石井貴基
  • コロナ禍が後押しした“国民総DX”
  • 5年後に向けて、AR業界への“仕込み”の時期

激動の1年となった2020年。新型コロナウイルスの世界的流行によって、人々の生活様式は大きく変化し、またそれは大企業からスタートアップまで、ビジネスのあり方も大きく変えることになった。

DIAMOND SIGNAL編集部ではベンチャーキャピタリストやエンジェル投資家向けにアンケートを実施。彼らの視点で2020年のふり返り、そして2021年の展望を語ってもらった。今回は千葉道場ファンド 取締役パートナーの石井貴基氏だ(連載一覧はこちら)。

コロナ禍が後押しした“国民総DX”

2020年の総括は「新型コロナウイルス」というワード抜きでは語れませんが、日本全体がDXする強烈な後押しになりました。

スタートアップシーンにおいては、(一部壊滅的な被害を受けている業種はあるものの)「国民総DX」ともいえる大波に乗りやすいポジションにいたのかなと思っています。

医療や教育、行政などにおいては、DXが5年以上進んだような体感もあり、特需に沸いたスタートアップも見受けられます。また、コロナの影響でオンラインでの商談が一般化しましたが、早いタイミングからウェビナー等を活用したセールスに切り替えていた企業は、コロナ前より営業成績が伸びたという事例もありました。

新型コロナウイルスには一刻も早く終息してほしいものの、あと1、2年は続く前提で事業に向き合うほうが良いのかなと考えています。

次に投資環境について。VCと事業会社それぞれに触れると、VCについては緊急事態宣言前後の時期に一旦投資を止めて様子を見ていたVCも一部あったようですが、2020年を通して振り返るとおおむね例年通りかそれ以上の投資が行われていたのではないかと思います。

一方、CVC・事業会社については業種・業態によって本業に大きな影響受けた会社があり、昨年まで活況だったオープンイノベーション軸での投資は前年よりも減ったように感じています。

その影響で前回ラウンドを事業会社主体で行っていたスタートアップが、事業成長しているにも関わらず、フラットラウンドに近い水準でVCから資金調達をした事例もいくつか見受けられました。

5年後に向けて、AR業界への“仕込み”の時期

2021年のトレンド予測として(1)ソーシャルEC、(2)地方スタートアップの活性化、(3)AR業界の発展という3つを挙げたいと思います。

ソーシャルEC

2019年は私たちの投資先でもあるカウシェやhoursなど、ソーシャル×ECという文脈の新しいサービスがいくつか立ち上がりました。中国では拼多多によって生み出されたソーシャルECという巨大市場がいよいよ日本にも普及し始めると考えています。

日本においては2010年代にメルカリという巨大なECプラットフォームが生まれましたが、2020年代を代表するソーシャルECが立ち上がるのは、まさに来年くらいでのタイミングはないでしょうか。

どのようなプレイヤーが、どんな戦略で勝ち切るのか。非常に注目度が高い領域であると考えています。

地方スタートアップの活性化

続いて2つめに挙げたの地方スタートアップについて。コロナの影響で都心部から地方に人材が移動しています。エンジニアやデザイナーなど、リモートで働きやすい職種の方にとっては、ライフスタイルに合わせてより柔軟に住まいを選択できるようになったと感じています。

この流れが加速すると、地方スタートアップの弱点でもある「優秀な人材の採用」が解消できるのではないかなと感じています。

具体的には、地方においてオフラインでの交流も増えるでしょうし、フルリモート勤務前提での採用が進めば、地方のスタートアップであっても東京のスタートアップと同じ環境で採用活動を行えるようになるのではないでしょうか。

コロナの影響で地方移住やリモートワークや進むことで、地方からも素晴らしいスタートアップが産まれることを期待しています。投資家としても、地方出身の元起業家としてもご相談にも乗りたいです。

AR業界の発展

最後に、2021年以降の話になるかもしれませんが、昨年もこのコーナーで触れたARを挙げさせていただきます。

個人的には2020年代で一番大きな地殻変動となりうるのがARだと感じています。2020年末に発売されたiPhone 12ProシリーズにはLiDARスキャナが実装されました。自動運転技術にも活用される距離測定センサーですが、ついにiPhoneのハイエンドシリーズに実装されました。これが今後広く普及することでARの活用シーンが一気に広がり、またコンテンツもリッチになると予想されます。

2022年〜2025年くらいに本命となりうるARグラスが出るという予想もありますので、今のうちからその時代に求められるサービスを仕込んでおくとのはタイミングとして悪くないと考えております。