Sansan共同創業者で取締役・Sansan事業部⻑の富岡圭氏 Photo by Yuichi KobayashiSansan共同創業者で取締役・Sansan事業部⻑の富岡圭氏 Photo by Yuichi Kobayashi
  • 重要度が増す企業の“反社”対策
  • 名刺をもとに“リスクのある会社”を自動通知
  • 反社チェックの不備で上場廃止という事例も

吉本興業所属の芸人らが、振り込め詐欺グループの主催するパーティーに参加して金銭を受け取った問題を契機にして、メディアでもその名前が挙がるようになった「反社会的勢力」。法人向けクラウド名刺管理サービスを提供するSansanが、そのチェック機能を来年3月にも提供するという。(ライター こばやしゆういち)

重要度が増す企業の“反社”対策

 吉本興業の複数のタレントが振り込め詐欺グループから金品を受け取っていた、いわゆる「吉本騒動」をきっかけにしてその名が広まった「反社会的勢力(反社)」。企業は今まで以上に、この反社への対策が求められるようになっている。

 政府はすでに、2007年に法務省が発表した『企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について』や、2011年までに全都道府県で発令された『暴力団排除条例』などによって、各省庁や自治体での規制を強化している。

 これを受けて、各企業で反社チェック・コンプライアンスチェックが進められるようになっているのだが、現状のチェック作業はウェブ検索がメイン。多くの場合、法務部門・コンプライアンス部門の担当者による属人的な作業になるため、業務負荷が高く、チェック漏れのリスクも少なくない。

 そんな法務部門の課題解決に立ち上がったのがSansanだ。同社は10月30日、法人向けクラウド名刺管理サービス「Sansan」の上で「コンプライアンスチェック・反社チェック機能」を開発すると発表した。トムソン・ロイターグループを前身とするリフィニティブとパートナーシップを組み、2020年3月をめどにサービスを提供する予定だ。事前の受け付けも開始している。

名刺をもとに“リスクのある会社”を自動通知

 Sansanは、スキャナーやスマートフォンアプリを使って名刺を撮影すれば、AIと手入力を組み合わせて名刺の文字情報をデータ化している。新機能を導入すれば、データ化した名刺の「会社名データ」と、リフィニティブのコンプライアンス関連データベースとを名寄せし、リスクのある企業を自動で検出する。名刺交換相手がリスクのある企業であれば、Sansanのサービス上で通知されるようになる。法務部門・コンプライアンス部門への通知機能なども提供する予定だ。

新機能のイメージ Photo by Y.K.新機能のイメージ Photo by Y.K.
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 Sansan共同創業者で取締役・Sansan事業部⻑の富岡圭氏は機能提供の理由について、次のように話す。

「Sansanは、交換した名刺を99.9%の精度でデータ化する仕組み。そのデータ化された名刺情報と、リフィニティブのコンプライアンス関連データとを自動的に名寄せします。もしも名刺交換の相手がリスクのある企業だった場合、Sansan上に通知されますので、時間や手間をかけず、早期にリスクを把握できる。それが最大のメリットです」

 もともとSansanには、ユーザー企業から「名刺データをもとに反社チェックをすることはできないか」との声が多数寄せられていたという。Sansanでは、社会的な反社対策の高まりとともに、こうしたユーザーニーズに応えるかたちで今回の開発に着手したという。

「Sansanのサービスは、名刺管理を通じて営業活動の後押しをしようというところから始まった。そして現在、名刺情報を企業全体で活用できるよう『資産化』するところまで成長してきました。私たちが目指しているのは、Sansanというサービス上に、あらゆるビジネス情報を集約する『ビジネスプラットフォーム』というあり方。反社チェック機能の追加も、まさにその一環としての取り組みです」(富岡氏)

 Sansanの反社チェック機能の共同開発パートナー・リフィニティブは、世界約190ヵ国、4万社を超える企業や公共機関に、マネーロンダリングやテロ資金供与など膨大な量の“ブラック企業”データを提供している世界有数のデータプロバイダー。同社が提供している「World-Check」というデータソリューションには、10万件以上の情報ソースから集められた約440万件(2019年10月現在)のプロファイルが収められており、毎日2回、最新の情報にアップデートされている。Sansanの反社チェック機能では、その「World-Check」のデータベースを利用することになる。

反社チェックの不備で上場廃止という事例も

 スタートアップなど小規模な企業の場合、法務・コンプライアンスの責任者が存在しないということも決して少なくない。そんな場合にも、専任の責任者を置かなくてもよいというSansanの反社チェック機能は、かなり有効な手段だと同社は主張する。たとえば上場を目指すとき、その審査項目として、反社との関係の有無はもちろん、どのような方法で反社チェックを行っているかが問われるからだ。

 実際、2015年には、第三者割当増資を行おうとしていたある企業が、その割当予定の企業に反社の疑いが発覚したにもかかわらず、その事実を証券取引所に報告しなかったため上場廃止に追い込まれたというケースもあった。スタートアップのこうした事例はなかなか表面化しないものの、反社チェックの不備によって上場がご破産になったり、取引先に反社の疑いがあったために投資を受けられなくなったりすることは十分に考えられるシナリオだろう。

 今回Sansanが提供予定の反社チェック機能は、Sansanのオプション機能として提供される予定。料金は未定だが、Sansan本体の月額利用料金の20%程度を追加費用とすることを想定しているという。