
- 2種類のエレベーターメディアを展開、東京都心部中心に700台設置
- 中国では巨大市場に、日本でエレベーター広告の普及目指す
日本ではここ数年の間に「タクシー」が動画広告の有力な出稿先として認知され、ナショナルクライアントから急成長中のITベンチャーまで幅広い企業に活用されるようになった。
動画広告の普及に伴い、今後どのような場所が新たな広告媒体になりうるのか。グローバルではすでに注目を集めている空間の1つに「エレベーター」がある。
エレベーター広告が盛り上がっている中国では時価総額が約2.9兆円のFocus Media(フォーカスメディア)を筆頭に、複数のプレイヤーが乱立。バイドゥ、アリババ、テンセントといった大手企業によるスタートアップへの出資合戦も白熱している。
2017年設立の東京はこのエレベーター広告を日本でも広げるべく、サービス開発に取り組んできた。現在同社ではエレベーターホールに設置するサイネージ「東京エレビGO」を運営。また2019年11月に三菱地所と設立した合弁会社・spacemotionを通じて、エレベーター内に設置するタイプのサイネージも手掛ける。
両方を合わせると東京都心部のオフィスビルを中心に700台以上の端末を設置しているが、今後は体制を強化してさらに端末の数を増やしていく計画。そのための資金として、2月16日に三菱地所、XTech Ventures(既存投資家)、エンジェル投資家を引受先とする第三者割当増資により3.6億円を調達したことを明らかにした。
2種類のエレベーターメディアを展開、東京都心部中心に700台設置
上述した通り、東京では自社と合弁会社を通じて2種類のエレベーターサイネージを運営している。
1つが現在600台以上の端末を設置している東京エレビGOだ。同サービスはオフィスビルなどのエレベーターホールにスマートディスプレイを設置することで、その場所をメディアに変える。
そしてもう1つがspacemotionが展開する「エレシネマ」。東京エレビGOとは異なりエレベーターの中を対象としたサイネージだが、こちらはスマートディスプレイではなくプロジェクターを設置し、前方の扉にコンテンツを投影する。扉をフル活用した大型の画面が特徴。開閉を検知するセンサーを用いることで扉の動きに合わせて放映が開始・終了する仕様になっている。


この2つの端末では動画広告に留まらず、提携メディアのコンテンツやビル管理会社からのお知らせなどを配信することが可能。オーナーの視点では無料で設置できる上に、長時間の工事もいらない点がポイントだ。
東京で代表取締役を務める羅悠鴻氏によると「無料でビルの価値を高められる仕組み」としてREIT(不動産投資法人)や不動産デベロッパーでの利用が進んでいるとのこと。たとえばREITの場合は端末上で「ビルごとの避難マップ」など公益的なコンテンツを配信できる点が好評で、安全面に配慮した“ESG(Environment, Social,Governance)施策”の一環として人気を集める。
実際に7社の上場REITが決算資料でアピールするほどなのだという。

またデベロッパーにとっては一切費用をかけることなく、ビルをアップグレードできる手段として機能しているそう。仮にリノベーションをするとなると資金が必要なだけでなく、やり方次第では気づかれないことさえある。その点エレベーターにデジタルサイネージを設置する方法はわかりやすく、上手くいけば新規テナントの誘致や賃料アップにも繋がる。
「必要なのは電気代くらいで、初期費用や月々のランニングコストなどは一切かかりません。その点の評判が良く、実は口コミで既存の利用者の方から別のオーナーを紹介いただき、設置に繋がることも多いんです」(羅氏)
広告を出稿する企業は今のところ大手企業とSaaSを展開する拡大中のスタートアップがそれぞれ半分ずつほど。東京では広告主に対して同社のサイネージが設置されているビルのテナントリストを提供しているため、気になる企業に重点的にアプローチできるのが1つの特徴なのだという。
具体的な売上などの数値は非公開だが、昨年10月〜12月に関してはいずれも満稿だったそうだ。
「リーチするだけならインターネット広告でもいいのですが、実際に営業に行くと反応が違う。1ケ月も広告を出稿しているとそのビルのほとんどの人が認知しますし、コンバージョンにも影響してくるんです。クライアントからも広告を出したビルと出してないビルでは、明らかに前者の方が営業の進捗が良いというフィードバックを数字ベースでいただいたりもしています。純粋な広告メディアというよりは、販促ツールとの中間に位置するようなイメージかもしれません」(羅氏)

中国では巨大市場に、日本でエレベーター広告の普及目指す
東京は創業者の羅氏が東京大学大学院に通っていた際に立ち上げたスタートアップだ。
アイデアのきっかけは学部生時代に大学のエレベーター内に張り出されていた英語の文章に目が止まったこと。何度も繰り返し乗っている内にその内容に関心を持つようになった経験から、エレベーターにメディアとしての可能性を感じるようになったという。
アイデアを紙に書いて飛び込みで銀座のビルオーナーに営業をかけてみることからスタートし、少しずつプロダクトを作り込みながらローンチに漕ぎ着けた。
当初は現在のエレシネマとは異なり、エレベーター内にスマートディスプレイを設置するタイプの「東京エレビ」を開発。ただ実際に運営する中でエレベーター内では端末との距離が遠く、視認性の観点からより大きなディスプレイの方が広告媒体としても価値が高いと判断し、プロジェクター型のエレシネマへと方向性をシフトした。
冒頭でも触れた通り、すでに中国ではエレベーター広告がかなり熱い市場になっている。日本以上に「テレビが地方の高齢者など一部の人からしか見られない媒体になっている」(羅氏)ことに加え、インターネット広告の価格が上昇しOOH(屋外広告)に再び目が向けられていることも大きい。
中でもデジタルOOHとして人気を集めるのがエレベーター広告であり、Focus Media(アリババが出資)やXinchao Media(バイドゥやJD.comが出資するユニコーン企業)、Tikin Media(テンセントが出資)などをはじめ複数社がしのぎを削っている状況だ。
羅氏によるとFocus Mediaなどへの出稿額を見ると、上位にはVCから大型の資金調達を実施したスタートアップが並んでいるのだそう。東京としては日本で同じような状況を作るのが目標だ。

今回のラウンドではこれまで合弁企業を共に運営してきた三菱地所との関係性がより強固になった。出資を受けることでエレシネマだけでなく、東京エレビGOについても同社の力を借りながら普及させていく計画。2021年12月末までに累計2000台の設置を目指すほか、広告の展開やオリジナルコンテンツの制作などでも連携を見込む。
また新たな取り組みとしては「エレベーター広告におけるGoogleアナリティクス」のような分析ツールも開発する予定だという。
「ネット広告がさらに加熱してくると、日本でも中国と同じようにデジタルOOHの領域にもっと資金が流れてきて、エレベーター広告のチャンスも広がると思っています。その市場をしっかりと抑えて、企業が動画広告を出稿したいと考えた際にYouTubeやSNS、タクシーなどと並んで検討されるような媒体を目指していきます」(羅氏)