
- 入社者情報の一元管理と専用アンケートで効果的なオンボーディングを支援
- 100社へのヒアリングで気づいた企業が抱える真の課題
「人が足りていないので全方位で人を募集している」「調達資金を活用して人材採用を強化する」──起業家に取材をしていると、毎回のように「採用」に関する話を聞く。
特に従業員数が限られるスタートアップにおいては、一人ひとりの貢献度が事業の成長にもダイレクトに影響する。採用に投じられる予算や時間にも限りがあるからこそ、自社に合った人材を採用した上で、新メンバーが少しでも早く組織に馴染んで活躍できるようにサポートすることが欠かせない。
特に新入社員のサポートは近年「従業員オンボーディング」とも言われ、人手不足や人材の取り合いが加速することに伴い重要性が高まってきている。ただ社員を採用しただけでは事業は成長しない。いかに早く組織や事業にフィットした状態になってもらうかこそが重要だからだ。
2月15日にワークサイドが正式ローンチした「Onn(オン)」は、まさにこの従業員オンボーディングの支援に特化したクラウドサービスだ。
入社者情報の一元管理と専用アンケートで効果的なオンボーディングを支援

Onnの特徴は大きく2つある。1つは入社者の情報を1カ所に集約することによって、オンボーディングに関わる部門間のコラボレーションを促進すること。もう1つが「入社オンボーディングに特化したアンケート」などを通じて、入社者のコンディションを可視化することだ。
ワークサイド代表取締役の秋山貫太氏の話では、Onnの開発にあたって50〜60社にオンボーディングの現状をヒアリングしたそう。結果として多くの企業が「体系的なプログラムを構築できていないこと」「入社後のコンディションをタイムリーに把握できていないこと」について課題感を持っていることがわかったという。
「採用から入社までは採用部門、研修は人材開発部門、配属後のサポートは現場の上司やメンターといった形でオンボーディングには複数の部門が関わります。関係者間で情報を一元管理できていれば問題はないのですが、その仕組みがないために情報が分断され、研修のプログラムに一貫性がない、入社者の悩みをキャッチできないなどの課題が生まれているんです。昨年以降はコロナ禍でオンラインでのオンボーディングが増え、入社者の状態を把握することが今まで以上に難しくなってきています」(秋山氏)

そこでOnnでは入社者ごとに専用のページを設け、“Facebookのタイムライン”のような形で面談メモや入社者の状態に関する情報が時系列で蓄積・表示する仕組みを作った。
ポイントはOnnを見ておきさえすれば、各担当者が同じように入社者の情報をつかめること。コメント機能を使って担当者間でコミュニケーションを取ることも可能だ。
またOnnにはオンボーディングに特化したアンケート機能が搭載されていて、これを定期的に活用すれば入社者のコンディションの変化を追っていくことができる。テンプレートが用意されているため、質問項目を用意するのも簡単。配信や集計作業も自動化できるので、アンケートに関する担当者の負担を抑えられる。


秋山氏によると、これまではGoogle スプレッドシートやSlack、Googleフォームなどがオンボーディングの現場で用いられることが多かった。たとえば入社者の情報管理・共有にはスプレッドシートやチャットツールを、アンケートにはGoogleフォームを使うといったように、複数のツールを使い分けながら対応していたイメージだ。
「チャットだと情報が流れてしまう、スプレッドシートだと権限設定や通知設定などの柔軟性がかけるなど、何かしら難しい部分がありました。実際にヒアリングをしていて数社から言われたのが『Facebookのタイムラインみたいに、入社者の情報が自動的に集まってくるような仕組みが欲しい』ということ。そのような声を基にOnnの構想が生まれました」
「アンケートについてもGoogleフォームを使っていることが多く、集計まで含めた一連の作業に時間がかかっているという話を何社もの方から聞きました。組織診断のサーベイサービスなどはあるもののオンボーディングに特化したサーベイやアンケートはなく、どうしても人的な運用になってしまい、現場の負担が大きいんです」(秋山氏)
ワークサイドでは昨年5月にOnnのベータ版を発表。ヤプリ、プログリット、ストックマーク、mikanなどに実際に試してもらいながら、プロダクトの機能拡充を進めてきた。本日ローンチの正式版に関しては月額数万円からの月額定額制サービスとして提供する計画だ。
100社へのヒアリングで気づいた企業が抱える真の課題
秋山氏は2007年に新卒でリクルートキャリアに入社して以降、約10年に渡って採用領域でで仕事をしてきた。
同社では企業の採用支援に加えて、2014年に個人が成長企業に気軽に参画できる「サンカク」の立ち上げを推進。2017年には音声メディアを運営するVoicyに転職し、スタートアップの中でコーポレートや採用関連の業務に携わった。
2018年9月に自ら採用領域で事業を立ち上げるべく、ワークサイドを創業。当初は企業の採用課題を可視化することをテーマに、Onnとは別のプロダクトの開発に取り組んでいたという。
秋山氏にとって転機となったのは、実際に100社を超える企業の経営者や人事担当者と話をする中で、オンボーディングにこそ大きな課題があると知ったこと。そこからプロダクトの方向性を変え、Onnの開発に着手した。
「経営者や人事担当者の方と話をしていると『確かに採用にも困っているが、実は採用後のオンボーディングや従業員のエンゲージメントの方がより困っている』と言われることが多かったんです。担当者も非効率であることは実感しつつ、既存のツールなどを組み合わせながら何とか解決しようとしている状態。その課題をちゃんと解決できるクラウドサービスを提供できれば喜んでもらえるはずだと思いました」(秋山氏)

オンボーディングの課題は大きい反面、すでに採用管理システムや人事管理システムなど複数のソフトウェアを使い分けている企業にとっては、ツールが増えすぎると負担が大きい。オンボーディングだけに特化したサービスを導入することに企業側は抵抗はないのか。
そのことについて秋山氏に聞いてみると、実際に企業からは「人事だけでなく、現場のメンバーや入社者がどれだけ負担なく使えるか」についてはかなり聞かれるそう。だからこそワークサイドではOnnをBtoBtoE(EはEmployeeを指す)のプロダクトと捉え、エンドユーザーとなる従業員のユーザービリティにこだわって開発を進めてきたという。
今後も引き続きオンボーディングに特化する形で機能を磨き込んでいく計画。昨年にはマネーフォワードベンチャーパートナーズが運営する「HIRAC FUND(ヒラクファンド)」や個人投資家より資金調達も実施した。
「ベータ版の導入企業には、会社全体にオンボーディングの仕組みをインストールできることに大きな価値を感じているという声も頂きました。今後もオンボーディングが不慣れな担当者でも適切なフォローアップができる機能などを充実させ、企業のオンボーディングを支援することを通じて入社者の体験をさらに向上させるようなサービスを作っていきます」(秋山氏)