
- ハラスメントに関する認識は「なかった」
- もともとは「ファンドだけ」やる予定だった
- ハラスメント「一切なかった」とは言えない
- 社宅の家賃問題、倫理観で「アウト」
- 「根回し」は当然の行動
- スタートアップとファンドの問題を一緒にしてはいけない
「ほかの媒体でも語りましたが、本当はもうこの話はしたくないんです。これからの話をしたい。ですが今回は投資家の方も巻き込んでしまったので」──ベンチャー支援・ファンド運営を行うWEINを立ち上げた人物であり、プロサッカー選手、投資家などの顔を持つ本田圭佑氏はDIAMOND SIGNALの取材にこう切り出した。
本田氏とネスレ日本代表取締役社長兼CEOの高岡浩三氏、FiNC Technologies創業者の溝口勇児氏が立ち上げたこのチームは、溝口氏を除くファンドのGPと、グループ会社1社の代表が退任する事態に発展している。
WEINグループの実態や組織としての反省点について、「WEIN挑戦者0号FUND(0号ファンド)」のGPだった本田氏に聞いた。
ハラスメントに関する認識は「なかった」
──WEINグループはもともと、本田氏と溝口勇児氏の2人の考えからスタートした、と聞いています。改めて、成り立ちについて教えてください。
溝口さんがFiNCの代表取締役CEOを退任した日(編集部注:2019年末)に、僕から連絡をとりました。そのときは、彼に対して「これで一緒にやれるね」と、前向きな言葉をかけたことを記憶しています。
もともと彼とは友人関係にあったわけですが、そこで僕が前向きな言葉をかけた理由は彼の“人を巻き込む能力”に魅力を感じていたからです。僕自身、これまでにたくさんのスタートアップに投資をしていますが、投資した後に全然サポートができずにいて、そこはずっと課題に感じていました。だから“人を巻き込む能力”がある人と組めれば、もっとスタートアップをサポートしてあげられるのではないか、と思ったんです。
溝口さんはFiNCを7年ほど経営していましたし、当時から彼の個人のエンジェル投資も含めて、スタートアップのサポートをしている印象を持っていました。そうした点に魅力を感じましたし、僕にない部分を補ってもらえることを期待して、彼には「一緒にやれるね」と声をかけました。
──FiNCの退任において、ハラスメントが関係していたと言う人もいます。そこに関して、当時の本田さんは何か思う部分はあったのでしょうか。
正直言って、その認識は全くありませんでした。僕に対して、そうした素振りを見せることはなかったですし、僕が親しくさせてもらっている共通の友人に対してもなかったです。
ただ、それがどんどん変わっていった、ということですよね。

もともとは「ファンドだけ」やる予定だった
──WEINグループはファンドとスタートアップ支援の会社をそれぞれつくっています。これに関しては本田さんが個人で運営するファンドや、他に携わっているファンドとも異なるスキームだと思うのですが、なぜこのようなスキームにしたのでしょうか。
もともとはファンドだけをやる予定だったんです。ファンドを立ち上げるにあたって、僕個人のファンド「KSK Angel Fund」の国内における投資活動は一切やめて、それをWEIN挑戦者FUND切り替えようと思っていました。
そうすればコンフリクト(対立)も起きないですし、「本田さんの個人投資はすべてWEINから行うことになった」といえば資金も集めやすくなると思いました。
ただ、彼がやりたかったことはインキュベーションやファイナンスといったスタートアップ支援の部分だったので、そこに関するストラクチャーは彼発信で構築していきました。それに対して、僕は「関われること、関われないことがある」とは常々言っていました。
ハラスメント「一切なかった」とは言えない
──スタートアップの事業を支援する「WEIN Incubation Group(WEIN IG)」、ファイナンス面を支援する「WEIN Financial Group(WEIN FG)」の座組みができる前から、海外にいる本田さんの耳にもパワハラの話が漏れ聞こえるようになっていたのは事実ですか。
2020年4〜5月頃からパワハラ、モラハラの話は聞こえてくるようになっていました。ただ、先ほども言ったように当時は溝口さんに対して“ハラスメントをする”というイメージはなかったので、大した問題ではないという認識で対応していました。こういう話はどの経営者、従業員の間でも起こり得ることだろうな、と。
そのときはたまたま、そういう話が出てきただけかと思っていたんです。ただ、それ以降もハラスメントに関する話が西本さんから、どんどんあがってくる。それで話の内容を聞いてみると、「確かにこれは一線を超えているな」というものもありました。
とはいえ「WEINをやる」と決めた以上、途中でやめるわけにもいかないですし、なんとか前を向いてやっていかないといけない。そういう覚悟でやっていました。僕もLPとしてお金を入れてますし、僕の信用も使ってお金を集めている。何ならWEIN 挑戦者FUND立ち上げの発表(編集注:発表は2020年5月)も終わっていましたから。問題という認識はありましたけど、その頃は最終的には何とかなるだろう、という考えでした。
実際、当時最初は西本さんから情報を聞いているだけだったので、パワハラ、モラハラに関して「ほんまかいな」と思っている部分もありました。
ただ、パワハラ、モラハラの話が全然なくならないので、僕も秋ごろからそのことに関する情報を独自に集めるようにしたんです。そうしたら僕にとって、クリティカルな問題が発覚して。それが投資予定のスタートアップに対するパワハラでした。
これに関してはそのスタートアップの代表に直接電話をして話を聞きました。「これは誘導尋問でもないし、西本さんの言っていることだけを100%信用しているわけではないので、フラットな目線で素直に答えて欲しい。WEINが今後も迷惑かけないように対応するので」と言って事実確認をしたら、パワハラ、モラハラと言えることを確実にやっていました。
細かい部分に関しては西本さんが表現を誇張していたことはあったのかもしれませんが、僕は(当事者に)直接話を聞いた内容で確実に「アウト」だなと思いました。
──なるほど。
投資を予定している企業に対して、パワハラ、モラハラをしていた。僕は投資をするスタートアップの支援をちゃんと行いたかったわけです。ファンドを立ち上げたもともとのビジョンに照らし合わせれば、この行為は僕にとって倫理的に逸脱している行為だった。
その後、僕がWEINグループの人とミーティングしているとき、ミーティングの途中で「この後、溝口さんも入ります」と連絡をもらい、溝口さんがその場に、そのスタートアップの代表を連れてきました。そこで溝口さんは彼に対して、「そんな事実はなかったよね」というように誘導尋問を始めたわけです。僕は「すごく言わされているな」と思いました。ですが、彼はできる範囲で一生懸命回答していました。
この件に関しては、最終的に西本さんが誇張した部分はあったかもしれません。訴訟が起きる事態には至ってないですし。これ以上でも以下でもありません。
ただ、事実としてきちんと認識しておかなければいけないのは、そのスタートアップがWEINからの投資を断っていること、その後にスタートアップの代表が溝口さんとのやりとりに弁護士を立てると言ったことです。この事実だけでパワハラ、モラハラが一切なかったとはどう考えても言えないな、と。秋ごろから自分で一次情報を取りにいって、どうやら西本さんの言っていることは、ほとんど間違いないと確信しました。
社宅の家賃問題、倫理観で「アウト」
──溝口氏の退任を要求した理由として、パワハラやモラハラの他にも資金の不正支出、信用リスクなどもありましたが、その点について、本田さんの見解を教えてください。
溝口さんは上手に否定すると思いますが、すべて事実です。
いろいろありますが、個人的にクリティカルに問題だなと思ったのは、自宅を社宅扱いにして、敷金と礼金をあわせて400万円、家賃72万円をWEINから支払っていたことです。それが法的に問題あるかどうかは分からないですが、僕の倫理観からすると完全にアウト。また、僕はWEINにもお金を出していますが、そうなっている事実も知りませんでした。
──知らなかったんですね。
知らないですよ。それで後々、WEINの財務まわりを見ている人から「この件に関してはあとで返金する予定でしたが、資金を移す前に一言声をかければよかったです」と言われたので、少なくとも事前に言っていなかった罪悪感はあるんだと思います。「認識が甘い」で済ませるかどうかですが、この一連の騒動に関してはこういったことの連続じゃないですか。
これらをすべて肯定しようと思えば肯定できるのかもしれないですけど、そうなるとそもそも価値観が違うよね、と。他の媒体でも話しましたが、とにかく一連の騒動を早く終わらせたいのが本音です。
──12月1日の全社員を集めたミーティングは本田さんが提案したのではないかと聞いています。全社員にミーティングの内容を聞かせることを決めたのはなぜでしょうか。
まず、そのミーティングを開催した前提について話しますが、「溝口さんがこのままトップにいたらWEINは成功できない」というのが、彼を除いた経営陣の出した結論でした。当時、僕は海外にいたので、高岡さん、西本さん、岡本さんの話を聞くことからスタートしたのですが、彼らの話を聞いて、その方向性に納得しました。
ただ、僕が彼と始めたプロジェクトなので、高岡さん、西本さん、岡本さんには「この事態を招いたのは僕の責任でもあるので、僕から直接本人に言いたい」と話しました。それを彼らに伝えたとき、議論としてあがったのは「本田さんがひとりで溝口さんに何かを言っても、彼は変わらない」というものです。
僕が1対1で話をしたとしても、溝口さんは「そんなことやっていない」という主張するばかりで、話が前に進まないのではないか、と。僕は過去に溝口さんにパワハラ、モラハラ、マネジメントの手法に関して何度か忠告をしていたこともありますし、これらのことは十二分に社内でも明らかになっている。だから、全社員がいる前で話すほうが効果的ではないかとなり、僕としてはどちらでもいいので「そうしましょう」と言いました。
「根回し」は当然の行動
──そのミーティングを開催した後の会社のアクションとして、投資家から「(経営陣が)仲直りをしなければ出資を回収したい」という話が出てきたと思います。それを受けて溝口さん側は、「自身は退任しない。(投資家が)資金を回収したいのであれば、溝口氏がWEIN FGの代表とファンドのGPをやる要求を飲んでほしい」というコミュニケーションがあったと聞きますが、それに関しては事実でしょうか。
それは100%事実です。
──彼は本田さんたちにGPを辞めてほしい、とコミュニケーションしたと聞いています。
(担当者間でのやりとりのため)本人とはコミュニケーションをとっていないですよ。僕が彼と最後にコミュニケーションをとったのは、12月頃だと思います。先日、彼からメールが送られてきましたが、中途半端にやり取りするとみんなに迷惑をかけると思い、返信もしていません。
そのメールの内容も「話し合いたい」というものでしたが、それも2カ月ぶりの連絡。12月以来、全然連絡とっていなかったですし、それまでの条件面の交渉などは全部、間に誰かが入っています。
あ、でも僕の間違いでなければ、千葉さんがいるミーティングの途中、溝口さんが入ってきたことはあり、その場で直接要求していたような気もしています。
──結論としては「(溝口氏以外のGPが)ファンドを降りてほしい」という表現になった、と。
それは間違いないです。僕もそう認識していますから。
──その一方で、本田さんや千葉さんが全LPに対して「解散請求の紙を用意して連絡した」と。言い方を変えると「根回しをされた」と聞いています。
それは事実です。でも当然ですよね。僕たちが一番難しかったのは、投資家に資金を返金する際、溝口さんが「本田さん、高岡さん、西本さんがファンドのGPを降りないとサインしない」と言っていたことなんです。
僕らとしては、僕らの名前でファンドの資金を集めた認識もある。だからWEIN IG、WEIN FGの資金に関しても、だいぶ損をさせてしまったかもしれないですけど1円でも多く返金しようと思っていたんです。彼がそれをできない条件を突きつけてきた。
それで投資家の人たちに「こんなことを言われているので、ちょっとだけ待ってくれないか」と言ったのですが、無理だった。言ってしまえば、僕らは板挟みの状態になっていました。投資家からは「今日中にサインしてくれ」と言われる。
でも、僕らからすると、これにサインしたらファンドから降りざるを得なくなり、GPではなくなってしまう。それだけがずっと気がかりだったんです。それで僕自身もファンドのLPだったので、根回しをした。これが事実です。
スタートアップとファンドの問題を一緒にしてはいけない
──本件に関しては、WEINのインターンがnoteを書くなどして(今回の騒動が西本氏主導で行われた、本田氏が12月1日のミーティングで溝口氏を断罪したといった内容。現在は削除されている)、溝口さん側は疑義を否定しています。これらについて、本田さんはどう見ているのでしょうか。
noteに関していえば、言い方の部分で修正ポイントがいくつかある印象です。例えば、僕は12月1日に溝口さんに対して「謝罪しろ」とは言っていません。そもそも、僕は彼に謝罪してほしいと思ってないですよ。あくまで自分のミスだと思っているので。
自分の目利きが悪かっただけのこと。溝口さんを恨んでいないですし、あの時からいまだに謝罪してほしい、と思ったことはありません。ただ一点だけ、関係者への個人的な攻撃はいい加減にした方がいいなと思います。
あとは、グループ内部の情報をインターン生が流出させていることや、それを溝口さんがリツイートしていることに何か違和感を覚えない人は思考が停止していると思います。まともな人であれば、この行動に何かを感じられるはずなので。
──今後の活動についても教えてください。
ひとまずはKSK Angel Fundを復活させて、スタートアップ支援は継続していきます。
──今回の騒動は個人の問題なのでしょうか。スタートアップに関わる人たちが学ぶべきことはありますか。
個人的には、この一件で本当に勉強させてもらいました。そう言ってしまうと資金を預けてくれた投資家の人たちには怒られるかもしれませんが、過ぎてしまった時間はもう取り戻せません。
いま、僕たちがやるべきことはファンドの後片付けをちゃんとすることです。その後、投資家の人たちには再度謝罪をしにいき、少しでも失った信頼を取り戻せればと思います。
個人としては、スタートアップ支援を継続していきたいですし、もっと大きなことに挑戦したいと思っています。今回のミスが起きた要因は、同じ組織で働いていた人たちからのリファレンスが取れてなかったことにあります。僕と同じようなポジションの人たちからのリファレンスだけで信頼しきっていた。この1件を通して、内部、外部を含めたリファレンスチェックはバカにできないな、と学ばさせてもらいました。
自分が投資する際は自分が損するだけで済みますが、誰かに社長を任せたり、パートナーを任せたりするときは自分の名前を使ってレバレッジかけて資金調達することになります。投資するときと、パートナーとして新しいことをやるときは異なるリファレンスをチェックしないといけない。これは今後の教訓にします。
──本件はスタートアップにもガバナンスが求められるようになってきた、ということなのでしょうか。
これはあくまでファンドでの事例です。スタートアップの事例として考えてはいけないと思っています。(ファンドに)いろんなパートナーが入ってきた際の失敗談として本件は残ってしまいます。ですがこれは、スタートアップ(の問題)とは違う観点で見なければいけないと思っています。