大前創希
  • 省力省人化とドローン・ロボット活用のニーズが合致した2020年
  • ドローンの社会実装に向けて重要な4つの動き

激動の1年となった2020年。新型コロナウイルスの世界的流行によって、人々の生活様式は大きく変化し、またそれは大企業からスタートアップまで、ビジネスのあり方も大きく変えることになった。

DIAMOND SIGNAL編集部ではベンチャーキャピタリストやエンジェル投資家向けにアンケートを実施。彼らの視点で2020年のふり返り、そして2021年の展望を語ってもらった。今回はドローンファンド 共同創業者/代表パートナーの大前創希氏だ(連載一覧はこちら)。

省力省人化とドローン・ロボット活用のニーズが合致した2020年

2020年はコロナウイルス感染症の拡大を受けて、デジタルトランスフォーメーション(DX)や省力省人化の流れを特に感じた年となりました。ドローンファンドはドローン・エアモビリティ特化型のファンドを運営しているVCですが、今年の後半は特にこの“省力省人化” と“ロボット活用” のニーズが合致したこともあり、各方面で今まで人間が実施していた作業を、ドローンやロボットを活用したソリューションに置き換えていくニーズが大きくなっていったと感じました。

いくつか例を挙げるとするなら、FullDepthの水中ドローンを始めとした海中やダムの水中内点検など、定期的に実施する必要がある点検業務を人からロボットに切り替えていくといったことや、ANAが実施した五島列島の物流ドローン実証を始め全国各地自治体にて活発なドローン物流の実証実験を実施してきた事、更に年末に近い時期では山梨県小菅村とエアロネクストが連携協定を結び、ドローン物流の定期ルートを策定するなど、今まさに必要としている現場でのドローン利活用シーンが増えていった年だったと感じております。

背景には経済産業省の「空の産業革命に向けたロードマップ」で2020年目標とし、2020年まさに活動が活発に行われた、無人地帯における目視外飛行(レベル3)の実証実験や、「2022年に有人地帯での補助者なし目視外飛行(レベル4)を実現させる」といった大きな国の目標設定があると言えます。このレベル4という状況を簡単に説明するなら、都市部で第三者上空を、操縦者が目視で確認しない自動自立的な方法でドローンが飛ぶといった事を意味します。

この状況に至るためには未だ多くの課題を解決する必要がありますが、実際の空の利用を活発化させようと考えた場合、2020年は目標達成における極めて重要なターニングポイントとなる年でした。また、新型コロナウイルスの影響が社会に色濃く影を落としていった上半期から、ある程度社会活動を再開した下半期の動きとなっていった際に、インフラの維持や新しい生活様式といったテーマ性と、省力省人化の方向性としてのドローンの可能性が重なったという事がありました。

また、エアモビリティ領域においてもメモリアルイヤーとなりました。2020年8月にSkyDriveが日本国内で初となる、パイロットが搭乗して操縦しないエアモビリティの有人飛行に成功した事で、世界中で開発競争が加速してきている“空とぶクルマ”領域に、ようやく日本も本格的な参入が始まりました。SkyDriveは日本政策投資銀行をはじめとして、伊藤忠商事や ENEOS、大林組など多くの国内有力企業からの39億円の調達を成功させ、資金力と合わせて各方面に強力な支援体制を構築出来たことから、国内における空とぶクルマの実現性も強く感じられる年になりました。

ドローンの社会実装に向けて重要な4つの動き

2021年のドローン産業における短期的かつ中期的なトレンドとしては、各方面における法整備や方向性の検討がようやく固まってきた事もあり、「社会実装が加速する年となる」と考えています。特に2022年が日本におけるドローン利用加速の重要なタイムラインとなっている事から、その前年となる2021年は具体的な課題解決を目指していく重要な年となり、大きくは4つの動きを見ていく必要があると考えています。

1つ目は、2020年12月に国土交通省から発表のあった「操縦者の技能に関する証明制度(操縦ライセンス)」および「機体の安全性に関する証明制度(機体認証)」の2つの新制度に関する方向性です。この制度は、2022年を目処にしてきた「有人地帯での補助者なし目視外飛行(レベル4)」の実現に向け、現状では、補助者なし、目視外とも有人地帯で飛行を認めていない状況から、両方の要件を認め有人地帯でドローンを飛行可能とするように法制度を整備する動きです。

この動きに合わせて、無人地帯における目視外飛行(レベル3)においても、現段階では実施する際にいちいち飛行毎に許可申請が必要であったところを、操縦者ライセンスと機体認証を経て手続きの簡素化にむけて動き出す事になります。

2つ目は、2021年はドローン物流の社会実装元年となる可能性です。すでに2020年後半に「ドローン物流の定期航路化」の兆しが一部見えてきた事もあり、各地で実証実験から定期航路化への動きが加速していく方向性は確実な流れになってきており、特に山間部や離島といった人里から多少離れたシニア世代に対する利便性向上の観点からも、この動きは顕著になっていくでしょう。

この流れを見ていく上でも重要な点としては、新型コロナウイルスの影響により特にシニア世代のステイホーム化が重要となり、その結果遠隔診療の導入が加速したため、診療の後の調剤薬の受け渡し方法として「ドローンを活用してシニア世代の手元まで調剤薬を届ける」といった、完全リモートでの医療環境の確立といった課題感です。

実はこの実証実験は2020年浜松市などで、トラジェクトリーが実施するなどすでに取り組みが始まっている流れになってきておりますが、最終的にはコロナに対応していく課題という短期的な動きではなく、人口過疎地における医療体制の維持といった、各自治体の抱える深刻な問題へのアプローチとなっており、今後の日本社会を考えていく上で重要な取り組みと言えます。

3つ目は、ドローンと地上を結ぶネットワークの重要性です。現在の多くのドローンの操縦は送信機とドローンを直接的に結ぶ方式を取っていますが、この方式では長距離飛行に限界があり、将来的には4G/5Gといった携帯電話通信網と同じネットワークを介したコントロールが必要になります。しかしここには大きな法律的な、または環境的な課題があります。

まずは法律面ですが、日本の法律上では(例外はあるものの)「基地局は移動しない」という前提となっており、これは重要な電波帯は干渉しないように基地局を設置していく必要性があるといった事から定められた側面があり、またそもそも法律制定時に“空を飛ぶ基地局” なる未知なる物体を想定出来てなかった事が大きな課題となっています。

加えて環境面の課題ですが、今の携帯通信網は「人に対して最適化している」ため、電波が基本的に地上に向けて下向きに届くように設置されています。高層ビルの最上階などでは、一部電波が通じにくいといった経験を思い出す人もいるかもしれませんが、ドローンで4G/5Gのネットワークを活用しようとした場合、こういった環境面の整備は必要になります。

ドローンファンドでは2020年10月に3号ファンドの組成を発表しましたが、新たにNTTドコモ、ソフトバンクに参画頂きました。2号ファンドからすでに参画頂いているKDDIを合わせた3キャリアとともに、ドローンの通信インフラに関する課題への取り組みを加速し、この問題の解決に取り組んでいます。まさに2021年はこの通信インフラ問題の方向性を定めていく重要な年になると考えております。

4つ目は、ドローン・エアモビリティの社会実装が一層進んでいった先で課題になるのが“社会受容性”への配慮です。この数年、私が各所で実証実験を見てきた際に、その現場でお会いした地元の住民の皆様の一部からは「便利そうだが何か怖い」といった声が聞こえた事がありました。「何か怖い」という言葉は、ドローンが幾度となく安全に業務を遂行し、そしてますます安全に配慮した製品になっていく必要性がある事を示していると考えています。欧米の一部では、パラシュートなどの安全装置をつける事を義務化するなどの動きもあり、社会実装に向けた課題は未だ多いと考えております。