
- 手作業は不要、契約書を自動でデータベース化
- 全文検索によって「目当ての契約書を簡単に探せる仕組み」を実現
- 会社のあらゆる書類を電子化できる「スマートキャビネット」目指す
新型コロナウイルスの影響によるリモートワークの普及に伴い、この1年ほどで「法務のDX(デジタル化)」が急速に進んだ。
その代表例が「クラウドサイン」などの電子契約システムを活用した契約締結のDXだが、契約という観点では“締結後の契約書の管理方法”についても変化が起き始めている。
1月13日にリーガルテック企業のLegalForceが正式ローンチした「Marshall(マーシャル)」は、システム上にアップロードした契約書ファイルを完全自動でデータベース化してくれるサービスだ。
必要なのは、契約書を取り込むことだけ。Marshallが契約書の内容を文字起こしするとともに、タイトルや締結日、当事者名といった重要な契約書情報を自動で抽出し、後から簡単に検索ができる契約書台帳を作り上げる。
開発元のLegalForceは森・濱田松本法律事務所出身の2人の弁護士が2017年に立ち上げたスタートアップ。2019年4月よりAI契約書レビュー支援サービス「LegalForce」の提供を開始し、これまでに600社以上へ導入実績がある。
新サービスのMarshallは、LegalForceの開発で培ってきた自然言語処理技術と機械学習技術を用いることで、契約書管理における入力作業を自動化した点が特徴だ。
手作業は不要、契約書を自動でデータベース化
企業が締結版の契約書台帳を作成する方法としては、Excelなどに必要な情報を手入力しながら進めていくケースが一般的だった。ただこのやり方の場合、扱う契約書が多い企業ほど担当者の負担が大きい。
法務部門の人数も限られる中で、人手をかけずに契約書のデータベースを作れる仕組みには大きなニーズがある。特にコロナ禍では契約書をオフィスのキャビネットではなくオンライン上で管理したいというニーズが増え、その重要度がさらに増した形だ。
クラウド上で契約書を管理する仕組み自体はいくつか出てきているものの、LegalForce取締役COOの川戸崇志氏によると「契約書の内容を自動でテキストデータに変換する機能」を持つサービスはほとんど存在しないという。
そのため契約書をアップロードしてもタイトルなど限られた情報でしか検索できず、結局ファイルを1つずつ開いて中身を目視でチェックしなければならないため利便性が悪かった。一方でMarshallを用いれば入力作業の手間が一切なくなる上、特定の条文や文言、条件などに応じて幅広い切り口で契約書を検索できる。
そもそもLegalForceの社内でも細かい契約内容を確認する目的で締結済みの契約書を見返すことがたびたびあり、その際に必要な情報に素早く辿り着けず課題を感じていたそう。さらにコロナ対策で管理部門が在宅勤務にシフトしたことで、リモート環境においてもスムーズに契約書をチェックできる仕組みが必要になった。
つまりMarshallはLegalForce自身が抱えていた課題を解決するために生み出したプロダクトでもあるわけだ。
全文検索によって「目当ての契約書を簡単に探せる仕組み」を実現
同社では2020年8月にMarshallのオープンベータ版を公開し、4カ月強に渡ってプロダクトの検証や機能開発に取り組んできた。
オープンベータ版はスタートアップから大企業まで、200社以上に試験導入してもらったそう。企業からは「工数をかけずに台帳を作れる点」に加え「全文検索できることによる検索のカスタム性」に対してポジティブな反応が多かったという。


「私たちは法務部門の担当者を顧客として想定し、その人たちがより高い価値を出せるようにどのような“道具”を提供できるかという視点で開発を進めてきました。全文が検索できることにこだわっているのも、法務の要望に応えるには本文の内容を機械がちゃんと読める状態になっている必要があるからです」(川戸氏)
たとえばコロナ禍でオフィスを移転することになったので、それに合わせて中途解約ができるサービスを探すとする。そんな時にデータベースの中から「中途解約」について書かれた契約書へ瞬時にアクセスできれば便利だろう。
このように法務の実務に対応するという観点ではタイトルや締結日、当事者名といった「メタデータ化された情報」だけでは足りず、本文の中身にまで渡って柔軟に検索できなければならない。そして契約書の該当箇所をコピーして社内へ共有できるように、画像ではなくテキストデータの形にしておく必要もある。
管理する契約書の数がある程度の量になってくると、いくら台帳を作っていたとしても目当てのものを探すのには骨が折れる。Marshallのウリは契約書の情報から抽出したメタデータと本文の内容を組み合わせ、該当する契約書をピンポイントで絞り込み「見たい契約書を簡単に見つけられること」(川戸氏)だ。

今回の正式版は月額5万円から利用でき、アップロードする契約書の件数に応じて料金が変わる仕組み。現時点で約60社に導入が決まっているが、顧客にはまさに上述したようなポイントが刺さっているのだという。
なお正式版の提供にあたっては契約書から抽出できる情報の拡充や検索結果の絞り込み機能の強化に加え、契約書へのアクセス権限をユーザーごとに制御できる「契約書グループ機能」などを新たに実装。電子契約サービスとの連携によって締結した契約書をAPIで自動的に取り込み、一切手間をかけることなくそのままMarshall上で管理できる仕組みも作った。
会社のあらゆる書類を電子化できる「スマートキャビネット」目指す

今後はMarshallで管理する契約書の更新状況を確認できる機能や電子契約サービスとの連携強化、自社サービスであるLegalForceとの連携によるナレッジマネジメント機能の強化などを進めていく計画。日本語と英語以外の言語対応、抽出対応項目のさらなる拡大も見据えている。
また中長期的には契約書に留まらず、オフィスのキャビネットに格納されている発注書や見積書、議事録なども含めて一括で管理できる「スマートキャビネット」への進化を目指す計画だ。
「顧客からは、契約書だけではなくオフィスのキャビネットに入っているさまざまな書類をまとめて電子化したいという声も多いです。最終的には会社のあらゆる書類や決定事項にまとめてアクセスでき、(権限管理なども含めて)安全に管理できるスマートキャビネットを目指していきます」(川戸氏)
LegalForceでは2020年12月にAI研究部門「LegalForce Research」を新設し、これまで以上に法律分野におけるAI活用を推進していく構えを見せている。まずはボリュームゾーンである契約書をきっちりと管理できるようにした上で、ゆくゆくはそれ以外の書類への対応も進めていきたいという。
契約書の情報を自動で台帳化できるシステムとしては、昨年8月に弁護士ドットコムも「クラウドサインAI」を立ち上げている。契約書管理のデジタル化も今後さらに活発化していきそうだ。