「クラウドサイン」では印鑑制度に変わる“新しい契約のかたち”の発明に向けて、新戦略を発表した
「クラウドサイン」では印鑑制度に変わる“新しい契約のかたち”の発明に向けて、新戦略を発表した すべての画像提供 : 弁護士ドットコム
  • マイナンバーカードによる電子署名機能で“実印”の再発明へ
  • エンタープライズ企業向けに契約管理や契約決裁の機能も拡充

2020年は新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえたリモートワークの浸透、政府による押印・書面廃止などの見直しにより、企業における“契約のデジタル化”が一気に広がった年となった。

そこで大きく事業を伸ばしたのがウェブ完結型のクラウド契約サービス「クラウドサイン」だ。弁護士ドットコムが展開する同サービスは、緊急事態宣言下の2020年4月以降にその成長スピードを一段と加速。8月には導入企業社数が10万社を超え、約1年で2倍の規模にまで拡大している。

そのクラウドサインが電子契約のさらなる普及に向け、新戦略として2021年度のサービスロードマップを発表した。

弁護士ドットコム取締役でクラウドサインの事業責任者を務める橘大地氏がポイントに挙げるのが「契約管理」「契約決裁」「実印」という3つの機能に関する“再発明”だ。特に目玉となる「マイナンバーカードを用いた当事者型の署名機能」を実装することで“これからの実印”を担うような仕組みの開発を目指しているという。

マイナンバーカードによる電子署名機能で“実印”の再発明へ

印鑑制度が根付いた日本のビジネスシーンでは「契約交渉」よりも、後工程である「契約締結」に膨大な時間を要してしまう──。クラウドサインはそのような契約締結における課題を解決する手段として、2015年に立ち上げられた。

日本では2001年に電子署名法が制定されていたものの、それに基づく電子契約は利便性に欠けた。そこでクラウドサインでは使い勝手の良さを担保した別のアプローチによる電子契約の仕組みを開発し、徐々にユーザーを獲得していく。

当時の電子署名法に準拠した「当事者署名型」の電子署名でネックとなっていたのが、認証局での手続きだ。当事者署名型に則って電子契約を進める場合、契約の当事者双方は認証局で電子証明書を取得しなければならない。

手続きには実印と印鑑証明書、住民票が求められ、平均取得価格は1万円以上。取得するのに1週間以上の時間も要する。この負担が自分だけでなく相手方にも発生するわけだ。

「当事者署名型」の構造と課題点
「当事者署名型」の構造と課題点

その方法では電子契約を広げることは難しい。そこでクラウドサインでは「事業者署名型(立会人型)」と呼ばれるアプローチを採った。

この方法であれば電子証明書を事前に買わなくても、クラウドサインが立会人として代わりに電子署名をしてくれる形式になるため、従来時間のかかっていた認証局による本人確認が必要ない。契約業務がオンライン上で、数分で完結するようにもなる。

クラウドサインでは「事業者署名型(立会人型)」を採用
クラウドサインでは「事業者署名型(立会人型)」を採用

実際にクラウドサインは10万社に導入され、法的な観点からもクラウドサインが電子署名法第3条に準拠されていることが公式に表明されるまでになった。

ただ“これまで電子署名法上の扱いにおいては曖昧な状態だった”こともあり、特に非IT系の顧客企業の中では今でもクラウドサインが使われるシーンが限定されることもるという。

「1000万円以上の大きな契約書は紙で結び、発注書はクラウドサインで対応する。認印のような位置付けでクラウドサインを使われている方々も一定数います。電子署名法が厳格な認証方法であることは理解していたので、認証局から証明書を取得する方法とは別の形で当事者署名型にチャレンジできないか。その方法を模索していました」(橘氏)

熟慮の末、出した結論が「マイナンバーカードとの連携」による当事者型の電子署名への原点回帰だ。

クラウドサインでは2021年度中にマイナンバーカードに内蔵された電子証明書による電子署名に対応する計画。ユーザーはマイナンバーをリーダーで読み取った後、クラウドサインを介して契約を進めることで“実印”を必要とするような契約も電子化できるようになる。

「認証局で電子証明書を買う方法ではお金も時間もかかるため、厳格だけどなかなか普及しませんでした。一方でマイナンバーカードは無料で国からもらえるもの。厳格な上にこれから普及することを考えると、マイナンバーがブレイクスルーになると考えました。この取り組みを通じて、実印の再発明を目指していきます」(橘氏)

マイナンバーカードを用いた合意締結のフロー
マイナンバーカードを用いた合意締結のフロー

エンタープライズ企業向けに契約管理や契約決裁の機能も拡充

クラウドサインが公開した新機能のロードマップ
クラウドサインが公開した新機能のロードマップ

マイナンバーカードの活用に加え、2021年度には特にエンタープライズ企業のニーズに対応した機能を順次拡充していく計画だ。

たとえば3月の公開を予定しているキャビネット機能では契約書類の閲覧権限を高度に管理できる仕組みを通じて、契約書管理に関する課題解決(契約管理の再発明)を目指す。同じく年内実装予定の受信時承認ワークフロー機能では、契約書を受け取った側の企業内で決裁権のないメンバーによる同意を防ぎ、 “無権代理” 承認を防止する(決裁の再発明)。

契約管理の課題を解決するキャビネット機能
契約管理の課題を解決するキャビネット機能
契約書類を受信時の “無権代理” 承認を防止する受信時承認ワークフロー機能
契約書類を受信時の “無権代理” 承認を防止する受信時承認ワークフロー機能

2020年はクラウドサインを筆頭に、電子契約サービス市場自体が一気にスポットライトを浴びる1年となった。橘氏によると競争も激化していて、昨年だけでも細かいものを含めると10サービスほど新たに参入している状況だ。

そんな状況下においても「脱ハンコの受け皿として電子署名が十分に認知されているかというと、まだまだそんなことはない」というのが同氏の見解。クラウドサインでは今回発表した新機能を中心にプロダクトの拡張を続け、100年続いてきた印鑑制度に代わる「新しい契約のかたち」の確立を目指していくという。