LayerX代表取締役CEOの福島良典氏 すべての提供画像:LayerX
LayerX代表取締役CEOの福島良典氏 すべての提供画像:LayerX

1都3県(東京都、埼玉県、神奈川県、千葉県)を対象とした、緊急事態宣言の再発令に伴い、政府は企業に対して「テレワークによる出勤者数7割減」を呼びかけている。昨年からテレワークを推進し、オンライン化が実現した業務も多くあるが、中には思っていた以上にオンライン化が進んでいない業務もある。それが経理業務だ。

経理業務は請求書の目視確認や、押印など手入力での処理が前提となっていたため、企業の担当者は出社せざるを得ない状況が続いていた。クラウド会計ソフトなどを展開するfreee(フリー)のアンケート調査によれば、中小企業の64%がテレワークを許可しておらず、仮にテレワークが許可されていても出社しなければならない人の割合は77%にも上るという。

請求書AIクラウド 「LayerX INVOICE」
請求書AIクラウド 「LayerX INVOICE」

そんな状況を改善すべく、DX関連サービスの開発を手がけるLayerXは1月13日、新たにクラウドでの請求書処理業務を可能にする請求書AIクラウド 「LayerX INVOICE」の提供を開始した。

LayerX INVOICEは請求書の受け取りから経理の会計処理・支払処理を一気通貫で自動化するクラウド型経理DX支援システム。AI-OCR機能が請求書を自動でデータ化するほか、仕訳データも自動で学習。また、freeeやマネーフォワードクラウド会計、弥生会計などの主要な会計システムと連携し、仕訳データを自動で作成・連携できるのが大きな特徴だ。

請求書回収機能やアラート、源泉所得税レポート機能、紙の請求書の代理受領やデータ化などの機能もあり、LayerX INVOICEを使うことで経理作業のデジタル化を実現することができる。サービスの提供開始にあたり、2021年3月31日までLayerX INVOICEの「トライアル無料」「初期費用無料」「初月無料」の経理DX支援キャンペーンも実施される。

ブロックチェーン技術を中心にした、業務プロセスのデジタル化を推進すべく、三井物産らとの合弁会社の設立や、共同事業の展開に力を入れてきたLayerX。2020年5月に総額約30億円の資金調達を実施したことも記憶に新しい。なぜ、同社はこのタイミングで自社サービスを展開することにしたのか。その狙いをLayerX代表取締役CEOの福島良典氏に聞いた。

LayerXが進める取り組みのひとつに、三井物産、SMBC日興証券、三井住友信託銀行との合弁事業があります。2020年4月に設立した「三井物産デジタル・アセットマネジメント(以下、MDM)」では“アセットマネジメント×デジタル”の分野に注力しています。

──自社サービスを開発しようと思った経緯は何だったのでしょうか?

MDMはデジタルなアセットマネジメントの会社として、「今までアセット化されていなかったものの証券化、今までアクセスできなかったものに対する投資の開放、業務プロセのスデジタル化による金融機関の生産性向上」を目指すというものです。

この業務プロセスのデジタル化においては、SaaSの導入と既存SaaSではできないことを切り分け、既存SaaSの導入で効率化できる部分は導入を行ってきました(DocuSign、kintone、マネーフォワードの導入とつなぎ込み)。

その一方、既存SaaSではできないこととして「請求書受領から支払いまでの効率化」があり、そこからヒントを得て、スタートアップや上場企業、月間の受領請求書枚数が1万枚を超えるような大企業のコーポレート・経理担当者らを対象に、累計100社以上に業務課題をヒアリングしてみたんです。

そうすると、想像以上に課題を抱えている人が多かったので、その課題を解決するためにSaaSプロダクトとして展開することを決めました。

LayerX INVOICEは、従来の紙による請求書の目視確認や手入力を駆使するオペレーションを極力なくし、システム化を実現するサービスです。実は、2020年10月から一部のスタートアップや上場企業を対象としてベータ版の提供を行っていて、本来は3月ごろに正式に提供開始しようと思っていました。

しかし、緊急事態宣言の発令を受け、経理作業のデジタル化、クラウド化への需要に対応するため、前倒しで提供することにしました。

──LayerXが自社サービスを持つ意味は何でしょうか?

DX自体は「技術」や「デジタル」の問題ではなく、「プロセス」「意思決定」「組織構造」「事業構造」の問題です。

そのため実際に事業をし、事業者として課題を感じ、そこにソリューションを当て込む、いわゆるドッグフーディング(自社テスト)する場所がDXの実現には絶対に必要だと思っています。「事業」として行わない限り、その領域の真の課題はわからないということです。

自社サービスとしてSaaSを展開することで業界横断的に共通化した課題(今回で言えば経理DXに関する課題)をより深く理解し、DXの推進に貢献していきたいと思っています。

──ベータ版を提供した手応え、今後の展望も教えてください。

すでに数十社近くの企業にトライアル利用されており、好評の声をいただいています。また、UI面での使い勝手の良さや、開発スピードを評価いただいており、その点はこれまで主にC向けのサービス開発に携わってきたエンジニアを多く抱える、LayerXの強みでもあるのかなと思っています。

今後はLayerX INVOICEの機能拡張をスピード感を持って、行っていく予定です。また、事業を進めていく上でさまざまな課題が出てくると思うので、既存のSaaSで解決できないものはどんどん自社で開発し、プロダクト化していければと思っています。