
- サブスクとレンタルの違い
- 「レンタル後購入」の鉱脈
- メルカリが作り上げた「買って、すぐ売る」文化
カメラや家電製品などの機器レンタルサイト「Rentio(レンティオ)」が好調だ。2015年4月の創業以来、売り上げを右肩上がりに伸ばし続けている。サブスクリプション(月額課金モデル)が流行する中、あえて“レンタル”というビジネスモデルで、ヒットした理由とは。(ダイヤモンド編集部 塙 花梨)
“サブスクリプション”――「Netflix(ネットフリックス)」や「Spotify(スポティファイ)」などの音楽や動画を聴き放題・見放題の定額制サービスや、マイクロソフトやアドビシステムズなどのソフトウェアの月額固定料金制度などが代表的だ。成功例も多く、サブスクリプションモデルがビジネスのトレンドとなっている。
さらに、こうしたインターネットやクラウド上で提供する“サービス”だけでなく、“モノ”の提供においても、サブスクを基盤とする事業者は、うなぎのぼりに増えている。スタートアップはもちろんのこと、パナソニックの家電定額サービスや、トヨタ自動車が始めた愛車サブスクリプション「KINTO」など、大企業の参入も相次いでいる。
しかし、このトレンドと反して、“レンタル”で売り上げを伸ばしているベンチャーがある。カメラや家電製品などの機器を貸し出すサイト「Rentio」を運営するレンティオだ。2年連続で75%の売り上げ増を達成し、年間10万件を超える利用数を誇る。
「“サービス”ではなく“モノ”を提供する場合、サブスクリプションよりレンタルの方が向いている」とレンティオ代表の三輪謙二朗氏は語気を強める。
サブスクとレンタルの違い
サブスクとレンタルの違いは大きく2つ、支払い方法と期間にある。サブスクは、月額費が一律固定で半永久的にモノやサービスを使用できるというのが主流だ。それに対してレンタルは、借りるモノによって金額が異なり、ニーズに応じて借りる期間を変えられる。
所有でなく利用権にお金を払うサブスクは、使い続けている間にも、どんどんサービスがアップグレードされていく。ソフトウェアなどはまさにそこがの一番のメリットといえる。
「しかし、モノを扱うサブスクの場合、利用期間中に中身がアップグレードされるということはありません。多くの人は、何年かにわたって長期的に使うモノならば、買った方が得だと考えるでしょう」(三輪氏)

レンティオのレンタルサービスは、短期モデルと長期モデルの2つに分かれる。短期モデルは数日間だけのレンタルで、長期モデルは月額制のレンタルだ。
特に短期モデルは、例えば「旅行でカメラが必要」などイベント性のある突発的なニーズや、「購入を検討しているため、試しに使ってみたい」というお試しニーズに適しており、回転率が高いため、レンティオの収益の基盤となっている。
「サブスクの場合は、ひとつのサービスを長く使ってもらうことで収益化していきますが、多数のモノを扱う場合、回転率が悪いと儲からない。モノでサブスクをやろうとすると、高価なものばかり借りられてしまい、結果として回転率が悪くなってしまうんです。当社はレンタルでの回転率をあげるため、商品の管理システムを自社開発しており、1つ1つのカメラがどれだけ利益を出したかも見ています。表示場所を変えたりレンタル料を下げたりして、古いモデルでも在庫が消化される仕組みをつくっているんです」(三輪氏)
現在レンティオが扱う製品の点数はおよそ1万8000点ほどあり、その中で月間在庫回転率は90%。1日およそ300点発送しているという。
「レンタル後購入」の鉱脈
また、2019年9月から始めた新サービス「レンタル後購入」も好調だ。これは、数日だけレンタルで試しに使用してみて、購入したいと思ったらそのまま買い上げることができるというものだ。
「製品をレンタルした人の20%(カメラに限っては80%)が、その後に類似商品を購入しているというデータが出ていたんです。そこで、サービス化に踏み切りました。米国やドイツではもともとあった、1年レンタルしたらそのままもらえるといったビジネスモデル「Rent to own(購入選択権付レンタル)」に近い考え方で、“返せる分割払い”とも呼んでいます。実はこのモデルを主軸にしてやろうとすると、購入してもらうことがゴールになってしまうため、返品されると収益があがらなくて苦戦してしまうケースが多いんです。当社の場合は、レンタル事業が主軸で、そこで収益化が十分にできているのでうまくいっています」(三輪氏)

実際に、お掃除ロボット「ルンバ」に関しては、メーカーである米アイロボット社と組んで、月額3800円でのレンタルを実施している。試してみて、気に入ったら、残額を支払えば購入が可能だ。
「支払い総額としてはAmazonで買った場合の1.2倍くらいになるのですが、すでに2000台ほど売れています。イニシャルコストがかからず、試してみてから購入できる点が良いのだと思います」(三輪氏)
メルカリが作り上げた「買って、すぐ売る」文化
レンティオは、2015年に創業した。三輪氏は、もともと楽天でリテールやレンタル事業に携わった後、家電のネット通販を運営する会社に転職した。そこで、消費者のニーズに接するうち、家電レンタルの可能性を強く感じたという。
「私自身、子どもが生まれたときに張り切ってカメラを購入したのですが、2ヵ月で使わなくなってしまいました。その時、実際に使ってみないと本当に必要かわからないこともあるし、自分と同じような経験をしている人はたくさんいるだろうと感じました」(三輪氏)
しかし、いざ事業化に乗り出そうとしても、メーカー側は製品の売り上げを大事にするため、購入に結び付かないレンタル事業には及び腰だった。また、あるメーカーからは、「三輪くん、家電は車や時計と一緒で嗜好品なんだよ」と言われて断られたことがあった。わずか5年前のことだ。家電はレンタルで使うような商品ではない、というのが周囲の見方だった。
しかし、風向きは徐々に追い風へと変わっていった。
「私たちのサービスがヒットしたのは、当社に出資してくれているメルカリの影響が大きい」と三輪氏は言う。
この数年で、段々と消費者の指向がモノ消費からコト消費に移ってきた。そして、メルカリの誕生によって、“普通の人がモノを発送する”という文化が根付いたというのだ。
今も「レンタルが増えたら製品が売れなくなる」と危惧するメーカーは多いが、三輪氏はその可能性を否定する。
「メルカリが変えた『買ってすぐ売る』文化の上では、間違いなくレンタル市場は伸びていく。モノをシェアしたり再利用することは、これからさらに活発化していくはずです。結果として、ユーザーの消費すること自体のハードルもどんどん下がっていき、消費は増えていくと思います」と、三輪氏は今後のさらなる市場拡大に自信を深めている。