• 巣ごもり消費で加速するECやオンライン教育
  • あらゆる産業のデジタル化は不可逆なトレンド

激動の1年となった2020年。新型コロナウイルスの世界的流行によって、人々の生活様式は大きく変化し、またそれは大企業からスタートアップまで、ビジネスのあり方も大きく変えることになった。

DIAMOND SIGNAL編集部ではベンチャーキャピタリストやエンジェル投資家向けにアンケートを実施。彼らの視点で2020年のふり返り、そして2021年の展望を語ってもらった。今回はW ventures代表パートナーの新和博氏だ(連載一覧はこちら)。

巣ごもり消費で加速するECやオンライン教育

2020年のW venturesとしての投資活動は、結果的には新型コロナの影響をあまり受けず、2019年よりも早いペースで約20社への新規投資と6社への追加投資を実行しました。アイ・マーキュリーキャピタルと合わせて合計50社強の投資先の中から見られる実績ベースの傾向をいくつかお伝えしたいと思います。

巣ごもり消費で加速するEC化は生活必需品以外でも加速

新型コロナの影響で特に生活必需品・日用品のEC売上が伸びたと言われていますが、それ以外の領域でもしっかりと追い風を受けました。ハンドメイド雑貨のCreema、おやつの定期便snaq.me、高級スニーカーC2Cのモノカブ、トレーディングカードC2Cのmagiなど、生活必需品ではない領域の商材を扱うECにおいても注文件数、売上高等はコロナ以降目覚ましい成長を遂げています。

家中消費、巣ごもり消費の需要増加

インテリアCGMのRoomClip、学習SNSのStudyplusなどの屋内での利用や消費のためのサービスで、アクティブユーザーが文字通り爆増しました。また、家電レンタルECを手掛けるRentioにおいては、従来は旅行やイベント時に使うカメラが主力商材でしたが新型コロナ以降はカメラの売上比率が激減、一方で調理や掃除家電の比率が急増して、トータルでは2019年を大幅に上回る注文件数で推移しました。

エンタメのオンラインシフト

リアルイベントが難しくなったコロナ禍において、オンライン上でコミュニケーションしながら楽しむエンタメサービスが順調に成長しています。スマホゲーム専用ボイスチャットサービスのパラレルや、アバターでカラオケ配信ができるtopiaの滞在時間が大きく伸びました。またVtuber事務所Re:actを運営するmikaiやHADOを運営するmeleapについてはリアルイベント中止の影響で一時的にダメージを受けましたが、オンライン配信で投げ銭によるマネタイズに舵を切って盛り返してきています。

コロナ禍という緊急事態で暗い話題が多く我慢を強いられる状況において、奢侈品やエンターテインメントで心を満たすこと、オンラインで誰かと繋がることの価値が再確認できたと感じています。

あらゆる産業のデジタル化は不可逆なトレンド

2020年は、今まで暗黙の了解として受け入れられていた価値観が大きく覆された1年だったと思います。オフィスへの定時出社は全員必須、打ち合わせは対面という原則が真逆に振れ、巨大かつ安定していると思われていた産業や大企業ですら危機に晒されています。そんな状況で迎える2021年は以下のようなトレンドが加速していくと考えています。

働き方の多様化

「大企業=安泰」という図式が幻想であることが分かった今、1つの会社に定年までお世話になる、という感覚での働き方が衰退していくでしょう。自分の身は自分で守る、変化への対応力が大事だという考え方が広がると思います。正社員という立場は相対的に価値を下げ、自分の腕で稼ぐ個人事業主や副業という働き方がより注目を浴びることになると思います。既存投資先では、フリーランス美容師をエンパワーするGO TODAY SHAiRE SALONや、副業・転職のキャリアSNSを提供するYOUTRUSTはこのトレンドの中心に位置していると考えており、2021年の飛躍的な成長を期待しています。

自分や家族のための消費

同調圧力的な自粛ムードで行動範囲も限定的にならざるを得ない状況が続くと、自己顕示欲や承認欲求を満たすための消費が減り、自分や家族に向き合う時間が増えるため、そのための消費が増えていくと考えられます。既存投資先では、歯科矯正のDPEARLを提供するフィルダクト、美容医療の口コミ・予約のトリビュー、女性向けヘルスケアブランドILLUMINATEを提供するKOHKOH、食事面から健康サポートを行うGRITがこのテーマに該当します。また、今や家族の一員であるペットに対する消費・投資も同様に進むと考えられ、首輪型IoTデバイスで愛猫の行動や健康を見守るCatlogの普及にも期待しています。

セーフティネット的な役割でスケールするサービス

新型コロナが追い風となって成長が期待される投資テーマがある一方で、目を背けてはならないのが経済的、精神的に困窮している方たちが急増していること。失業率、廃業率、DVの相談件数や自殺者数の増加が示す通り、各所でネガティブな影響が出てきているため、そういった方たちを救うセーフティネット的な役割を担うサービスが求められていると感じます。一般層の就業支援やメンタルヘルスのケア、資金面でのサポートといった切り口で、スケールする仕組みを構築できるスタートアップは積極的に支援していきたいですし、既存投資先では、質屋のDXという切り口で新たな資金提供の仕組みを作り出したガレージバンクなどはその一翼を担えると考えています。

新型コロナは一過性かも知れませんが、あらゆる産業のデジタル化、オンライン化は不可逆的なトレンドなので、スタートアップにとっては変化についていけない大企業を一気にひっくり返して産業全体をアップデートできるチャンスだと思います。