
- レイトステージの資金調達機会の多様化が際立った2020年
- 海外投資家から短期間に資金を調達するABBが浸透
激動の1年となった2020年。新型コロナウイルスの世界的流行によって、人々の生活様式は大きく変化し、またそれは大企業からスタートアップまで、ビジネスのあり方も大きく変えることになった。
DIAMOND SIGNAL編集部ではベンチャーキャピタリストやエンジェル投資家向けにアンケートを実施。彼らの視点で2020年のふり返り、そして2021年の展望を語ってもらった。今回はレイターステージ向けグロースキャピタル「The Fund」を運営するシニフィアン共同代表の朝倉祐介氏だ(連載一覧はこちら)。
レイトステージの資金調達機会の多様化が際立った2020年
シニフィアンでは、上場後もスタートアップが継続的な成長を実現することを目指し、レイトステージ・スタートアップに対するリスクマネー提供、並びにIPOを跨いだ経営面でのエンゲージメントを行う、グロースキャピタルを運営しています。
上場後も継続的な関与を前提にしたグロースキャピタルの観点から見ると、2020年はPost-IPOスタートアップの躍進、上場後の資金調達手段の広がり、マザーズを代替するレイトステージの資金調達機会の多様化が際立った1年でした。
コロナ禍を契機として、2020年はあらゆる産業のデジタル化、オンライン化が非連続的に進みました。こうした中、2020年はコロナ起点の社会変容を受けて、多くのPost-IPOスタートアップが大きな飛躍を遂げています。例えば、BASEの第2四半期決算説明では、四半期GMVが前年同期の3倍にまで急拡大したことが話題を集めました。
また、各国政府の金融緩和による世界的株高を背景に、Post-IPOスタートアップの存在感もより大きくなっています。2019年には64社の企業がマザーズにIPOしていますが、そのうち、Freee、JMDC、Sansanなど、8社の時価総額が1000億円を超えています。(2020年12月25日終値ベース)
期待感が先行した市況であることに注意が必要ですが、未上場スタートアップの評価額が高まる中、上場後も着実に評価を高める大きなPost-IPOスタートアップの出現に、潮目の変化を感じます。
こうしたPost-IPOスタートアップ躍進の背景には、上場後の資金調達手法の広がりも関係しています。従来、マザーズ上場企業の資金調達機会は限られており、その調達手法も多くはワラントの第三者割当によるものでした。ところが2019年以降、PKSHA Technologyとティーケーピーの200億円規模の公募増資など、大規模な資金調達が増えつつあります。
海外投資家から短期間に資金を調達するABBが浸透
2020年において特筆すべきは、一般的な公募増資よりも短期間に資金を調達する手法であるABB(アクセラレーティッド・ブック・ビルディング)が急激に浸透したことでしょう。メドレー、ユーザベース、マネーフォワードといったPost-IPOスタートアップが、ABBによって海外投資家を対象に数十億円から100億円超の資金を調達しています。
上場後の資金調達手段の広がりは、まだまだ発展過程にあるPost-IPOスタートアップの成長を後押しする変化と言えるのではないでしょうか。
Pre-IPOにおいても、2020年はレイトを中心に、資金調達環境に大きな変化が生じました。
昨年の寄稿記事でも、大規模資金を投入できる非伝統的ベンチャー投資家の参入について触れましたが、この傾向がさらに加速しつつあります。
具体的には、既存VCの大型化によるフォロー投資の拡充、セコイア・チャイナなどの海外VCやPEファンドなど、オルタナティブ投資家の新規参入、フィデリティ、農林中金といった機関投資家のクロスオーバー投資、JICをはじめとした大型の新規投資家の参入など、資金提供者の広がりが見られます。
日本においては長らくマザーズ市場への上場がレイトステージの資金調達手段を代替している状況が続いていましたが、スタートアップにとってはマザーズ上場とは異なる例とステージでの資金調達・流動化の手法が揃いつつあります。
未上場・上場後の両フェイズにおいて、成長資金を調達する機会が広がってきたことにより、2020年は日本のスタートアップがより存在感を持つプレイヤーになるための条件整備が進んだ1年であったと言えるのではないでしょうか。