカーが踏んでもつぶれない商品ができるとは思ってませんでした」と、山社長は開発当時を振り返る。クラウドファンディングでは200万円の目標に対して約2倍の金額が集まり、現在でもEコマースなどで人気の商品になっている。

「インペリアルクーラーボックス」 Photo by Yuko Nonoshita右手前が「インペリアルクーラーボックス」 Photo by Yuko Nonoshita

新製品「家庭用コーヒー豆焙煎機」は3700万円以上を集める

 今年3月15日にクラウドファンディングを始めた家庭用のコーヒー豆焙煎機「ホームロースター」は、初めて社外から依頼を受けて企画した製品だ。

「数年前に業界で知られるコーヒー店のオーナーから焙煎機を開発したいと相談されたのですが、当時は技術や価格が合わずお断りしていました」(山社長)

 これまでのコーヒー豆焙煎機は、100万円以上する業務用の大がかりなものか、もしくは家庭用でも非常に高価なものがほとんどだった。専用の焙煎機を使わなくとも焙煎自体はフライパンでできるが、火加減が難しく、長時間振り続けるなどして豆を均等に焙煎するのはかなりの手間だ。さらにチャフ(微細なゴミ)も飛び散ることから、掃除も必要になる。

 こういった課題を、ポップコーンメーカーをベースとした専用の機器を設計することで解決した。現在Makuakeに掲載中の同製品には、4月18日時点で3700万円以上の資金が集まっている。

クラウドファンディングサービス「Makuake」で3700万円以上を集める「ホームロースター」クラウドファンディングサービス「Makuake」で3700万円以上を集める「ホームロースター」

 ヒット作を次々に飛ばすライソンだが、社内では企画とデザインに集中しており、製造自体はライソン設立以前から発注している中国の業者が担当している。「すでにある商品をベースにした方がコストも機能も追求できるのがその理由」と山社長は言う。

 ライソンでデザインを担当する企画課の柏原清享氏もその点には同意しており、「子どもからお年寄りまで誰もが簡単に長く使ってもらうためにも、パーツを減らして機能をシンプルにすることでコストを落とし、どんな家にもなじむデザインを心がけています」と話す。

 毎年1000点以上が開発されるといわれる家電製品だが、山社長は「まだまだ新しい製品を開発できるはず」と答える。「10人しか欲しがらないと思っていたけれど、作ったら100人が欲しいと思ってくれた。そんな商品を作り続けたいと思っています」