
- 本質が露呈し、強制的なゲームチェンジが強いられた2020年
- 2021年は「個人の感情の行方」、「DXの先のデジタル融合」に注目
激動の1年となった2020年。新型コロナウイルスの世界的流行によって、人々の生活様式は大きく変化し、またそれは大企業からスタートアップまで、ビジネスのあり方も大きく変えることになった。
DIAMOND SIGNAL編集部ではベンチャーキャピタリストやエンジェル投資家向けにアンケートを実施。彼らの視点で2020年のふり返り、そして2021年の展望を語ってもらった。今回はジャフコ パートナーの北澤知丈氏だ(連載一覧はこちら)。
本質が露呈し、強制的なゲームチェンジが強いられた2020年
2020年は新型コロナウィルスの訪れによって、良くも悪くも本質が露呈した年だと感じました。 法人向けにおいては、必然性の無いコト・モノの優先順位は下がる一方でした。しかし真に求められていたものは、従来の商慣習や慣例を取り払い、想像以上のスピードで浸透が進みました。
特に、コロナによって強制的にゲームチェンジを迫られた業界を対象としたサービスを展開している先においては急速な成長を実現した企業も多々があったかと思います。例えば、塾の開講が困難になる中でAIやオンラインを活用して新たな学習方法を提供する「atamaplus」や、物流や製造プロセスにおける無人化をロボティクスで推し進める「MUJIN」などが挙げられます。
また、個人の生活習慣や行動様式が変化したことにより、さまざまなサービスが出現し、成長しました。特に、行動制限がかかる中で、家での過ごし方に豊かさを求めた結果、急速にニーズの増えたコンテンツ配信や各種ECが飛躍しました。
その一方で、法人に比べて行動制約の弱い個人においては、リアルへの戻りが相対的に早く動いたのも印象的でした。リアル体験の強さを改めて感じる年でもあったと思います。 混迷を極めた環境の中で、ジャフコとしても出資先、スタートアップ業界にどのように貢献していくのかをしっかりと見つめる良い年でした。対面や展示会での営業が困難になる中で、出資先の営業・売上実現を後押しするため、社内データベースを整理し、オンラインでの展示会、交流会を弊社主導で開催、2000名以上の集客を行いました。
また資環境に不透明さが出る中で、スタートアップへの向き合い方を正しく伝えるためのブランディングの変更など、コロナ環境だからこそ、高められたことが多々あった1年でした。
2021年は「個人の感情の行方」、「DXの先のデジタル融合」に注目
「個人の感情の行方」、「デジタル統合を中心としたニューテクノロジーの進化」の2つの点で、新たな領域・プロダクトの出現・発展を期待しています。
1つ目の、個人の感情ですが、2020年の振り返りで書いた通り、コロナ後は従来当たり前に行っていた行動が困難になる中で、オンラインを中心に代替手段の模索が行われました。一方で、代替手段では補い切れてない個人の感情がまだまだ多く残されていると感じております。今までとは違う行動、周囲との隔離によって生まれた孤独感や不安や不満、リアルで満たしていたけれど満たされなくなった欲求の行き先として、2020年のコロナ禍の延長で成長軌道に乗るサービスが出現するものと考えています。
満たされなくなった人々の欲求の行き場として、端末普及も加速し始めたVRや、生活習慣の変化によって、リアルで失った人との関係性や欲求をオンライン上で満たす次世代のSNSなどの出現に期待しております。
2つ目は、デジタル統合によるディープテックの更なる進化です。2020年はコロナによって各社がDXを推進しましたが、その更なる先として、デジタルを融合することによって従来では参入困難だった領域での新たなテクノロジー・スタートアップの成長・出現を期待しております。
デジタル化による各プロセスの効率化は全体の費用の低下を生み、これまでコストバランスの取れなかったテクノロジーのビジネス化を実現します。例えば、AIを中心としたソフトウェアの下支えにより、低コストのレーダー衛星を開発・サービス化する「Synspective」や、脳画像を筆頭に人の情報を解析し日本の社会課題である認知症にアプローチする「Splink」などがあげられます。
2020年はゲノム編集が話題になりましたが、ゲノム編集やDNA合成を駆使した合成バイオといった膨大なアプリケーションが期待される領域もデジタル化により急速に一般化されるものと考えています。コロナをきっかけにあらゆる領域で浸透ハードルが下がったデジタルが、テクノロジー自体の進化を後押し、その結果生まれる新たなテクノロジー・スタートアップに期待しております。