髙橋
KDDI代表取締役社長の髙橋誠氏 画像提供:KDDI
  • トッピングの発想が新しい「povo」の内容
  • UQも方針転換。5Gへ対応
  • auは「シンプルな使い放題プラン」
  • “ahamo炎上”を契機に戦略転換
  • povoには“元ネタ”がある

KDDIは1月13日、auの新料金ブランド「povo(ポヴォ)」を発表した。店頭サポートを行わないオンライン専用のプランで、データ容量は月20GBで2480円というシンプルな内容。ドコモの新プラン「ahamo(アハモ)」に対抗しつつ、“トッピング”機能で独自色を出している。

また、メインブランドのauでは新料金プラン「使い放題MAX 5G/4G」も発表。UQ mobileの料金プランも見直し、5Gへの対応も発表した。

トッピングの発想が新しい「povo」の内容

povoの料金は月額2480円(税抜、以下同)。月間20GBまでのデータ容量が利用できる。提供開始は3月を予定している。

povoはauブランド内の“新料金ブランド”で、au本体の料金プランと位置づけられている。ただし、従来プランの一部のサービスを非対応として、割安な料金で提供される。具体的には、店頭での申込やサポート対応、キャリアメールは利用できない。

ドコモが先に発表した「ahamo」や、ソフトバンクの「SoftBank on LINE(仮称)」のように、スマホを使いこなしている20代以下のユーザーがメインターゲットとなる。店頭サポートなどのコストを控えた分、料金を割安にした格好だ。

通話料金は30秒あたり20円かかる。20GB超過時は1Mbpsに速度が制限される。テザリング利用時も追加料金は発生しない。

通信網は当初は4G LTEのみとなるが、今夏に5Gサービスへ対応する予定。通信品質はauの従来プランと同等としている。

povoの一番の特徴は、「トッピング」のアイデアだ。“24時間データ使い放題”や“5分以内の国内通話かけ放題”といったオプションサービスを、使いたいときだけ自由に選んで追加できる。

povoの一番の特徴はオプションサービスを自由に選べる「トッピング」
povoの一番の特徴はオプションサービスを自由に選べる「トッピング」 KDDIが開催したオンライン発表会のスクリーンショット

24時間データ使い放題は、1回200円のオプションとして提供。たとえば旅行先で撮った写真をまとめてアップロードしたり、休日にNetflixのドラマを一気見するといったシーンで利用すれば、月間のデータ容量を消費せずに大容量の通信ができる。データ使い放題のオプションはテザリングにも対応し、時間内であればパソコンなどにつないでの通信も無制限となる。

5分間かけ放題は月額500円。競合のahamoやSoftBank on LINE(仮称)では標準サービスとなっているが、povoではこれを省くことで、他社よりも基本料金が500円安い設定となっている。なお、月額1500円で通話が完全定額になる「通話かけ放題」も用意されている。

スマホのセット販売は用意されない。既存のauのスマホを利用するか、SIMフリーなどでau網対応のスマホを別途用意する必要がある。

povoではまた、eSIMも提供される。eSIMは物理的なSIMカードを挿さずに利用可能な電話番号をスマホに登録できる仕組みで、インターネット経由での申込との相性が良い。eSIM対応のスマホには、iPhone 8以降のiPhoneや、Google Pixel 5などがある。

あわせて、auやUQモバイルの既存プランからの移行もスムーズにすると発表された。各サービスからの移行の場合、手数料はかからない。実質的に3つのブランドを1つの大きなブランドとして扱い、移行の障壁をなくした形だ。

UQも方針転換。5Gへ対応

povoの発表とあわせ、既存のauとUQ mobileの料金体系の見直しも発表された。特にUQ mobileでは、大きく戦略を転換する形となった。

UQ mobileはもともと、au網を利用するKDDI傘下のMVNOとしてスタートしたが、2020年にKDDI本体に統合され、中~小容量向けのニーズを担うブランドとなっている。

今回、UQ mobileでは家族割引を廃止し、その分を本体価格から500円値下げする形で料金改定を行った。UQの新プラン「くりこしプランS/M/L」は、2月1日から提供される。

UQモバイルの新プランもテコ入れされた
UQモバイルの新プランもテコ入れされた KDDIが開催したオンライン発表会のスクリーンショット

また、UQ mobileでも5Gサービスが利用できるようになる。今夏に対応予定で、5G利用時も追加料金は発生しない。

くりこしプランはその名の通り、使わなかったデータ容量を翌月に繰り越して利用できる内容。月3GBの「くりこしプランS」でまったくデータ容量を使わなかった場合、翌月は最大6GBの高速通信が可能だ。容量を使って高速に通信するか、使わずに制限速度で通信するかはユーザーがアプリからオン・オフできるため、料金を節約しながらスマホを使うユーザーに適している。

UQ mobileでは全国に約200店舗のショップを展開している。auショップの一部もUQを扱う「au Style」へと更新されており、店舗数は増えていく見込みだ。

auは「シンプルな使い放題プラン」

auでは新料金プランとして「使い放題MAX 5G」と「使い放題MAX 4G」が発表された。通信だけを多く使いたいユーザーに適したプランだ。

「使い放題MAX 5G」と「使い放題MAX 4G」の料金は共通で、どちらも月額6580円。利用しているauスマホが5G対応か否かで選べるプランが変わる仕組みだ。月のデータ容量は無制限だが、テザリングや国際ローミングでの通信は月間30GBまでという制限がある。

「使い放題MAX 4G/5G」の詳細。期間限定の割引は廃止された
「使い放題MAX 4G/5G」の詳細。期間限定の割引は廃止された KDDIが開催したオンライン記者会見のスクリーンショット

auではこれまで、NetflixやApple TV、FODといった映像サービスとのセットで割引となる使い放題プランを多く展開してきた。使い放題MAX 4G/5Gは付帯サービスがない代わりに、シンプルな内容だ。

家族割や固定通信とのセット割引は提供されるが、「利用開始から6か月目まで」といったような期間限定の割引は省かれている。また、全国2200店を超えるauショップのフルサポートが利用できる。

auでは現在、コンテンツサービスとのセットプランを4種類展開しているが、それらも使い放題MAXをベースとした内容に順次更新される。3月ごろ、スマートフォンの新製品とともに発表される予定だ。

“ahamo炎上”を契機に戦略転換

KDDIは新料金ブランドpovo発表とともに、これまでの料金戦略を大きく方針転換した。

その背景には、NTTドコモが3月に提供を予定している新料金ブランドahamoの発表と、その後auが経験した“炎上”がある。

NTTドコモのahamoは、月20GB・980円という料金プランで、3月に開始予定だ。ドコモブランドでありながら、オンライン申込専用でキャリアメールも提供されないなど、サブブランド的な立ち位置が強いという特徴は、今回のpovoとも共通するものだ。

2020年12月、ドコモはオンライン専用プラン「Ahamo」を発表し注目を集めた
(ドコモ発表会にて撮影)
2020年12月、ドコモはオンライン専用プラン「Ahamo」を発表し注目を集めた  ドコモが12月3日に開催した発表会にて撮影

ahamoが発表された2020年12月頭には、菅義偉総理大臣が公約として掲げていた「携帯電話料金の値下げ」を携帯キャリアに強く求めるなどして、携帯料金に注目が集まっていた。その中でドコモがahamoを発表すると、シンプルな内容と値ごろ感から、多くのユーザーに歓迎された。

auの“炎上”は、ahamo発表の1週間後のことだ。auは12月9日、データ使い放題にAmazonプライムとTELASAの月額料金がセットになった「データMAX 5G with Amazonプライム」という新料金プランを発表した。従来のauの方針に沿った、フルサービスの料金プランだ。

だが、発表したタイミングが悪かった。ユーザーがahamo対抗のプランを期待していたところに、月額9350円という高額な料金プランの発表となった。さらにプレゼンテーションでは、従来からの発表を踏襲し、4つの割引をすべて適用した「月3760円から」という期間限定の下限料金を大きくアピールしたことから、ユーザーの反感を買う結果となってしまった。9日のTwitterでは「月9350円」が話題となり、「さよならau」という解約を進める運動までトレンド入りしてしまった。

auはAmazonプライムとのセットプランを発表。タイミングと見せ方の悪さから“炎上”をもたらしてしまった
KDDIはAmazonプライムとのセットプランを発表。タイミングと見せ方の悪さから“炎上”をもたらしてしまった KDDIが12月9日に開催した発表会で撮影

ただ、その時発表したプランもメリットがないわけではない。NetflixやAmazonプライムなど、多くのユーザーにとって便利なインターネットサービスをパッケージにすることで、データ使い放題の魅力を活用できるというコンセプトだった。KDDIの髙橋誠社長は「実際にはAmazonセットのプランに契約を切り替えるユーザーも多く、順調に推移している」とアピールしている。

一方でauは「シンプルな料金」を求めるユーザーに対応しきれていなかったことや、政府主導で作り上げた「携帯料金の値下げ」を求める風潮を読み切れなかった面は否めない。その結果がネット炎上という形で現れたと言えるだろう。

auはこの炎上を踏まえ、povoではahamoに十分対応できる内容を提示してきた。5分かけ放題をオプションとすることで、ahamoやSoftBank on LINE(仮称)よりも500円安い基本料金となった。

(ソフトバンクが12月22日に開催したオンライン発表会のスクリーンショット)(12月22日のソフトバンク発表会中継動画よりキャプチャ)
ソフトバンクはAhamo対抗のオンライン専用プランをLINEモバイルで展開すると発表した ソフトバンクが12月22日に開催したオンライン発表会のスクリーンショット

かけ放題をオプションとした点について髙橋誠社長は「20代以下のユーザーは通話が月10分以下という方が6割以上いる」と説明している。

また、auの今回の発表からは、広報の面でも炎上を踏まえた対策を行っていると推察できた。auでは従来、発表に際しYouTubeやTwitter、LINE LIVEなど複数のオンラインサイトで中継を行っていたが、今回の配信は20代以下のユーザーが多いLINE LIVEのみで実施している。

また、auの新プランもシンプルな「使い放題MAX 4G/5G」のみにとどめ、従来型のセットプランは後日の発表としている。さらに批判を浴びた「期間限定割引による最低料金」の提示をやめ、割引前の価格から条件に応じた料金を一覧で表示する形に改めている。

povoには“元ネタ”がある

ahamo対抗の本丸povoにも、もともとのauの計画からは大きく変更を加えた部分がある。

実は、povoの基盤となる通信サービスに「トッピング」を追加する機能には、“元ネタ”が存在する。シンガポールの通信企業Circles.Lifeだ。

Circles.Lifeは、大手キャリアの回線を借り受けて提供するMVNOで、スタートアップ企業ながらシンガポール第4のキャリアへと成長している。その特徴がアプリから通信契約を管理し、月単位、日単位でさまざまなオプションサービスを選んで追加できることだ。そして、このオンライン型携帯電話サービスの知見はそのまま、今回Circles.Lifeとの協業を選択したpovoの特徴となっている。

povoの“トッピング”機能はシンガポールのベンチャー企業とのタッグで開発された
povoの“トッピング”機能はシンガポールのベンチャー企業とのタッグで開発された KDDIが開催したオンライン記者会見のスクリーンショット

もともとKDDIでは、2020年10月にCircles.Lifeとの提携を発表しており、21年3月をめどに新ブランドを提供することも予告していた。ただし、その時点では合弁会社によるMVNOという扱いで提供される予定だった。

だが実際に提供されることになったpovoは、au本体のオンライン専用プランという特殊な位置づけとなった。これは菅首相の意を受けた総務省が「キャリアのメインブランドの値下げ」を要求しているためだ。

つまり、auは料金戦略において、現状の他社や政府の動向に即した対応を行ったといえる。

既存のauブランドで大容量プランを中心に提供し、UQ mobileで小~中容量プランを担うという従来のマルチブランド戦略を維持しつつ、オンライン専用のpovoでドコモに対抗。povoではCircles.Lifeの機能を取り入れるかたちで個性を出している。

povoに関しては端末のセット販売を行うのかなど、現状では不確定な要素も多い。当初はオプションサービスも「5分かけ放題」、「かけ放題」、「24時間使い放題」、そして付加価値サービスとは言い難い「データ追加」のみという、いわばスモールスタートだ。

一方で、povoの拡張性には期待も持てそうだ。たとえばpovoでコンテンツサービスとのセット割引を提供するとしても、ユーザーが本当に必要なものだけを選んでトッピングするという形になるだろう。

仮に「視聴したいドラマがあるときに、ひと月だけNetflixに加入する」といった使い方がau IDによって柔軟にできるようになれば、povoを選ぶメリットも出てくる。

適切な“トッピング”を追加していけば、povoはシンプルな料金体系と、細かなニーズの両方に応えられるプランに成長できる余地がある。