
- 30歳以上の起業家を積極支援、独自ルートでユニークな会社に出資
- シード・アーリーVCでも50億円のファンドサイズでは戦えない
- VC事業としてチーム強化、曖昧な領域に積極的に投資へ
サイバーエージェント時代に複数の事業の立ち上げに携わり専務取締役も務めた後、独立系VCのWiLを立ち上げた経験を持つ西條晋一氏。前職のユナイテッドで取締役として新規事業を牽引する傍ら、創業半年後のメルカリに投資をするなどベンチャー投資にも深く関わっていた手嶋浩己氏。
投資家としてだけでなく経営者や事業家としても豊富な経験を持つ2人の代表パートナー率いるXTech Venturesが、新ファンドを組成してスタートアップ投資を加速させる。
新ファンドの名称は「XTech2号投資事業有限責任組合(以下2号ファンド)」。LP(Limited Partner)には1号ファンドから引き続きみずほ銀行やみずほキャピタル、東京建物、ミクシィなどが名を連ねるほか、新たにエンジャパンやグノシーなども加わっている。
ファーストクローズ時点で53億円を集めており、2018年8月に組成した1号ファンドと合わせた累計の運用総額は100億円を超えた。最終的には2号ファンド単体でも最大100億円規模までサイズを広げていく計画だ。
30歳以上の起業家を積極支援、独自ルートでユニークな会社に出資

総額52億円規模の1号ファンドでは39社へ投資を実行。2019年12月に東証マザーズへ上場したスペースマーケットや先日ポーラ・オルビスホールディングスによる買収が明らかになったトリコを筆頭に、領域を限定せずシード・アーリー期を中心に幅広い企業へ投資をしてきた。
XTechが自らの特徴としてうたうのが経営者としての経験が長い西條氏・手嶋氏ならではのネットワークを活かした独自のソーシングルートだ。
たとえば西條氏の元にはサイバーエージェント時代の後輩や同社出身の起業家が相談にくる。手嶋氏も経営者として過ごしてきた期間が長いため、普段から会う経営者の繋がりで起業家と出会うことも多いそう。30代を超えるようなミドル層の起業家の中には10年来の付き合いがあり、出資に至ったケースもある。
こうしたパートナーの特性に加え、当初からミドル層の起業家の背中を積極的に後押しすることを掲げていたこともあり、1号ファンドの起業家の74%はミドル層(投資実行時の代表者の年齢)。他のVCと競合しないケースも多かったそうで、結果的に最初のVCとして出資するケースが64%、投資ラウンドにおいてリードをとることも79%だったという。


「たとえばSaaSなどは知見がある人であればエコノミクスを見て今後の成長が予測しやすいです。正直そのような領域はファンド規模が大きくて専門性のあるSaaSに特化したファンドの方が強い。もちろん自分たちも機会があれば投資はしていきますが、それよりも曖昧な要素の大きい領域の方が、起業家自身を見たり経営感覚で判断したりといったように、自分たちの経験や強みをより活かせると考えています」(西條氏)
「特にシード・アーリーの場合は、今目の前でやっている事業だけを見ていないこともあります。実際に投資をしたタイミングでは受託会社だった投資先もありますが、この人であれば独自のプロダクトを生み出せるのではないかという感覚がありました。私自身も単なる広告代理店の会社をユナイテッドへと発展させるプロセスに関わっていたので、そのような進化形もあると実体験で理解しています。その点は他のVCとは考え方やアプローチが少し異なるかもしれません」(手嶋氏)
確かに資金調達のタイミングではまだ自社プロダクトを持たず受託案件を軸にしている企業や代理店に近いような事業モデルの会社もあり、筆者自身も「VCはこういう事業モデルの会社にも投資をする可能性があるのか」と意外に思った記憶がある。
「他のVCに断られて私たちのところに来たという起業家も中にはいます。1号ファンドでは、必ずしもVC受けが良いわけではなかったとしても、自分たちにとっては魅力的な会社にたくさん出資をすることができました」(手嶋氏)
シード・アーリーVCでも50億円のファンドサイズでは戦えない
今回の2号ファンドでも基本的な投資方針や投資対象は変わらない。シードアーリーステージのスタートアップを軸に、一部はプレIPOステージにも投資をしていく構え。引き続きミドル層をバックアップしつつ、若手起業家にも投資をする。
領域についても限定はしないが、以下の3つの分野には特に注目をしていくそうだ。
- 特定産業に対する深いDX
- シェアリング/オンデマンドエコノミー時代の細かい単位のマッチング
- ソフトウェアやクラウドサービスを通じた企業/個人の生産性の向上

投資方針は変わらない一方で、ファンドサイズは最大で約2倍まで広げる計画だ。投資先の数自体は1号ファンドから大きく変わらない見込みで、その分1社あたりの投資額を1.5億円〜2億円まで拡張。累計の投資金額は1社最大で5〜6億円まで増やす考えだという。
近年は独立系VCのANRIやSTRIVEを代表するように、シード・アーリーステージの企業に投資をするVCでも100億円超えのファンドを組成し、場合によってはレイターステージまで継続してサポートできる体制を整えつつある。
スタートアップに投資するVCでも3桁億円のサイズ。シードから始めてアーリーステージや場合によってはレイターまで継続してサポートできることを強みにするVCもいる。XTech Venturesとしても「当然その動きは意識せざるを得ない」(西條氏)状況だ。
たとえば最近はシリーズAで二桁億円前後の資金を調達するといった例も珍しく無くなってきている。そのタイミングで声をかけてもらっても、1号ファンドではリード投資家として出資をするのが難しいことも過去にあったそう。既存の投資先が急成長を遂げる中で、さらにフォローオンできる体制が必要という考えもある。
「実は1年くらい前までは50億円規模のファンドを継続していく形で良いのではという考えもありました。ただ、今のVC業界の競争環境を踏まえるとそのサイズでは戦いにくい状況になってきているという感覚があったんです。ある程度フォローオンができる余力もなければ戦えないなと」(手嶋氏)
「反対にもう1人GPクラスの人材を連れてくるなどして、200億円規模を目指すという議論もあった。でもファンドサイズを拡大することが目的というより、今の投資スタイルを続けていくことを念頭においた時に、今回のサイズ感が自分たちの身の丈にもあっているという結論に至りました」(西條氏)

1号ファンドの投資を始めた約2年半前と比べても主要なVCのファンドサイズが拡大しているほか、グロースファンドの台頭や海外VC・機関投資家による日本企業への出資など、状況は大きく変わってきた。
当然ながらVCの視点では出資先の獲得競争もあるが、なかなか表には見えづらいものの裏ではLPの獲得競争も生まれ始めているという。
実際に今回ファンドレイズを進める中で、既存のLPの中には「出資するファンドを絞る」という声もあったそう。そのケースでは出資を決めてもらえたというが、自分たちから提案に行ったLP候補は同じように複数のVCからアプローチを受けていて、最終的に断られる場合もあったという。
「まだまだVCに流れてくるマネーが限定的だと考えたときに、当然ながらそこでも競争が生まれる。VCとしても(LPから)選ばれ続けるための努力が必要だと感じています」(手嶋氏)
VC事業としてチーム強化、曖昧な領域に積極的に投資へ
スタートアップの目線では多様な資金調達手段が生まれつつあり、場合によっては必ずしもVC調達に頼らなくてもいいかもしれない。
手嶋氏は一例としてGMOペイメントゲートウェイが提供する「SaaS企業向けキャッシュフロー早期化プログラム」を挙げていたが、特にSaaSのようにエコノミクスが見えやすい領域は、今後はFinTechでまかなえる部分も出てくるという考えだ。
だからこそ「VCとしては比較的曖昧な領域に対して、自分たちの考えをもとにリスクを取って投資をした上で、尚且つ結果を出し続けるということをやっていかないといけない」と手嶋氏は話す。
これまでXTech Venturesでは西條氏と手嶋氏を中心に主に5人のメンバーで投資業務を進めてきたが、2号ファンドからは採用も強化し、“VC事業”として今まで以上にチームで投資をするスタイルへと変えていく方針。GP2人以外の投資案件も増やしていきたいという。