1月22日にローンチするクラウドファンディングサービス「うぶごえ」
1月22日にローンチするクラウドファンディングサービス「うぶごえ」 すべての画像:うぶごえのプレスリリースより

「群衆(クラウド)」から「資金調達(ファンディング)」を実施するという意味の造語であるクラウドファンディング。日本では「Makuake」や「CAMPFIRE」といったサービスがよく知られている。

Makuakeを運営するマクアケは2019年12月に上場。1月21日には米クラウドファンディング大手のIndiegogoとの提携も発表している。またCAMPFIREは2020年の流通額が200億円を突破するなど、すでに高い知名度を誇るプレーヤー数社がクラウドファンディング市場には存在するが、このタイミングで新たなサービスが誕生しようとしている。1月22日にローンチ予定の「うぶごえ」だ。

うぶごえを運営するうぶごえは1月15日、同社初となるプレスリリースを配信し、「手数料0円」をうたうサービスの概要を公開した。SNS上では新たな門出を祝福する声とともに、「応援できない」、「応援しにくい」といった類いの投稿も見られた。なぜなら、同社は競合でもあるCAMPFIREの出身者を中心に立ち上げられたスタートアップだからだ。

うぶごえ代表取締役社長の岡田一男氏はCAMPFIREの元執行役員として、営業部門と広報部門を統括したほか、グループ会社のCAMPFIRE MUSICの元代表取締役副社長でもある人物。また取締役で最高サービス責任者の三木隆史氏はCAMPFIREでは執行役員 VP of Engineeringを務めていた。

うぶごえのローンチに関する発表を受けて、CAMPFIREは1月18日、異例とも言えるプレスリリースを配信した。内容は「今般、当社に過去在籍していた社員によるクラウドファンディングサービスの立ち上げに関する情報について、CAMPFIREに関連するサービスであるとの一部誤認が生じている状況です。当社及びそのグループ会社は、該当会社との間において資本関係、業務提携等の契約関係、及び人的交流も含め、何ら関係性を有しないものであり、またそのような予定は現時点ではございません」というものだ。

「当社に過去在籍していた社員によるクラウドファンディングサービス」とはうぶごえを指すのか。問い合わせたところ、CAMPFIREの広報担当者は「具体的なサービス名の明言などに関するご質問への回答は控えさせてください」と回答するにとどまった。

「元社員らが競合サービスを展開するという情報は把握していたか」 、「元社員らとの間に競業避止契約は締結していたか」という質問についても、同社は回答を控えた。

プレスリリースを配信した理由については、「『(別のサービスに)CAMPFIREが関係しているのか』という問い合わせが一部あり、そこは明確に否定したかったというのが理由としてあります。また、他社が参入し、健全に競争が活性化されることが、結果として市場全体、ならびにクラウドファンディングを利用するユーザーにとっても良いことだと捉えている。この旨を伝えたかったのです。他社と争うことよりも、利用者にとってより良いサービスを提供するためにどうするのか、そこだけに向き合うことが重要だと考えています」と説明する。

CAMPFIREの回答はあくまで、市場を拡大する競合を歓迎して、ユーザーに向き合うと締めくくっているが、出鼻を挫かれたかたちのうぶごえは、「手数料0円」という売り文句についても表現が不明確であるという指摘をSNS上で受けた。同社は当初発表のプレスリリースを訂正し、「掲載者手数料が0円」であり、「購入者から決済ごとにシステム利用料330円と購入額の5%を徴収する業界初の手数料システム」であると表現を改めた。

クラウドファンディングはコロナ禍で飲食店支援のために活用されるなど、その社会的意義が確実に増している。経営陣の古巣であるCAMPFIREをはじめ、強力な既存プレーヤーがいながらも市場に参入したうぶごえにも、そのローンチの背景には創業メンバーたちの強い思いが込められているのだろう。

DIAMOND SIGNALでは、代表の岡田氏への取材を行い、サービス立ち上げへの思い、そしてSNS上に投稿されたさまざまな声をどのように受け止めているのかを質問する予定だった。だが、うぶごえを担当するPR代理店側から取材を提案されていたにも関わらず、「ローンチ直前のため開発に注力する」とのことで最終的には断られる結果となった。編集部から直接岡田氏への取材依頼も行ったが、同様の回答だった。

クラウドファンディングの特徴は「声の小さな個人でも声を上げることができる」こと。コロナ禍でその存在意義が増しているからこそ、誠実な対応が期待される。現状のうぶごえの対応のままでは、「ぼくのりりっくのぼうよみ」として活躍した、たなか氏がサービス開始にあたってよせたステートメントさえも、うつろに響く。

(更新:2021年1月21日21時36分 うぶごえのものと思われるTwitterアカウントが、サービスのローンチを2月上旬に延期すると発表した。)

たなか氏によるステートメント
たなか氏によるステートメント