glafit代表取締役社長の鳴海禎造氏、Luup代表取締役社長の岡井大輝氏左から、glafit代表取締役社長の鳴海禎造氏、Luup代表取締役社長の岡井大輝氏、mobby ride代表取締役の日向諒氏
  • 電動キックボード、普及を困難にする法規制
  • 規制のサンドボックス制度を利用して走行実証を実現
  • 車両区分の新設も視野に入れる

電動キックボードやハイブリッドバイクなど、バイクや自転車に代わる新たな移動手段として期待される「電動マイクロモビリティ」だが、普及には法制度の壁があるのが実情だ。この規制の緩和に向けて、スタートアップ3社が「規制のサンドボックス制度」を活用した実証実験を開始する。(編集・ライター 野口直希)

電動キックボード、普及を困難にする法規制

 電動マイクロモビリティという言葉に法的な定義はないが、ここでは軽自動車より小型で小回りの利く電動式の乗り物の総称としておこう。今回実証開始を発表した3社のうち2社は主に電動キックボードを、1社は電動モーターの力だけでも走行できるハイブリッドバイクを扱っており、その形態はさまざまだ。人口過密で公共交通への需要が増えた都市部における手軽に利用できる移動手段として期待が高まっている。

 日本ではまだ目にする機会がほとんどない電動マイクロモビリティだが、米国の都市部では数年前から普及が進んでいる。そのほとんどがシェアサイクルと同様、街中に設置してある電動キックボードを借りて自由に乗車するシェアリングサービスだ。

 米国で電動マイクロモビリティを扱うスタートアップ各社は創業から数年で大きな成長を遂げており、サンフランシスコを中心に約50都市でサービスを展開するSpinは2018年11月にFordに買収された。Googleの持株会社であるAlphabetをはじめ、UberやKDDIなどが出資するLimeは、早ければ2019年内にも日本市場に参入するという。

 そんな電動マイクロモビリティだが、日本での成長を阻害する要因の2つが、法による規制だ。現行の道路交通法では、電動マイクロモビリティは原動機付自転車(原付)に分類され、ミラーやウインカーをはじめとする保安部品の追加を伴う車体の改造と、乗車時の免許の携帯、ヘルメット着用が義務付けられる。また、歩道の走行は不可能だが、自転車と同じような速度の電動マイクロモビリティが自動車と一緒に車道を走るのも安全とは言い難い。

規制のサンドボックス制度を利用して走行実証を実現

 安全面に十分配慮しつつ、現行の法制度をより適切なサービス運営が可能な内容に改める方法を模索するのが、今回の実証実験だ。実験には2018年に始まった「新技術等実証制度(規制のサンドボックス制度)」を活用する。これは、現行法によって新技術の実用化やビジネスが困難な場合に、事業者が規制官庁からの認定のもとで実証実験を行うことで、法律を見直し、規制の緩和や解消などを検討するための制度だ。「特区民泊」で知られる「戦略特区制度」では自治体からの申請が必要だが、この制度は事業者からの申請で実施できるのが特徴だ。

 今回、規制のサンドボックス制度への認定が発表されたのは、mobby ride(モビーライド)Luup(ループ)glafit(グラフィット)の3社。モビリティ分野における認定は、今回が初めてだ。3社は17日に合同で認定発表についての説明会を開催し、認定に至った経緯と実証実験の概要を説明した。

 各社はそれぞれ別々に制度への申請を進めていたが、事業分野が近いため経済産業省が合同で議論を交わす機会を用意。これがきっかけとなって、3社合同での説明会が開催された。実証実験は各社ごとに進めるが、それぞれが得たデータを持ち寄って協議する可能性は十分にあるという。これまでも各社は自治体と連携して実証を進めてきたが、今後はより法制度の改正を視野に入れた活動となるという。

車両区分の新設も視野に入れる

 mobby rideはオンライン決済サービスを手がけるAnyPayから新規事業から独立した企業で、電動キックボードのシェアサービス「mobby」を運営する。これまでは福岡市・神戸市と連携して実証を進めてきた。規制のサンドボックス制度のもとでは、九州大学伊都キャンパス内でシェアリングの実証を実施。サイズの異なる電動キックボード2種を使用し、最高時速18km以下に設定した上で、安全性などを分析する。

 Luupは二輪電動キックボードや高齢者向け四輪電動キックボード、シニアカーなどを扱うシェアリング事業「LUUP」を運営。これまで9つの自治体で実証を行なっており、規制のサンドボックス制度のもとでは、横浜国立大学キャンパス内の一部区域で二輪電動キックボードと高齢者向け四輪電動キックボードのシェアリング実証を実施する。代表取締役社長の岡井大輝氏は、今年5月に国内の主要な電動キックボード事業者をメンバーとするマイクロモビリティ推進協議会を立ち上げ、会長に就任している。

 glafitは、見た目は自転車で電動バイクのモーターを搭載したハイブリッドバイク「glafitバイク GFR-01」を開発。こちらはすでに一般販売中だ。2017年にクラウドファンディングサービス「Makuake」で行なったプロジェクトでは約1億3000万円の支援を集めており、当時の国内クラウドファンディング資金調達金額最高記録を樹立した。規制のサンドボックス制度のもとでは、和歌山市と連携してGFR-01の車道以外での走行を視野に入れた公道実証を行う。

 各社はどのような形での法律改正を目指すのか。実験の指標となる数値状況に応じて関係省庁や自治体との調整のもとで適宜決定することを前提とした上で、3社は共通して「低速eモビリティ(自転車などの軽車両と同じく、免許不要で時速25km以下で低速車道を走行する)」という車両区分の新設を目指す。

 海外では電動マイクロモビリティの普及が進んでいるが、それをそのまま取り入れればよいというわけではない。世界的に見ても、電動キックボードの無造作な放置や、歩道走行による歩行者との接触事故、車道走行による交通事故も発生しており、適切な運用法を模索している段階であるのが実情だ。今回の実証実験が、日本ならではのあり方を見つけるための大きな一歩になるか。