
- コロナ禍「家電のお試しレンタル」ニーズが急増
- メーカーがダイレクトで家電を売る時代に
- メーカーが知りたい「買わなかった理由」
- 新たな選択肢としての「使ってから考える」
新型コロナウイルスの影響もあり、実店舗に足を運ぶのではなく「自宅からECサイトで製品を購入する」動きが広がっている。
家電製品もその例外ではない。経済産業省がまとめた「電子商取引に関する市場調査」の結果を見ると、以前から生活家電は食品や化粧品、生活雑貨などの他分野に比べてEC化率の高い分野ではあったが、コロナがそれをさらに後押しした格好だ。
そうした変化に伴い、家電やカメラを中心に2450種類以上のアイテムをレンタルできる「Rentio(レンティオ)」が利用者を伸ばしている。同サービスではコロナ禍で家電の利用が増加。「ECで購入する前に一度実物を試してみたい」というニーズを掴み、事業を拡大させてきた。
面白いのはこの動きに家電メーカーも協力的なことだ。一見レンタルと購入は“競合”するようにも思えるが、Rentioを運営するレンティオ代表取締役の三輪謙二朗氏は「必ずしも競合するものではなく、(レンタルは)むしろ購入をサポートするものです」と話す。
なぜ家電メーカーはRentioを通じた家電のレンタルに賛同するのか。サービスの現状と合わせて、その理由について話を聞いた。
コロナ禍「家電のお試しレンタル」ニーズが急増
Rentioは2015年のサービス開始以来、扱う製品やレンタルの方法を拡大しながら利用者を増やしてきた。
当初はカメラを中心に“短期間・ワンショット(一時的)のレンタル”に注力したサービスとしてスタート。現在はそれに加えて長期間の利用を想定した月額制プランや、新品の製品を一定期間使い続けるとその製品が手に入る「もらえるレンタル」など複数のモデルを展開する。またレンタルモデルだけでなく、試した製品を気に入った場合には、追加料金を支払うことでそのまま所有できる「そのまま購入」プランも提供する。
累計の注文数は31万件を突破。今では2450種類もの製品がサイトに並び、毎月1万5000件以上、多い月では約2万件の製品を貸し出すほどのサービスに成長している(数字は2020年12月28日時点)。

そのRentioに、この1年ほどで大きな変化が起きたという。
三輪氏によると、Rentioではもともとカメラの短期レンタルが人気で、サービスが軌道に乗り始めた2017年9月時点では売上の93%を占めていた。1年前の2020年1月時点でも依然として売上の約70%はカメラのレンタル。ところが、それが5月には30%まで減少し、代わりにその他の家電の割合が急増した。
旅行やイベントの開催が難しくなり、カメラの短期レンタル需要が減ったことは想像に難くないが、Rentioの利用者が全体的に減ったわけではない。2020年12月の売り上げは、昨年同月比で2倍以上。むしろニーズは増えているという。
背景にあるのはユーザーの利用動機の変化だ。家電購入のEC利用が進んだことに伴い、「(ECで購入する前に)一度実物を試してみて、良かったものを買いたい」というニーズが拡大。その手段としてRentioを活用するユーザーが増えたのだと三輪氏は分析する。
そもそもレンティオが数年前に実施したアンケートでは「一時的にレンタルができるサービス」よりも「さまざまな製品を買う前に試せるサービス」の方がユーザーからの関心度が高く、同社としても“お試しレンタル”を伸ばしたいという意向はあったそう。それがコロナの影響で一気に進んだ形だ。

家電のお試しレンタルが広がったことは、多くのリピーターを生み出すことにも繋がった。
ワンショットのレンタルが目当てでRentioを訪れたユーザーは、リピートするとしても大体年に1回ほど。一方でお試しレンタル目的でRentioを使うユーザーはリピート率が高い。日本でコロナの影響が本格化した2020年4月に同サービスを利用したユーザーは、約10%が翌月にまた新たな製品をレンタルした。
「ルンバを試してみた次に、今度はRentio上で見つけた他の家電を使ってみる。お試しレンタルが主流になり、そういった動きをするユーザーが増えた結果、リピート率も上がってきています。以前ある美容家電をレンタルしたユーザーにアンケートを取ったところ、もともとその製品を借りようと思ってRentioに登録した人よりも、登録した後で(サイトを見ていて)借りようと思った人の方が多かった。特に美容家電などは種類も多いため、ふらっとRentioを訪れた時に気になる商品が見つかるというパターンが増えてきています」(三輪氏)
メーカーがダイレクトで家電を売る時代に
このようなユーザー側の変化は、レンティオと家電メーカーとの関係性が強固になってきたことも大きく関わっている。
以前はRentioで扱っている製品の大部分をAmazonなどのECサイトから仕入れていたが、現在はそのほとんどがメーカーから直接提供されるようになった。仕入れの価格が安くなれば、レンタル料自体も下げることができる。同時に製品のバラエティも拡大したため、ユーザーの利便性が良くなった。
特にコロナ禍ではメーカー側からレンティオに対して「(自社製品を)Rentioで扱って欲しい」との問い合わせが急増したのだという。
なぜメーカー側のスタンスが変わってきたのか。1つの理由はコロナによる「家電購入のデジタルシフト」にあると三輪氏は話す。
家電メーカーにとって、これまで家電量販店を軸としたリアル店舗は極めて重要な販売チャネルだった。そのこと自体は今でも変わらないものの、コロナによって実店舗を避けECで購入する人が出てきたことで、ECへの注目度が増したのだ。
「今後間違いなく(自社ECなどを通じて)メーカーがダイレクトにユーザーに物を売る時代になります。その際に、購入前に一度試してもらうステップを挟んだ方が売りやすい製品については、Rentioのような仕組みが使われることが増えるはず。試してみて気に入ったユーザーに対しては、メーカー側のサイトに誘導し双方を繋ぐような役割も担えると考えています」(三輪氏)
当然メーカーが自社でレンタルやサブスクリプション的な売り方を検討することもあるが、三輪氏の話では「(内製すると)システムや運用面など、膨大な初期コストがかかる」ため、レンティオに相談をする企業が多いのだという。
現在レンティオが複数のメーカーと進めている取り組みの1つが、Rentioで特定の家電をレンタルしたユーザーに対してクーポンを発行するというものだ。このクーポンを使えば、ユーザーはメーカーの公式サイトから“割引価格で”新品の家電を購入できる。もちろんRentio上でそのまま購入できるスキームをメインにしてもいい。
メーカーによっては公式のECサイトで、製品の購入ボタンのすぐ下に「レンタル用のボタン」を設置してRentioの製品サイトページに遷移し、積極的にRentioに誘導するような動きを見せているのも興味深い。量販店などに卸すよりも自社ECで販売した方が利益率が高いため、自社ECで売れるに越したことはないわけだ。
すでにレンティオでは50社以上のメーカーとタッグを組み、連携を進めている。その中にはソニーやシャープ、アイロボット(ルンバ)など、おなじみのメーカーも多い。


メーカーが知りたい「買わなかった理由」
家電メーカーが「レンタルのパートナー」としてレンティオを選ぶのには他にも理由がある。それが「実際に製品を試したユーザーの生の声」だ。
レンティオでは通常のレビューとは別に、家電を試したユーザーへアンケートを実施し、その結果をまとめたものをレポートとして各メーカーに提供している(Rentio サーベイ)。三輪氏によると「この評判がすごく良い」のだと言う。
「メーカーが知りたいのは、イエスよりもノーの理由です。つまりお金を出してまで試してみてくれたユーザーが、最終的に『なぜ買わないと判断したのか』はとても貴重なデータ。ただ、これまでメーカーがそのデータを集めるのは非常に困難でした。これがわかると製品のどこを改善すれば良いのかもわかりますし、そもそも製品自体がいけていないのか、それともマーケティングが間違っているのかを把握することもできます」(三輪氏)
たとえば20〜30代のユーザーからは購入したいという声が多い一方、40代には全くウケなかったということが判明すれば、マーケティングを工夫して正しいユーザー層に訴求することで売上を増やせるかもしれない。
もしごく一部のユーザーしか購入したいと思わなかったのであれば、そもそも製品自体をテコ入れする必要がありそうだ。
「日本には技術力が高く良い製品を作れるメーカーが多い反面、『良いものを作りさえすれば売れる』と、プロダクトアウトの発想で作ってしまうケースもあります。でもユーザーの視点では『求めていたものはそれではなかった』ということも珍しくはない。(アンケートの結果)仮に1割のユーザーしか買いたいと思わない製品であれば、本来は改良した後で販売した方がお互いにとって良いはずですよね。メーカーの方にそのような話をすると、共感してもらえ、レンタルに関心を持っていただけることが増えてきました」(三輪氏)
新たな選択肢としての「使ってから考える」

気になる製品を見つけた時に「買う」か「買わない」の二択ではなく、そこに「試しに使ってみてから考える」という新たな選択肢を提供する──。「Rent to own (レント・トゥ・オウン)」とも呼ばれるこのスタイルを広げるべく、これまでレンティオではサービスを拡充させてきた。
2020年2月にはVCなどから10億円の資金調達を実施。サービス拡大に向けた投資を加速させる中で、この1年弱の間でもユーザー・メーカー双方からの反応が変わり、三輪氏自身も手応えも感じているという。
11月には多くのユーザーにとってさらにレンタルが使いやすい選択肢となるように、月額制プランのリニューアルも行った。新プランでは一定期間保有し続けた製品については月々の支払いが自動で終了し、ユーザーの所有物になる仕様へと変更。従来であれば月額プランで利用し続ける限りユーザーは永久に利用料を支払い続ける仕組みだったため、プラン変更は短期的に見れば会社の売上を減らす意思決定になる。

それでもアップデートに踏み切ったのは「ユーザーフレンドリーなサービスを作ることが本質的な価値に繋がると考えた」(三輪氏)から。結果として既存ユーザーがより長い期間に渡ってレンタルするようになったり、新規のユーザーを呼び込むきっかけになったりといった効果も見込んでいる。
今後はユーザーファーストを前提としつつ、より多くの家電メーカーを支援できるような仕組みを作っていく計画。「メーカーがレンタルやサブスク的な売り方を考えた場合に、全面的にバックアップできるような仕組みと体制」を整えていきながら、独自のサーベイを通じて“Rentioならではのマーケティングデータ”をメーカー側に還元していきたいという。