
- 利用中のSaaSを統合管理、面倒なアカウント発行業務も自動化
- 3月からアルファ版を提供、今夏にはオープンベータ版の公開も
日本でも便利なSaaSの普及が進み、1社あたりが複数のSaaSを導入することも珍しくなりつつある。その一方で、SaaSの導入が進めば進むほど「管理」や「モニタリング」の課題が生じやすいのも事実だ。
- 社員の入退社ごとにアカウントの発行・削除業務が発生し、担当者の負担が大きい
- どの従業員がどのSaaSを使っていて、どれだけのお金がかかっているのかを正確に把握できていない
- アカウントの削除漏れによって無駄なコストが発生している
企業内ではこのような課題が生まれ始めている。これは何も日本に限った話ではなく、SaaS大国のアメリカでは以前から顕在化していたものだ。それに対する解決策としてSaaSを一元管理して運用を効率化できるサービスが複数登場している。
日本でもこの流れを追うように、昨年ごろからSaaS管理の課題に取り組むチームが出てきた。
2020年12月創業のLBVもこの領域に取り組む1社だ。現在SaaSの一元管理サービス「NiceCloud」を開発中で、近々クローズドアルファ版を複数社に提供する予定。本日より事前登録もスタートしていて、アルファ版で得られたフィードバックを踏まえて今夏にはベータ版を提供する方針だ。
そのLVBではプロダクト開発の資金としてCoral Capital、ANOBAKA、個人投資家を引受先としたJ-KISS型新株予約権の発行および金融機関からの融資により、総額約1億円の資金調達も実施している。
利用中のSaaSを統合管理、面倒なアカウント発行業務も自動化
NiceCloudが解決するのは大きく2つの課題だ。
1つはSaaSのアカウント管理。たとえば社員数が数十人〜100人規模にまで膨らんできて、管理するSaaSが10個近くになってくると「誰がどのSaaSを使っているか」を把握する難易度が上がる。また社員やSaaSの数が増えるほど、担当者のアカウント発行や削除にかかる負担も増す。
そしてもう1つが月々の料金の把握と費用の最適化。誰がどのSaaSを使っているのかがわからなければ、「どのSaaSにいくら支払っているのか」もわからない。“アカウントの削除漏れ”によって余計なコストが発生することも珍しくなく、NiceCloudではこれらの課題にも対応している。

同サービスのダッシュボードでは利用中のSaaS一覧が表示されるとともに、各SaaSを何人が使っていて、トータルでいくらの料金を支払っているのかが可視化される。サービスの詳細ページでは現在に至るまでの利用履歴や具体的に誰がそのSaaSを使っているのかを確認することが可能。社員ごとのページでは、そのメンバーが今どのSaaSを利用しているのを特定することもできる。
NiceCloudの特徴の1つは、社内で導入しているSaaSを管理した上で“ワークフロー”を用いて担当者のアカウント管理業務を自動化できる点だ。たとえば職種ごとに必要となるSaaSをあらかじめワークフローとして設定しておけば、新入社員の名前とメールアドレスを入力するだけで必要なアカウントが自動で発行される。
LBV代表取締役の伊藤翼氏によると今後はこのワークフローが強化され、アカウントの発行や削除だけでなく、権限管理などより細かい作業も効率化・自動化できるようになるという。
また現時点では搭載されていないものの、SaaSの解約忘れを防止するアラート機能も早い段階で実装する計画だ。
「ある数百名規模の会社からは、四半期に1回アカウントの棚卸しをするとアカウントの削除漏れが数件は見つかるという課題を伺いました。誰も使っていないアカウントに支払うコストは、ただの無駄になってしまっている。正確にアカウント管理をして請求情報を可視化することで、ほとんど使われていないSaaSに対して『アカウントを減らしませんか』とアラートすることもできるようになると考えています」(伊藤氏)
3月からアルファ版を提供、今夏にはオープンベータ版の公開も
伊藤氏は慶應義塾大学を中退後に複数のスタートアップでエンジニアとしてプロダクト開発に携わった後、2016年にRegulusTechnologiesを立ち上げた。
同社では面倒な日程調整をチャットボットが代行してくれるサービスなどを運営。2018年に会社をツナグ・ソリューションズに売却し、ツナググループ・ホールディングス執行役員を経て再び自らスタートアップを立ち上げる道を選んだ。
SaaS管理の領域を選択したのは、自身が実際に前職などでアカウント管理の業務を担当していて「毎回同じようなことをやるのが大変だと思っていた」から。調べてみるとSaaSの普及が進むアメリカではすでにSaaS管理サービスが台頭してきていて、日本でも今後必要性が高まると感じた。実際に日本でも昨年8月に紹介したイエソドやメタップスがこの領域で事業を始めている。
LBVでは社員数が50人を超えるスタートアップやベンチャーを中心に、まずはテスト版となるクローズドアルファ版を3月から提供していく計画。継続して機能強化を進めながら、今夏にはオープンベータ版の公開を予定している。課金体系は検討中ではあるものの、社員数をベースとした月額定額制を考えているという。
「SaaSの統合管理サービスが日本でも普及すると、1社が1つ導入していく世界になると考えています。その中で大きなサービスを作れれば、ゆくゆくはSaaSのレコメンドなどにも挑戦できると思うので、日本で1番SaaSに詳しいプラットフォームを目指していきたいです」(伊藤氏)