Photo:Dual Dual/gettyimages
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  • 西本氏は「運命の人」だと思っていた
  • 「証拠を出してくれ」「出せない」の押し問答に
  • ハラスメントは「解釈の問題」
  • 金融機関は最初のファンドを応援しづらい
  • 買収前の“仲間”へのお金の貸し借りは「問題はない」
  • 方針やビジョンを変えることは絶対ない

2020年5月に設立発表から、わずか9カ月──ベンチャー支援・ファンド運営のWEINグループが内部崩壊の状態に陥っている。

ネスレ日本代表取締役社長兼CEOの高岡浩三氏、プロサッカー選手であり事業家・投資家としても活躍する本田圭佑氏、FiNC Technologies創業者の溝口勇児氏。ベテラン経営者、ビジネスにも明るい著名人、スタートアップ起業家がタッグを組み、鳴り物入りでスタートしたはずだったWEINグループだが、2020年12月1日に、溝口氏を除く旧経営陣が、溝口氏の退任を求める“クーデター”とも呼べる事態が発生した。

旧経営陣が問題にしたのは(1)溝口氏が意志決定者であることで、大手金融機関からの資金調達が困難になっていること、(2)溝口氏によるパワハラやモラハラで休職・退職者が出ていること、(3)他のGPへの相談なしでの投資実行や放漫経営──の3点。

最終的に2月19日をもって溝口氏を除くファンドのGP(ゼネラルパートナー)3人と、グループ会社1社の代表が退任。ファンドの運用も実質的に凍結されている状態だ。

なぜこのような事態に陥ったのか。グループの立ち上げ人であり、実質的ホールディングスのWEIN、グループ会社のWEIN Financial Group(WEIN FG)の代表取締役と、ファンド「WEIN挑戦者0号FUND(0号ファンド)」のGPを務める溝口勇児氏に話を聞いた。

西本氏は「運命の人」だと思っていた

──溝口さんから見て一連の騒動、組織の崩壊が始まったと思ったのは、いつ頃なのでしょうか。

2020年8月頃、西本さんがWEINグループのCOOに就任し、それ以降は彼が従業員との1on1などを含め、組織まわりのことをすべて任せることにしました。いま振り返ると、そのタイミングから少しずつ歯車が狂い始めていたんだと思います。この一連の騒動において、僕の至らなかった点は“歯車が狂い始めている”と全く思っていなかったことです。西本さんが僕にかけてくれていた言葉や笑顔を含め、彼のことをとても信頼していました。

FiNCは、経営陣が共にリスクを享受し、一枚岩になって同じ目標・目的に向かって邁進していくことが途中からできていませんでした。僕が忙しさを理由に経営陣と十分なコミュ二ケーションが取れていなかったですし、伝えても彼らには分からないだろう、という諦めもありました。僕の経営者としてのスキルが至らなかった結果、近い人との距離が離れていったと思います。

だからこそ、WEINに関してはナンバー2の存在がとても大事だと思っていました。こうした悩みや葛藤を西本さんには何度も話をして、それに対して深く理解してくださっているんだな、と。彼も過去に経営者として苦しんだときの話なども話してくれていたので。

優秀なナンバー2に出会えるかどうかは時の運。正直諦めていた部分もあったのですが、西本さんと話をして、僕は「この人が運命の人なのではないか」と思いました。

それで嬉々として、僕の友人や尊敬する先輩にも会ってもらい、これから一緒に歩んでいくことを色んな人に話をしました。いま思えば、西本さんのコミュニケーション力の高さ(がそうさせたこと)もありますが、一方でFiNCのときにできなかったことから来る僕の願望が多分に投影されてしまい、ちゃんと物事が見えていなかった部分はあると思っています。

──去年5月のWEIN立ち上げでは本田さん、高岡さんの名前しか出てなかったですが、11月のグループ組成を発表する際、西本さん、岡本さん(WEIN Financial Groupの代表取締役だった岡本彰彦氏)の名前が出ていました。その間に参画したということですか。

西本さんからも「何か一緒にやりたい」「ファンドに投資したい」「深くやりたい」という言葉がありました。僕もFiNCのことも含めて、彼に自分の課題や経営者としての至らない部分の話をいろいろとシェアしていく中で少しずつ距離が近づいていきました。(編集部注:西本氏がグループ会社のWEIN Incubation Group代表就任したのは10月)

──溝口さんからすると12月1日の(クーデターの)件は寝耳に水だったとも伺っています。そこからどうなっていますか。

正直に話すと、そこからどうにもなっていません。僕は12月1日を迎えるまでは大きな問題はなかったと信じていたんです。大喧嘩をしたわけではないですが、少し雰囲気が重たくなるような議論をしたのは一度だけです。それは圭佑もいる場でした。

基本的には僕がWEINのあらゆるプロジェクトを推進していたこともあり、西本さんには報告は必要じゃないと思っていたことも後々報告していたのですが、圭佑など経営陣がいる前で「俺にも事前に言ってほしかった」と言われたことがあります。

それは「申し訳ない」「決して悪気があったわけではない」と言いました。ただ、それまでの2カ月くらいで西本さんの中に不満が募っていたんだと思います。

──11月に大々的な発表をしてから、ひと月でそんなことに至ったのでしょうか。

まず、西本さんは「島(編集注:ここではテリトリーという意味)」にすごくこだわる人だと思います。僕に近い人たちのことをすごく悪く言っていました。例えば、広報(編集注:同社広報は業務委託のフルコミットメンバー)も僕と長い付き合いだし、人間的に信頼していたのですが、「(広報を)辞めさせたい」と言われました。

正直、僕は全く意味が分からなかったんですよ。ただ西本さんが言うんだから、もしかしたら広報に何かあるんじゃないか。そう思っていたのですが話をしてみると、広報から聞く内容と(西本氏の話が)だいぶ違っていた。他にも、僕に近い人に対しては何回かそういう「いなくてもいい」というコミュニケーションがありました。

「証拠を出してくれ」「出せない」の押し問答に

──今回の件は構図としては「溝口さん対旧経営陣」ですが、西本さんのお名前しか挙がってきません。「(クーデターの)主犯は西本さん」とお考えになる理由はなんですか。

圭佑や高岡さんは悪い人ではありません。僕が尊敬する友人と先輩です。ただ、彼らが直接情報を収集できる対象は僕か西本さんしかいない中、西本さんが事実をものすごく悪く見せるコミュニケーションをし続けた。それしか考えられません。

また、圭佑や高岡さんがWEINに割いていた時間は週に1〜1.5時間ほどです。実務の細かい座組みについては分かってないと思いますが、大枠について毎週火曜日のボードメンバーミーティングで共有していました。だから、彼ら(溝口氏を除く3人の元GP)が、「僕が勝手に投資をした」とか、どの口が言っているんだと思います。議事録も残っています。

正直、彼らは週1〜1.5時間ほどのコミットなので、僕からするとコミットメントが低く、少しモヤモヤしていた部分がありました。ちょっと協力的ではないな、と。特に圭佑には「一緒にやろうと言ったのは君だよね」と思うことはありました。実際、感情的に「なんで協力してくれないの、一緒に始めたことじゃん」と思いを伝えたこともあります。

──それで12月1日に「退任してくれないか」と本田さんから言われた、という話につながるのですか。

事実をもとに糾弾されるのであればまだしも、事実では全くないことで糾弾されている。それが許せませんでした。彼らに証拠を出してくれと言っても「証拠はある」と言うだけ。「出してくれ」「今は出せない」の押し問答です。

不正なんか全く1ミリもないですけど、もしかしたら会計の部分で(あるかもしれない)。僕はお金の部分はノータッチなんです。個人の口座も資産管理会社の印鑑も含めて渡してしまっているし、よく分かっていない。特に資産運用もしてないですし、そこまで興味があるわけではない。経費もいちいち使わないですし、FiNCでも領収書を切った記憶がないですから。

(FiNCでは)150億円集めて赤字を出しているから、「馬鹿みたいに経費を使っている」と思われますけど、全然そんなことはありません。

僕と「月25万円」(という金額)が遠く見えたと思うんですけど、僕はWEIN HOUSE(アート展示スペースをかねる東京・六本木の会員制飲食店。オーナーは起業家のA氏。WEIN IGではA氏の会社に対し、飲食店運営の業務委託費などで物件の賃料を含む月100万円を支払っていた。一方で溝口氏がWEIN HOUSEで行う会食に関しては、月25万円まで無償で提供していた。旧経営陣はこれを問題視したという)をコミュニティスペースとして使って、彼(西本氏)も使っていました。(会食で利用することで会員が増えるため)Aさんとも利害が一致していると思いました。

聞いてほしいのですが、僕が女性を連れていったことはほぼないですよ。聖人君子ではないので、合コンなどには行ったことありますよ。でも本当に年に1回か、2回くらいです。誘われる量はその10倍くらいありますよ。行く目的も友人の男に会いたいか、その女性が起業家など、合コンではないですよ。

──でも最近、セクシー女優と合コンしていたんですよね。

それ、なんで知ってるんですか。セクシー女優の人たちもClubhouse(編集部注:招待制の音声SNSアプリ)でみんな出会っています。(会のきっかけは)Clubhouseで出会った整体師の方から「『一緒にお会いしたい』と言っているのでいかがですか」と言われたからです。(結果的に)その場で整体師の人もWEIN HOUSEのスペースを一部間借りすることになりました。WEINの支援先でライブ配信をやっている企業があるので、そういう人たちも連れていったりしました。やましいことがあれば連れていきません。

ハラスメントは「解釈の問題」

──飲食店以外に、社宅についても経営陣から指摘されていました。月72万円の賃料で最初の内装にも数百万円かかっている、と。

いえ、トータルで1500万円かかりました。WEINから投資することが決まっていたスタートアップがあり、その起業家のBさんがアートと内装を組み合わせた事業をやりたい、広げていきたいと言っていました。僕は社宅兼YouTube配信スタジオ、ミーティングスペースなどを兼ねた場所が欲しいと思っていて、ちょうど良い場所を見つけたところでした(編集部注:取材後広報からは「動画配信スタジオ兼オフィス」であるという説明があったが、編集部では溝口氏が周囲に「家」と説明していることを把握している)。

最初、僕は(Bさんに)1000万円の予算でお願いしたのですが、施工が完了する1週間前に「1800万円くらいになりそうです」と言われて。「それはさすがにないぞ」と。とはいえ、施工の1週間前に1000万円にするのは無理なので、せめて1500万円にしてほしいと言いました。正直、1500万円も払いたくなかったですよ。

さらに言えば、11月23日に完成予定だったプロジェクターが完成していない。それで僕はBさんに、起業家の仕事として杜撰すぎると厳しく言いました。

──Bさんとは音信不通になっていると聞ききました。

僕と彼らとは連絡がとれていないはずです。それは、このゴタゴタに巻き込まれたくない、という理由です。

──結局、投資も実行されないままですか。

そうです。前述のAさんがBさんと連絡をとっているのですが、Aさんには「ゴタゴタに巻き込まれたくない」と言っているみたいです。

──溝口さんは前職時代から、(プレッシャーの)強いメッセージを送ることもあると聞いています。

昔よりは相当減っていると思いますよ、研修も受けていますから。この件も普通なら怒りませんか。1週間前に800万円上乗せされた見積もりがくるわけですよ。

──パワハラに近いコミュニケーションをしているとは以前も言われていました。それでいいという時期は過ぎてしまったのではないでしょうか。

それは結局、解釈の問題になります。例えば、僕はセクハラしたことはないです。だけど、セクハラは“好きな人にされたい”ことを“嫌いな人にされること”じゃないですか。

もともと僕のことを好きだった人が僕と疎遠になるのは、僕の指導不足や会社のフェーズの問題、人材配置の問題など、さまざまな要因で僕の期待に応えられなかったことがネガティブに働いていると思います。僕が相手の成功に相手よりも本気になることをやめれば、そういったハラスメントの問題は減ると思います。

ただ、これをなくすと僕が僕でなくなる。だからこそ、大切なのはチームだと思っていて。例えば、僕が誰かに厳しくしたとしても、僕に近い広報の人が食事に連れていってケアをする。そういったことが大事だと最近になってようやく気づきました。頭でわかっていたけれど、行動に移せていなかった。僕はこれを機にやらないといけないと思います。

金融機関は最初のファンドを応援しづらい

──みずほ銀行や三井住友銀行が「溝口さんがいるからレピュテーションリスクがある」と語ったと、旧経営陣が言っています。

今回の騒動で経営陣からひどいことを言われたので、ある人を経由して金融機関(みずほ銀行)の人に会わせてもらったのですが、言っていることが全然違うなと思いました。まず前提として、金融機関が最初のファンドに投資するのはなかなかない。それはそうじゃないですか。

さらにみずほ銀行は、FiNCの主幹事証券でありメインバンク。また(FiNCの)CFOも会長もみずほ銀行出身です。僕が完全に円満ではないかたちでFiNCの経営から離れており、なおかつ最初のファンド。みずほ銀行の人から「最初(のファンド)は応援しづらいです」と言われたのは事実です。

──⾦融機関は(投資の)実績がない人に出さないケースが多いのは当然です。

でも「溝口さんがだからNG」と言われたわけではありません。それを僕が信用リスクがあるかのように話し、融資もできないという。僕は過去に政策金融公庫など金融機関からお金を調達しています。特にひどいと思ったのは、僕のことを社内ではあたかも「反社」みたいな言い方をしていたことです。株主のある人が証券会社のデータベースにアクセスすると、もちろんそんな状態ではなかったわけです。それでも、そういう言われ方をしました。

──SMBCについては支店レベルで「溝口さんの(FiNC時代の)レピュテーションの問題で出資できない」と言われたと聞いています。それは事実なんですか。

それも証拠を出してほしいです。

──経営陣が指摘したのは「反社ではないか」という話ではなく、「FiNCでの結果で、経営者として大丈夫なのか」という話だったという認識です。

もしそうなら、そう言ってもらえればいい。でも反社みたいな言われ方をされたわけですよ。

買収前の“仲間”へのお金の貸し借りは「問題はない」

──買収した会社について教えてください。(買収前に)個人でその代表に貸付をしたことが旧経営陣に批判されたと聞いています。

代表個人に対しての貸し付けでした。今後一緒になることが確定している仲間が(資金面で)大変な状況下にいる。経営陣の中でも承認が取れている仲間に対して、個人同士でお金を貸すことに対して、一体何の問題があるのかと思います(編集注:貸し付けは溝口氏の資産管理会社WEiNから行われている。なおそのWEiNには、西本氏の資産管理会社HACOから転換社債で5000万円の資金が提供されている)。

資金状態についてもシェアしているので、何か問題にあるのなら言ってほしかった。説明をしているのに聞いてないのであれば、ただ聞いていないだけ。そういうことが多いなと思います。

──経営陣が言っている話は見当違いだという認識ですか。

見当違いだと思うし、そういう事実を聞いていない。「不満です」「ダメです」「改善してください」ばかりで、「どういう経緯ですか」といったことは聞かれていません。
お金を貸したかどうかは伝えていません。ですが、買収した会社のバーンレートのことは伝えています。何かしらのかたちで(買収先の)資金を調達しないといけなかったので。

──その会社は1億5000万円ほどで買収されたと認識しています。キャッシュがまわっていない会社に1000万円を貸し、その金額で買収するのは厳しい話ではないのでしょうか。

そんなことありません。そもそも、1億5000万円も現金支出ばかりではなく、株式交換などを織り交ぜるスキームを組んでいたりするので、こちらがあまり現金支出を伴わずに買収できました。

また、同社は(株式投資型クラウドファンディング事業を行うのに必要な)第一種少額電子募集取扱業者の免許を取得しています。それを取得するだけでも普通にそれくらいの金額はかかるはずです。

僕が聞いた競合企業は(免許取得に)2億円くらいかかっていました。株式型クラウドファンディングの規制緩和の流れなどもキャッチしていて、それを複合的にも考えて妥当な金額。むしろ市場的には安いと思われてしまうんじゃないかと思いました。

──買収する企業の代表にWEIN FGの株式を譲渡しています。その意図は。

買収当時に「すべての株式を譲ってほしい」とお願いしたんですが、普通に考えれば、(起業家は)少し株式を残してグロースさせてくれる(ことで、キャピタルゲインを得られる)企業に株を渡したいという思いは絶対にあります。ですがWEINでは、そういうキャピタルゲインはお渡しできません。

WEIN FGはIPOなどのイグジットを目指す会社なので、(WEINグループに参画したという)気持ちに応える誠実なスキームを提案したという認識です。

──WEIN FGはまだ事業としては動いておらず、WEIN IGは広報コンサルのほかにも招待制スタートアップイベントの運営支援などを事業にしていると聞いています。

そのイベントは今回のゴタゴタがあって離れていますけども、色々やっています。それ以上は言えません。

──こういったことを一つひとつ話していたら、そもそもこんな騒動になっていなかったのではないのでしょうか。

その場しのぎで言っている感じはしないと思うんです。何を質問されてもストラクチャーには意味があるし、ここまで話したことの一貫性があると思っています。今回はなんで聞いてくれなかったんだろう。文句があるんだったら、なぜ一度たりとも確認してくれなかったんだろうと思います。

──ところで、このオフィスの賃料はすごく高くないですか。

そうですね。4フロア借りると。ただ段階家賃にしています。コワーキング(オフィスに付随するコワーキングスペース)も頑張らないといけない感じです。

WEINのプレスリリースより
WEINの運営するコワーキングスペース。WEINのプレスリリースより

──FiNCが有楽町にオフィスを移転した際には、月のバーンレート(経費)が最大で2億円ほどに膨れ上がったと聞いています。

何も考えずに借りてはないです。内装工事は1円も出していません。居抜きで使っています。最初の坪家賃8000円からスタートする段階家賃で、直近の家賃は上がってきているので頑張らないといけないのは事実です(編集注:取材後の広報による説明では、オフィスの3フロアの内装は居抜き。追加で借りた1フロアの内装費はLAN工事費や原状回復費用を含めて約3000万円になる見込み)

ただ、コロナがこうなると思っていなかったので全然集客をできなかった。僕が声をかけたら「入ります」と言ってくれる起業家はいるけど、(コロナで)使わない。じゃあコロナを終えてから集客しないといけないと思ったんですけど、さすがにコロナは終わらない。それで今年になってから集めていて、2月から15社くらい、3月も10社くらいが入居する予定になっています。僕がその気になれば埋められますから。「ここは贅沢ではないか」と、ある投資家には言われたのですが。

──(2月19日以降、1人で)ファンドのGPをやるなら、ガバナンス的な観点からも他の業務をやれないと思うのですが。

それを回避する仕組みをつくっています。

──「WEIN税理士法人」という組織があります(2月1日登記)その代表である藍原(博也)氏は、溝口さんが旧経営陣に指摘された「不正な資金流用」がないことを調査した会計士・税理士です。会計士や税理士は独立性が大事だと思いますが、後から「WEINの人が調べていました」となるのはどうなのでしょうか。

そもそも税理士に関しては、雇っているのはWEIN IGで、代表の西本さんと人事・経理が決算のために仕事をお願いしていた人です。僕はむしろ西本さんと同じタイミングで一度会ったきり。どちらかといえば、僕寄りということではない。僕の調査資料をつくらせるにあたって、一番ベストな人はいま決算をやっているIGで仕事をお願いしている税理士ですよね。

だからその方にお願いした、というのがまずあります。もともと「僕寄り」ではないし、向こうとしては普通にフェアだと思うし、もともと人事とかなりやり取りをしていました。僕が人事とミーティングをしているときにいて、「いまWEINの決算をやっているんですよね。もし良ければこういう疑義を立てられているのでお願いできますか」と話をした。僕は誰を使ってもよかったんです。僕に不正がないことは間違いなかったので。

──今回の騒動には、「法的にまかり通っていれば、それで本当にいいのか」という、ガバナンスの観点での疑義があります。ファンドからFG、IGに出資をしていますが、それを利益相反だと言う人もいます。

WEIN挑戦者FUNDはIGやFGに設立当初から株を10%持っています(編集注:0号ファンドからは、WEIN IGに2500万円、FGに5000万円を出資している)。会社の価値や将来の価値、僕たちの評価も含めて。フェアなバリュエーションにしたと思っています。ストラクチャーも弁護士の先生たちと話をしてつくっていますし、利益相反はすごく気にしないといけないと思うんです。

でもネガティブに言おうと思えば、いくらでもネガティブに言える。そこは西本さんや投資家にも最初のタイミングで自分から説明しています。(ガバナンスは)当然求められますし、端から端まで答えているわけです。僕たちは説明してます。とはいえ、LPに関しては直近コミュニケーションをできていませんでした。

ファンドはこの期間(12月1日以降)凍結しています。(ほかの)GPは会ってもくれず、ミーティングすることもできない。すべてのLPは僕が集めてきたんです。その人たちに迷惑がかかりますよね。残るのか、辞めるのかをハッキリしてくれ、と思っていました。

WEIN挑戦者0号FUNDのウェブサイト
WEIN挑戦者FUNDのウェブサイト

僕は辞めてほしい、と間接的に伝えていました。その後に実際に継続するのか、解散するのかはそこからの話。僕は1回は必ず全LPと話しているんですよ。去年の12月1日以降に。すでに投資している先はすごく良い会社で、おそらくリクープします。

WEINはそれくらいの良い会社だと思っているし、自信があります。僕が(ファンドを)続けたいと思ったとき、LPの人たちは支持すると言ってくれました。Cさん(編集注:WEINグループに出資するVCのGPで、個人でも0号ファンドにLP出資する人物)たちには話していないですけど。

(ファンドは)一旦整理して、もう一度投資をするので応援してもらえないですかとLPに言いにいこうと思っていました。その中でやられたのがCさんと圭佑の根回しです。

圭佑から「あなたが(ファンドを解散する)意思決定してくれないと他の人が迷惑がかかりますよ」とあらゆる人に言っていたとLPから聞きました。それはもう止めようがないじゃないですか。仮に1人が断ったら、みんなに迷惑かけると思ってしまうので。あるLPは「これはもうある種の圧力だ」と言っていました。

あとは当然、こうなってしまったことに対する不信もありますよね。ここまで揉めてしまっているので。

──ファンドとIG、FGは組織体として別物です。(GPに辞めてもらい、)FGとファンドをセットで溝口さんが運営するのは、ぶらせなかったということですか。

圭佑がWEIN挑戦者FUNDで投資する予定のところに個人で投資していたりしたので、それもけっこうな利益相反じゃないですか。それとミーティングも全然できないわけですから、それはもうおかしいじゃないですか。なんでもありですよ。

──溝口さんとしてはファンドを巻き取って整理しようと思っていたんですか。

GP3人が降りるわけですから、解散するにしても、そこから始まると思っていました。イチからやるかどうかも含めて進められる体制になった。「僕がひとりになる方向性です」ということは伝えていましたが、そこからずっと進展がありませんでした。

──ですが、(GP3人が退任するのと)同じ日に解散の請求がきました。

僕も逆の立場だったら同じことをしたかなと思いました。しょうがないと思います。解散に関しては、僕たちの中で考えていたこともあるんですよ。

LPでも「一回解散したら」と言っていた人もいたので。そのときに次のストラクチャーも考えていたこともあって、支援者もいたりします。

──ファンドは何もできない状況ですよね。

僕もそこまで分かっていなくて、圭佑側の弁護士(とWEINの管理部門が)が動いていいます。今後どうしていくかについて。ただ僕たち(溝口氏と本田氏)は会話ができていません。

──反省する点はあるのでしょうか。

僕が反省しないといけない部分もあるなと思います。(12月1日の)直後のコミュニケーションは、もちろん罵声などではないですが、「どれだけこちらが本件で傷ついたと思っているか不当だと思っているか」というのを整理して(メッセージを)送ったりしています。それをどう受け取ったかは分からないですけど。

僕の側の問題もあると思いますが、今回、人生で始めて「遺書を書いた」という表現をしました。それくらいの大ダメージを受けたんです。彼らは僕の起業家生命を取りにきたわけです。1回の事実確認もなく。

彼らは僕を潰せば、何も問題なし、お咎めなしで終わると。それに対して、(溝口氏自身が)何も思わないはずがありません。

方針やビジョンを変えることは絶対ない

──今後やろうとしていることや、辞めていった人とのコミュニケーションをどう考えているか教えて下さい。

ひとつお伝えしておきたいのが、インターンも含めて辞めていった社員がいるじゃないですか。いまだに対面で誰一人として話ができていません。

──それはなぜですか。

厳戒態勢が敷かれているからです。僕から連絡していないのもありますが。全社員の場で事実を説明させていただく場をつくってほしいとお願いしたのですが、向こう(旧経営陣)が匿う。そういう場をつくってもらえませんでした。

(スタッフは12月)25日までに残るか、辞めるか、新会社に行くか。そう言われて、一度も僕の話を聞かない中で、「残る」という選択をするはずがありません。

給料は(12月から)ほぼ働いていないのに、2月末支払い分まで払っています。そういったおかしなことが蔓延していました。こういう情報統制、厳戒態勢みたいなことをすべての人にやられました。僕はコト(事業)に向かっていて、そこまで気が回っていなかった。一方、彼らは政治に時間を割いていた。そこは悔しいな、残念だなと思いました。

今後に関して言えば、方針やビジョン、ミッションを変えることは絶対ないです。いまWEINが掲げているビジョン、ミッションは、大袈裟ではなく、これに寄っかかっていないと、(自身が)どう生きていけばいいか分かりません。

一応、傷だらけになりながらも、ビジョン、ミッションは戻ってきました。コミュニティや仲間たち、社員たちも続々と参加してくれています。また、新しい体制になって、僕が長い付き合いの有識者の人が参画してくれることも決まっています。

初期は自分の器を過剰評価して、多様性のある人材を入れすぎました。これが本質的な問題のひとつです。いま僕は(組織の)思想や哲学、ミッション、ビジョン、判断基準、価値観という部分を大きくしないといけない。その上での多様性です。自分が成長することで、多様性を許容できる人間になりたいと思います。