
- 最大の魅力は著名人との親密な距離感での会話
- “アクセス権”の保有が消費者のステータスに
- 今後の成長の鍵となるのはマネタイズ機能の充実
米国発の招待制・音声SNSアプリ「Clubhouse」の人気がさらに加熱している──最初は日本のスタートアップ関係者を中心に盛り上がりを見せていたが、直近ではアパレルブランド「Herlipto(ハーリップトゥ)」を手がける小嶋陽菜氏や、メジャーリーガーのダルビッシュ有氏、タレントの小島瑠璃子氏などもClubhouseを使い始めた。今や1000人以上が集まるルームも珍しくない。
Clubhouseは一言で説明するならば、音声版のTwitterだ。ユーザーは自分でルームを作ったり、他のユーザーのルームに参加することで、気軽に会話を楽しむことができる。
Clubhouseは2020年2月の創業。2020年3月のローンチから1年も経っていないが、米メディアのTechCrunchが報じたところによると、週間のユニークユーザーは200万人以上。同じく米メディアのThe Informationが報じたところによると、時価総額はすでに約1038億円を突破するなど、ユニコーン企業となっている。
筆者の感覚では、日本でも先週末あたりから利用者が急激に増えており、1月28日にはAppStoreの「無料アプリ」ランキングのトップに躍り出た。
だが、Clubhouseは招待制で登録時には1ユーザーあたり2人分の招待枠しかない。そのため、多くの人にとっては「話題になっている謎なSNSアプリ」という印象もあるだろう。
そこで米国のスタートアップやテクノロジーのニュースを記事やポッドキャストで配信する「Off Topic」の宮武徹郎氏に、Clubhouseが爆発的な人気を見せている背景について話を聞いた。同氏はベンチャーキャピタルでの勤務経験があり、米国の若者文化にも精通する。
最大の魅力は著名人との親密な距離感での会話
「Clubhouseは、これまで存在してきたどのSNSよりも圧倒的に“ソーシャル”なプラットフォームだと思います」
宮武氏はClubhouseの魅力について、こう語る。これまでもFacebookやTwitter、Instagram、TikTokといったSNSで著名人の投稿を見たり、コメントを残したりすることはできた。だが、それらのSNSではコミュニケーションを図りにくい。
一方、Clubhouseはスピーカーが著名人であっても、親密な距離感で会話を聞いたり、会話に参加したりできる。それこそが最大の魅力だという。
Clubhouseではルームで会話をできるのは基本的にはモデレーターとスピーカーのみだが、ユーザーが「挙手」ボタンを押し、「会話に参加したい」とアピールすれば、モデレーターが指名した場合に限って、ルームにいる他のユーザーも会話に参加できる。
「Clubhouseでは会話の内容が録音されておらず、ユーザーは常時接続している。そのため、相手が著名人でもカジュアルに会話をすることができ、知らない人とも簡単に繋がれます。私はClubhouseでは知り合いでないユーザーとも普通に会話をするのですが、これは動画配信などの“対面”では少し気まずく、音声のみだからこそ成立している、新しい感覚だと感じています。また、録音されていないからこそ成立するパーソナルな会話が聞けるのも魅力的です」(宮武氏)
宮武氏は「Clubhouseならではの会話が聞ける」ことも人気の理由として大きいと説明する。同氏はClubhouseに出資している米ベンチャーキャピタルAndreessen Horowitzの創業者、マーク・アンドリーセン氏がスピーカーとして参加していたルームを例に挙げる。
「Clubhouseではテクノロジーに関する話題以外にも、人種差別や音楽などの幅広いトピックについての会話が盛り上がっています。アンドリーセン氏がスピーカーとして参加していたルームでは『どうしたら4次元を見られるか』というトピックについて議論が交わされていて、数学者たちも参加していました。その場でしか聞くことのできない、さまざまなコンテンツが揃っているのもClubhouseの大きな魅力です」(宮武氏)
“アクセス権”の保有が消費者のステータスに
Clubhouseが人気となった理由として、自分だけが会話に参加できていないのではないかという「FOMO(Fear of missing out:取り残される怖さ)」を感じさせるサービス設計も要因のひとつだと語られている。それに加えて、宮武氏は近年における消費者の「価値観の変化」もClubhouseの急成長に一役買ったのではないか、と分析する。
「米国ではコロナ前から、あらゆる世代において“ステータス”の概念が変わってきています。昔だと、高級ブランドのバッグを買うことがステータスでしたが、今では二次流通で安く買うことができるため、高級品を所有することはもはやステータスにはなりません。今、ステータスになるのは“アクセス権”を持つことです。例えば、ニューヨークでは会員制のホテルやレストランが増えてきています。こうした場は、知り合いに招待されるか、アクセス権を持たなければ利用することはできません。Clubhouseはそのようなアクセス権が必要なサービスの“アプリ版”だと言えるのではないでしょうか」(宮武氏)
今後の成長の鍵となるのはマネタイズ機能の充実
海外では起業家やベンチャーキャピタリスト、クリエイター、政治家といった多くの著名人が配信を行うClubhouse。日本ではスタートアップ関係者を中心に利用が進んだが、最近では芸能人なども利用を始めるなど、ユーザー層がどんどん拡大している。

今後、Clubhouseが日本でもより多くのユーザーを集めるには「より多くの著名人、特にクリエイターによる参加が欠かせない」と宮武氏は言う。例えばYouTubeやInstagram、TikTokで人気を得ているクリエイターたちによる配信が好ましいが、そのためにはスピーカーが利益を得られるマネタイズの仕組みが不可欠だ。
宮武氏によると、海外では先行して“Clubhouse経済圏”が生まれ始めており、スピーカーはプロフィールにSquareが提供する「Cash App」などの送金アプリのリンクを貼ることで、リスナーからの支援を募っているという。Clubhouseでも独自にスピーカーを支援するためのマネタイズ機能を開発している最中だ。
実際、Clubhouseは米国時間1月24日、3つのマネタイズ機能を検討中していることを公式ブログで明かした。今後、数カ月の間に、「投げ銭」、「チケット」、「サブスクリプション」といったマネタイズ機能を試験的に提供するという。同社はクリエイター支援のためのファンド「Creator Grant Program」を立ち上げることも宣言している。
Clubhouseは今後も躍進し続けるのか、はたまたミニブログのMastodonのように一時の流行として忘れ去られてしまうのだろうか。大手SNSのTwitterが2020年12月よりClubhouseを真似た機能「Spaces」をテスト公開したり、スポーツ分野に特化したClubhouseの類似サービス「LOCKER ROOM」が誕生するなど、競合とも言えるサービスが浮上しつつある──Clubhouseが今後成長する鍵となるのは、マネタイズ機能を充実させ、著名人をスピーカーとして囲い込むことにあるだろう。