
- 採用用途に特化、イベントの準備から振り返りまでがワンストップで完結
- 採用領域において「Zoomを超えた体験」の提供目指す
コロナ禍において、従来は対面・オフラインで行われていたさまざまな取り組みの「オンラインシフト」が急速に進んだ。
採用活動もその例外ではない。現場では面接を筆頭に、会社説明会や座談会などのオンライン化が急務となった。
1月19日に複数の投資家から4300万円を調達したBizibl Technologies(ビジブルテクノロジーズ)もこの領域で事業を展開するスタートアップの1つ。同社では採用イベントをオンライン上で開催できる「Bizibl(ビジブル)」を手掛ける。
採用用途に特化、イベントの準備から振り返りまでがワンストップで完結
Biziblは主に新卒採用における会社説明会や社員との座談会、トークセッションなどをオンライン上で実施しやすいように手助けするサービスだ。
特徴は準備から開催、振り返りまでの工程が1つのサービス上で完結すること。オンライン説明会用の告知ページの作成、オンライン説明会の開催、アンケートの実施・回収、参加者情報の管理、録画のアーカイブなどはBiziblさえあれば対応できる。


「Zoom」を始めとするビデオ会議ツールを使えば、採用イベントをオンライン上で開催すること自体は可能だ。実際そうしている企業は少なくない。Bizibl Technologies代表取締役の花谷燿平氏によると、現在Biziblを使っている企業も以前はZoomなどを活用していたところが多いそうだ。
ただ既存のビデオ会議ツールは採用業務に特化して開発されているわけではないため、採用担当者の視点では必ずしも使い勝手に優れているわけではない。採用業務に最適化することで「従来のビデオ会議ツールでは満たせていないニーズに応える」というのがBiziblのポイントだろう。
「ビデオ会議ツールは1対1の通話や、参加者が対等な関係での会議などには非常にマッチしています。一方で採用イベントの場合、主催者側と候補者の間には明確な線引きがあり、なおかつ候補者同士が知人や仲間でないことがほとんどです。しかも説明会と少人数の座談会では交流の方法が違うように、開催形式に応じて求められるものも異なる。こうした前提を踏まえてコミュニケーションの形を柔軟に設計できなければ、進行や発言が難しくなってしまい、候補者体験が落ちてしまいます」(花谷氏)
たとえばBiziblでは開催するイベントごとに、オープンなテキストチャットの有無や参加者同士での顔・氏名の開示条件を細かく設定できるようになっている。

不特定多数が参加する説明会では参加者のチャットを匿名にし、顔や氏名も参加者同士では見えない状態にする。お互いの表情が見える方が円滑に進む少人数のグループディスカッションでは顔と名前を表示する。このように用途に応じてプライバシー環境を柔軟に調整し、オンラインであっても参加ハードルを上げないような仕組みが実装されているのがウリだ。
また企業からは「ビデオ会議ツールでは候補者情報が分断されてしまう」という声も多いそう。告知ページを作るためのツール、候補者の情報を管理するツール、アンケート用のフォームなどを複合的に使うことになれば、情報が複数箇所に散らばるだけでなく担当者の手間も増える。
Biziblはこれらの機能が1つのプロダクトに集約されており、その点は利用企業からも好評なのだという。
同サービスは2020年6月にベータ版の運営をスタートしていて、現在は毎日放送などメディア業界やIT業界の数社に試してもらっている状況。正式版での具体的な利用料金は検証中とのことだが、いまのところ月額数万円からの定額制モデルでの提供を考えている。

採用領域において「Zoomを超えた体験」の提供目指す
Bizibl Technologiesは2018年10月の設立。代表の花谷氏は大阪大学の出身で、同社も大阪に拠点を構える。
大学でバイオテクノロジーを専攻していたという花谷氏にとって、1つの転機となったのが大学3年生時にシリコンバレーへと行ったこと。現地でIT系のスタートアップが活躍していることを知り、この領域へ関心を持った。
大学院まではもともと興味のあった合成生物学の研究に打ち込んでいたが、就職活動中にアプリ開発のスキルを持つ友人ができたこともあり、起業を決断。1度目の事業はうまくいかずチームも解散したが、自身も課題意識を持っていた採用領域で再スタートを切った。
当初は転職系のメディアを展開していたものの、転職フェアに足を運んだ際に「なんでこんなに非効率なことをしているのだろう」と感じたのがBiziblを立ち上げたきっかけだ。
振り返れば花谷氏も就活生時代に東京と大阪を往復する生活を送っていて「辛い思いをした実体験があった」のと同時に「転職メディアと比べてもはるかに自分ごととして捉えることができた」ために、2020年1月に方向転換を決めたのだという。

今後はグループディスカッションやグループ面接といった用途に合わせた評価シート機能など、幅広い採用イベントをオンラインで開催できる機能を追加していく計画。ATS(採用管理システム)との連携など、採用業務の効率化に繋がるような取り組みも進める。
そのための資金として1月19日にはプライマルキャピタル、インキュベイトファンド、 F Ventures、エンジェル投資家・鈴木悠人氏を含む複数の個人を引受先とした第三者割当増資により総額4300万円の資金調達も実施した。
「たとえばECの領域ではAmazonというものすごく強い企業が存在する一方で、(細かい分野やシーンごとに)今でも新しいプレーヤーが続々と生まれてきています。同じような現象がウェビナーにおいても起こるはず。Zoomなどの限られたサービスだけでなく、具体的な領域ごとに細分化が進んでいくと考えています。自分たちは採用に特化してプロダクトを作り込むことで、この分野においてはZoomを超えた体験を提供していくことを目指します」(花谷氏)