• 創業からの7年間「苦労しかなかった」
  • マーケットが伸びる前に勝負に出る
  • 「自分の頭で考えていなかった」で直面した、4つの失敗
  • 「受託」が正解だったと証明したい
  • 原理原則はあっても、「自分で考える」ことが大事

資金調達にサービスの立ち上げ、上場や事業売却と、ポジティブな側面が取り上げられがちなスタートアップだが、その実態は、失敗や苦悩の連続だ。この連載では、起業家の生々しい「失敗」、そしてそれを乗り越えた「実体験」を動画とテキストのインタビューで学んでいく。第5回はGunosy創業者でLayerX代表取締役社長の福島良典氏の「失敗」について聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部副編集長 岩本有平、動画ディレクション/ダイヤモンド編集部 久保田剛史)

LayerX代表取締役社長の福島良典氏Gunosy創業者でLayerX代表取締役社長の福島良典氏 提供:LayerX

 ニュースアプリ「グノシー」を提供するGunosyの創業は2012年のことだ。東京大学大学院に在学中の福島氏とその同級生だった吉田宏司氏、関喜史氏が2011年に趣味として公開したサービスこそがその母体になっている。

 起業後、サービスは順調に成長。2015年には東京証券取引所マザーズ市場への上場を果たした。創業から2年4カ月というスピードだった。2017年には東証一部市場に市場を変更している。

 その後福島氏は、2018年8月にブロックチェーン領域の事業を手がける子会社のLayerXを設立。同社の代表取締役社長に就任する。

 2019年7月には、そのLayerXをGunosyからMBOして独立。同10月には取締役にユナイテッド元取締役でXTech Ventures共同創業者の手嶋浩己氏らを招聘(しょうへい)して、新体制で事業を展開している。そんな福島氏に、Gunosyの創業秘話と、当時経験した4つの失敗を語ってもおう。

創業からの7年間「苦労しかなかった」

 グノシーは、もともとは機械学習の研究室にいた同級生3人で「何か自分たちで作りたい」という話をしていたところからはじまったサービスです。機械学習の分野では、自分たちでプログラムを書いて、自分たちでデータをさわっていないとスキルが上がりません。だからプロダクトも自分たちで作らないといけないと考えていたんです。いざ作ったところで、正直なところ、それがビジネスになるかどうかも分かりませんでした。

 ですがおかげさまでサービスはすぐに伸びてきて、「スマートフォン×ニュース×機械学習」という領域に可能性を感じるようになっていました。それと同時に、趣味として週末にメンテナンスをしている程度では、サービスは終わってしまうとも思いました。サービスって、常に改善していかないと死んでしまうんです。

 長い目で見たとき、インターネット上に記事が増えてきて、「ニュースはパーソナライズされるのが当たり前」となる世界が来ることについては確信がありました。もしそれを僕らがやらなかったら、グーグルやヤフーがやるんじゃないか?それって悔しい、と思ったんです。そうしたことが起業につながりました。

 もう1つきっかけになったのは、当時のスタートアップバブルです。周囲の大学生が続々と起業するタイミングでした。当時僕は22、23歳の頃。一度起業して、失敗したとしても、そのあとは普通に働けると思ったんです。ビジネスにできるかどうかは分からない。でも信じられる未来がある。キャリアとして考えれば、スタートアップをやるのはむしろ人生にとってプラスだろうと考えたんです。

 結果として、僕たちは創業から2年4カ月で上場することができました。世間一般の定義で見れば、僕たちの起業は成功だと思います。ですが、起業家として走っていた僕自身は、めちゃくちゃ失敗をしていたんです。サービスが本当に伸びるのか、マネタイズが本当にできるのかと、不安なことも数多くありました。事業をするお金も集まって、「やるしかない」と覚悟を決めてもがき続けた7年間です。よく「急成長して、苦労はかなかったんですか?」と聞かれるのですが、「苦労しかなかったですよ!」としか言えません(笑)。

 (競合サービスも同じ時期に出てきていたので)競争も意識せざるを得ませんでした。ですから、「絶対的な数字が伸びてる」ということよりも、競合やグローバルにあるサービスと比較して、細かいことや新しいことをしないといけないという危機感を持ち続けていました。もっとユーザーにとって便利なサービスにしなければいけない。でも便利なだけでも使ってもらえない。何よりまず、どうやったら知ってもらえるのか。そんなことをひたすら考えていました。

マーケットが伸びる前に勝負に出る

 ニュースアプリとしてのグノシーは、上場した年に初めて利益が出ているんです。それがなぜここまで成長したのかを考えると、「マーケットが伸びたから」のひと言に尽きると思っています。もちろん、ものすごい努力をしてきた自負はあります。ですが同じように努力しても、マーケットがずれていたために幸運を受けられなかった企業はたくさんあると思っています。それは、紙一重の差だったんだと思います。

 当時、「スマートフォンで、アルゴリズムを使ってニュースを効率化していく」というところで勝負したのが、世の中に刺さったんだと思います。その時点だと、多くの企業にとっては「やってくる(マーケットができる)」かどうか分からなかった。まだマーケットが伸びるか怪しい時に勝負に出たからこそ成長できたんだと思っています。

 2015年に上場して、2017年に東証一部上場まで会社を経営してきました。そして今、ブロックチェーンという次の大きな流れを感じています。インターネットが始まって以来の大きな革命に挑戦しようと思い、もともとGunosy傘下だったLayerXをMBOしました。

 LayerXの事業は、ブロックチェーンを使ってプロダクトを作りたい企業に対して、そのお手伝いをするというものです。企業に対して開発のコンサルティングをしたり、ビジネスモデルの構築をしたりとお手伝いしています。僕らは企業に向けてソフトウェアライセンスを作り、それを使っていただく、もしくは提携や共同事業なども進めていきます。AIの領域で言えば、PKSHA Technology(パークシャーテクノロジー)、PFN(Preferred Networks:プリファードネットワークス)、HEROZといった開発会社がありますが、そのブロックチェーン領域版です。

 インターネットの大きな波がやってきた中で“正しいポジション”を取った企業は大きくなっているんです。ヤフーや楽天、サイバーエージェント、グローバルならGoogleやAmazonですね。そのあとにはモバイルインターネットの波もありました。彼らは大きなリスクを取り、それをコントロールしてきました。同じように、大きな入り口に立たないと成功は難しいと思っているんです。パラダイムシフトが起きる時、リスクを取って“ファーストペンギン“――つまり新領域に一番乗りで挑戦するスタートアップになりたいと思っています。僕らはブロックチェーンについて、時代がやってくると確信しています。ですがまだ確定しているわけではなく、周囲は半信半疑です。そんなところに張りたいと思っています。

「自分の頭で考えていなかった」で直面した、4つの失敗

 僕は今まで多くの失敗をしてきました。その原因は何かいうと、「自分の頭で考えていなかった」ということ。自分の頭で考えきらずに、マーケットで言われている常識や定説と、起業家として直面する「リアル」に差があることに気付いていなかったんです。

 具体的には、(1)「フラットな組織がいい」と言われていたが、実際には崩壊してしまったこと、(2)「テレビCMはブランディングだ」と言われていたが、実際に作ってみるとCPA(Cost Per Action:1人あたりの獲得コスト)が想定の100倍になってしまったこと、(3)「アプリはプラットフォーム化すべき」といわれていたが、実際には誰も使ってくれなかったこと、(4)「受託ビジネスはよくない」と言われていたのに、今は受託で伸びている会社がいること。この4点です。

 まず、フラットな組織についてです。僕は、人の出せる能力の総数は「能力×情報へのアクセシビリティ」だと思っています。ですがここで人間のメカニズムを無視しちゃいけないんです。どういうことかというと、人間本来の機能的に「部下を一定数以上付けるとマネジメントが破綻する」ということがあります。Slackのようなツールを使うことで多少は補完できても、1人で100人のマネジメントはできないんです。

 それなのに「フラット=階層的でない組織」と一面的に考えてしまい、(中間層の)マネージャーを置かなかった。その結果、マネージャーは部下の体調管理すらできなくなってしまって、チームに不満がたまり、多くの人が辞めていくことになりました。フラットな組織の良さって、つまりは情報の平準化だったんです。

 次にテレビCMについてです。CMを作った経験はこれまでありませんでしたが、有力なマーケティングの手段だろうとは考えていました。これまでやってきたモバイル広告の運用では、(クリエイティブを複数作り)CPA、、つまり獲得単価を見ながら高速でPDCAを回すという手法をとってきました。ですが、テレビCMは素材1つ1つのコストもかかります。それで、「ドーンと作って、バーンとやる。ブランディングなので、CM中に同じフレーズを何度も言う」といった提案をいただいたんです。

 僕らが未熟だったので、何の疑問も持たずにそのとおりCMを制作した結果、CPAが想定の100倍になってしまったんです。もちろん同じ作り方でユーザーをうまく取った企業もあるんですが、僕らは数字を地道に見つめて、積み重ねていた会社です。テレビCMだってモバイルマーケティングのように何かしらの指標を作るべきだったんです。その後、クリエイティブを出し分けて、反響を測定していくことで、CMの効率を上げることができました。「得意な方法」を最初からできなかったのは、大きな反省です。

 3つめのアプリのプラットフォーム化ですが、中国の「WeChat」はご存じでしょうか? 彼らはメッセンジャーアプリからスタートして、決済をはじめとした機能を増やしてアプリをプラットフォーム化していきました。彼らを見て、生活での接点を増やして、ユーザーのエンゲージメントを強くするいい事例だと思っていたんです。インターネットの歴史を調べると、Yahoo!もそうですが、プラットフォーム化、ポータル化は“王道”の戦略です。じゃあグノシーでもニュース以外の接点を持てないかとやってみたんですが、これがユーザーに使われなかったんですよ。

 戦略的には正しいという思い込みがあったんですけど、結局のところ、ニュースを読みたい人はニュースを読みたいんです。旅行の予約をしたいわけでも、マンガを読みたいわけでもありませんでした。ネットサービスでは「プラットフォーム化」とはよく言いますが、意味がない多機能化をしても仕方ないんです。大事なのはマーケットを観察することと、「何を求めているか」を考えることなんです。

「受託」が正解だったと証明したい

 4つめの受託ビジネスは、今まさにLayerXで挑戦しているところです。前述のPKSHAやPFNなどは、機械学習の領域でも、(自社サービスではなく)クライアントワークや企業との共同事業をメインにしています。この10年ほどで生まれたスタートアップの中を見ると、メルカリやSansanのような飛び抜けた事例を除いて、領域として大きく成長しているのは、実はこの領域(機械学習関連の受託事業)だけなんです。

「受託」というと誤解を生むかもしれませんが、パートナー企業からお金をいただいてサービスを作る、ということに可能性を感じています。もちろん自社だけでできる事業で協業をすると、意志決定のスピードは(パートナーに引きずられて)遅くなります。ですが、たとえば「自動運転の技術を作りたい」となった時に自動車の企業と組まないのは筋が悪いですよね。結局「何がプロダクトを作るまでの最速なのか」を考えないといけません。

 また、日本はベンチャーファンディングで研究開発をするのが難しい国なんです。もちろんその後は自社サービスをやるのですが、最初はクライアントワークをやっていたという企業は多いんです。ZOZOはECサイトの開発をやっていたし、サイバーエージェントは広告代理店業を今もやっています。GMOも、オンザエッヂ(のちのライブドア)もそうです。

 もちろん受託にも質があります。売り上げなり、ノウハウなり、アセットなりがストックされていくものでなければいけません。それでビジネスへの入り方を間違えなければ、大きくスケールします。世の中的には「受託はカッコ悪い」と言われます。ですが、小さいときにはクライアントワークでも成長するので資本効率的には悪くないんです。そこも含めて、考え方をフラットにしないといけません。僕らも現在進行形でトライしているところです。これが正解だったと証明していきたいと思っています。

原理原則はあっても、「自分で考える」ことが大事

 これからの起業家の皆さんには、「とにかく自分で考えよう」と伝えたいです。起業家というのは、ないものづくしな中でジャイアントキリング(格上を倒す番狂わせのこと。ここではスタートアップが大企業を超えることを指す)を起こさないといけません。

 今は、僕が起業した頃よりもまわりにアドバイスをしてくれる人もいるし、書籍も含めて、情報量が増えています。そこから学ぶ「原理原則」はあるんですが、そういうものはツールでしかありません。結局ジャイアントキリングを起こすには、その人しか見つけていない型であったり、考え方が必要です。瞬間瞬間、自分の組織に合った意志決定が求められるんです。

 組織個別性の「正しさ」しか、スタートアップが大企業に勝つ道はありませんから。常識が勝つ世界、定理で勝つ世界というのは、すなわち大企業が勝つ世界なんです。スタートアップは失敗する。一度失敗するからこそ、リカバリして勝つ。それがスタートアップの真理です。僕はこれからもたくさんの失敗をするでしょう。でもそこで諦めずに、立ち上がります。そうやっていくのが真の起業家なんだと思います。

福島良典(ふくしま・よしのり)
LayerX代表取締役社長
東京大学大学院工学系研究科卒。大学時代の専攻はコンピュータサイエンス、機械学習。 2012年大学院在学中にGunosyを創業、代表取締役に就任し、創業よりおよそ2年半で東証マザーズに上場。後に東証一部に市場変更。 2018年にLayerXの代表取締役社長に就任。 2012年度IPA未踏スーパークリエータ認定。2016年Forbes Asiaよりアジアを代表する「30歳未満」に選出。2017年言語処理学会で論文賞受賞(共著)。2019年6月、日本ブロックチェーン協会(JBA)理事に就任。