
生理周期に着目した飲み分け型サプリメント「チケットサプリ」を展開するILLUNINATE。同社は2月、SNS上で「一部の広告表現が医薬品医療機器等法(薬機法)に抵触しているのではないか」といった指摘を受け、対応に追われている。
2月17日には「当社商品『チケットサプリ』の表示に関するお知らせ」、翌18日は「代表取締役ハヤカワ五味からのお詫びと今後の対応につきまして」というタイトルのプレスリリースを発表。そこでは「法令を逸脱する可能性のある表現については、早急に削除するとともに、薬事広告に関し外部の専門機関や専門家と相談のうえ適切な表現へと訂正する」と説明した。
2月26日にはその「アップデート」として、サイト上の表示に適切でない表現があったため「精査のうえ、より適切な形に変更中」であること、そして顧客向けにLINEでの成分相談窓口を設置するなどしたことを明かした。
DIAMOND SIGNALでは2月18日にILLMINATE代表取締役のハヤカワ五味氏(本名 稲勝栞氏)に取材を依頼したが、体調不良を理由に断られた。その後書面で質問を送り、回答を2月25日にメールで受け取っていた。だがその間にもハヤカワ氏が情報番組等に出演していたこともあり、体調が回復したと判断して再度取材を依頼。3月1日にオンライン取材でハヤカワ氏に今回の騒動について聞いた。
なおDIAMOND SIGNALでも昨年9月にチケットサプリに関するハヤカワ氏の取材記事を掲載していた。2月19日には本件に関する事実確認中である旨を記載していたが、今後の編集部の方針についても本稿の文末に記載する。
──2月17日に「当社商品『チケットサプリ』の表示に関するお知らせ」というリリースを発表するに至った経緯を教えて下さい。
弊社ではチケットサプリを発売当初から栄養補助を目的としたサプリメント(健康食品)として、「効果・効能が期待できる医薬品ではないもの」として販売しておりました。
ですが2月15日、SNS上にてILLUMINATEのサイトや広告の文言で、お客さまが医薬品と誤認しかねない表現を使っているのではないかという指摘がありました。
そのような指摘があり、お客さまからも質問や意見などが届きましたため、当日中に社内で協議し、顧問弁護士と改めて全体のチェックを行ったところ、誤解を招きかねない表示があることを確認しました。訂正を行うことを決定し、サイトの修正やお客さまへの連絡を行い、2月17日に当該内容を公式サイトに掲載しました。

──サイトや広告の表示は薬機法に抵触していたのでしょうか。
医薬品か食品かの区別は、成分本質、効果・効能、形状、用量・用法という4項目を総合的に判断することでなされます。その判断の結果、「医薬品ではないか」とみなされた場合に、当該商品が未承認・未確認の医薬品、つまり届出を出していない医薬品となり、結果的に製造や販売における指導や措置がとられるという構図になっております。
(チケットサプリは)効能・効果と用量・用法の部分において、医薬品と誤解されるような表記があり、(薬機法に)抵触し得る可能性があったということです。(抵触していたかどうかは)4項目を総合的に見た上で判断がなされます。弊社は抵触の可否を判断する立場にはございません。
──サイトや広告の表示はどのように訂正していますか。
(サプリメントは)用法・用量を指定するものではなく、あくまで目安であるということ。そして医薬品のような効果・効能が期待できるものではないということ。これらを明確化するために、文言の変更を(SNS上での)指摘やユーザーの声を受けて行っています。
例えば、「1日分を1袋に」という表記を「持ち歩きやすく1袋に」や「1日目安分を1袋に」という表記に変更しました。また、「1カ月分」という表記については「1カ月分目安」という表記に変更しました。用法・用量を指定するものではなく、あくまで目安であるということをはっきりとさせるためです。
(医薬品のような効果・効能が期待できるものではないということを明確にする上で)「免疫力」という表記は「健康維持」という表記に、「月経周期に合わせて変化する」という表記は月経を彷彿とさせるため「日々変化する」という表記に変更するなど、訂正を進めております。
──「毎日飲む『31 DAYS』」という表示がありました。
その表現に関しては、不適切な表示だと弊社としても認識しております。お客さまの誤解を招いてしまう可能性があるので、現在、該当の表示は訂正しております。
──「PMSへの効果が期待できます」という表示もありました。
(ILLUMINATE社のウェブサイト上にある)薬剤師の方のコメントですよね。薬剤師の方の一般論であれば、商品本体に繋がるものではないという認識で進めていました。ですが、これに関しても誤解を与えかねない表現のため、現在は訂正させていただいております(編集部注:「毎日飲む『31 DAYS』」ならびに「PMSへの効果が期待できる」という表記は3月8日13時20分現在、PR TIMESで配信したプレスリリースには残ったままの状態だ)。
──成分に関しては問題はなかったのでしょうか。
弊社では適正な製造管理と品質管理が求められる「健康補助食品GMP」認定の工場を有する、国内の上場企業にサプリメントの製造委託をしております。安全性に十分配慮して製造していただいております。違法成分は入っておりません。
ですが、お客さまより品質面での不安に関するお問い合わせをいただいておりますので、今後はより一層安心してご利用いただけるように、製造背景や原材料の可視化を進めて行きたいと思っております。サプリメントの主要成分に関しては、サイト上に配合量も含めて、全て表記させていただいております。
編集部注:ILLUMINATEがチケットサプリの根拠としている論文は2月25日にメールでの回答において2つ提示された。1つ目は被験者数が210人のもの、そして2つ目は10人の中年男性を被験者としたPilot Study(予備実験)だった。
オンライン取材当日に、ILLUMINATEを担当するサプリメントアドバイザーにコメントを求めたところ、3月3日に書面での返答を得られた。
サプリメントアドバイザーは2つの論文について、「情報源の中でも学術論文、特に信頼性という面で『被引用回数』、『論文掲載誌のインパクトファクター』が高いものを代表的なものとしてご提示しました」と説明。そして、1つ目の論文に関しては「200名の被験者数は信頼に足る数と考えております(医薬品の場合には200名は少ないと判断される可能性もあります)」とコメントした。
2つ目の論文に関しては「他論文も含め総合的な判断をしている中で、今回こちらの論文のみをピックアップしたのは説明として不十分でした」と述べた上で、「成分監修時に参照した」という2つの論文が追加で提示された。なおILLUMINATEが、論文を公開すること自体が(効果・効能をうたっていると捉えられて)薬機法に抵触する恐れがあるとしていることから、記事内での論文の紹介は行わない。
──サイトや広告における表示のチェック体制はどのようなものでしたか。
最初期では、弁護士のチェックを通してから、社内でその表記を使っていくという体制でした。ですが、テキストとデザインチームで別々のツールを使っていたがために、テキスト側がアップデートされてもデザイン側には反映されないといったことが起こっていました。
最初に弁護士を通して作ったテキストが、伝言ゲームのように途中で入れ替わってしまったり、コミュニケーションツール内で「ここの部分は訂正しないと」という投稿があったにも関わらず、(訂正しないまま)流れてしまったり。そのような部分が課題だったのだと認識しています。
──今回のような事態に陥った原因はどこにあるのでしょうか。
文言・文章チェックの責任所在をはっきりできていなかったこと。また、サイト上に(表記を新規で)実装する上での社内体制の不備。そして、専門家によるチェックの頻度の少なさ。これらが主たる原因だと思っています。お客さまの体や健康に関わる事業ですので、早期に体制を整えるべきでした。
──再発防止策は。今後も事業を続ける予定ですか。
お客さまに不安や心配を感じさせることのないように、2つの軸で体制の強化を実施していきたいと思っております。まず第一に、外部有識者によるチェックの強化です。従来の顧問弁護士とサプリメントアドバイザーに加えて、薬機法表現に関する知見のある外部の専門機関にもダブルチェックを依頼し、誤解を招く表現の使用を防いでいきたいと思います。
そして第二に、社内体制の強化です。社内の管理体制の再構築や、NGワードを自動抽出するツールを導入して、人とシステムの両面で再発防止を徹底していきたいと思います。今回の事でお客さまの期待を裏切ってしまい、誠に申し訳なく思っております。
商品には違法成分が含まれていることはなく、本体表示自体にも問題はありません。今後は薬機法に準拠して、皆様にわかりやすいサイトや広告の表示に訂正した上で、(事業を)継続していきたいと考えております。
人の健康を扱う企業として、責任を持って、会社としての体制の強化や、組織全体として一層気を引き締めて事業にあたることが、継続する上では必須ではないかと考えています。
──ハヤカワさんがサプリメントビジネスを展開する意義を改めて教えてください。
私の過去の発信を遡っていただけたらご理解いただけると思うのですが、私は常に病院に行っていただくこと、特に婦人科や精神科に行くことを強く推奨してきました。私自身もHPVのワクチンを打っていることや子宮頸がんの検診を受けていることを公表しています(編集部注:ハヤカワ氏は子宮頸がんの検査で中等度異形成の診断を受けた経験があることを公表している)。婦人科や精神科に行きましたなどといった話も公表しています。それでも(婦人科や精神科に行く必要があるにも関わらず)行かない方がいらっしゃるということに、課題を感じています。
なぜ婦人科に行かないのか、1万5000件ものアンケート結果を元に感じたのは、自分のことを健康だと思っている人が多いという事です。私としては、病院に行った上で、栄養補助としてサプリメント(を利用する)という形がベストだと思っています。
ですが、栄養不足からくる体調不良もあると思います。女性は男性と比べて1.5倍の鉄分が生理で経血が失われるからこそ、(鉄分を)必要としています。こうした理由での鉄分不足などで、体調不良を感じられている方もいらっしゃると思っています。
チケットサプリで栄養補助をしていただくことによって、「もっと自分らしくいられる」と思っていただけたら、それがきっかけで婦人科にも行ってもらえるかもしれない。
チケットサプリのユーザーには、チケットサプリを飲み始めたことによって「もっと自分の体をケアしよう」と思い、婦人科に行き、「低用量ピル飲み始めたので、申し訳ないのですが(サプリの購入を)止めます」と言う方もいます。
もともと私が事業を通じて目指しているのは、女性の選択肢を増やすということ。何を事業にするかと考えた時に、生理用品はあまり便利であるとは感じられませんでした。私としては低用量ピルを飲んで、生理を少なくした方が良いと思っています。
ですが、多くの方は「ピルってなんか怖い」というイメージを持っています。辛い時に辛いまま過ごすのか。それともハーブティーやサプリメント、もしくは漢方を飲むのか。まずは第一歩目のところを作った後じゃないと、ピルやその他の健康領域は展開できないんじゃないかと思っています。
今は(気軽な)入り口がなくて、突然ピルを飲む、婦人科に行く、となってしまっています。その手前に例えばサプリメントなのか、レディースドックなのか。何か気軽なものを作って、フェムテック全体への入り口になりたい。これが弊社の目指しているところです。あくまでもこれ(サプリEC)だけでビジネスをやっていくわけではありません。正直誤解もされてしまったと思っているので、悲しく思う部分ではあります。
正直、フェムテックという市場はまだ確立していないと思っています。今のサプリメントに関しても、価格が高いと思っています。エントリーにしても高い状態です。より多くの方に届けられる形にしていくこと、(テクノロジーを活用した)本当の意味でのフェムテックというものに繋ぎ込んでいく。それは自社だけではなくて他社との協業も含めてです。多くの企業と手を組みながら、ユーザーにとってより正しいものを届けていく、ということをしていけたら良いなと思っています。
サプリメントは「病気を治すことを期待して買ってはいけない」──消費者庁は注意喚起
ハヤカワ氏との取材にあたり、筆者は厚生労働省の担当者にはサプリメントに含まれる成分について事実確認をし、消費者庁の担当者にはサプリメントビジネスを取り巻く現状について話を聞いていた。
サプリメントを利用するのであれば、消費者は何に注意をすれば良いのか──消費者庁のヘルスケア表示指導室 室長・田中誠氏は「病気を治すことを期待して買ってはいけないというのは大原則としてあります」と説明する。
「薬のような効果が現れるものではありませんということをよく理解してください。これを飲んで、病気が治るということを期待させる広告というのはベンチャー系のものであるのかもしれないですけれども、そういうところを期待してはいけません。健康食品というものは、あくまでも健康な人が飲むもの。 栄養補助とか、健康維持・増進という意味合いで摂取すべきものです」(田中氏)
田中氏は「基本的には(特定保健用食品(トクホ)、機能性表示食品、栄養機能食品など)国の制度に則っているものを選んでください」とも述べていた。ハヤカワ氏も取材で、このような制度に則ることについては前向きの姿勢を示していた。
消費者庁は3月1日にも「シミが消える」と宣伝していたアフィリエイト広告に対して、消費者安全法に基づく注意喚起を行ったと発表した。注意喚起の対象となったのはLibeiroの「エゴイプセビライズ」とシズカニューヨークの「シズカゲル」。どちらのアフィリエイト広告も同じアフィリエイターが作成していた。
消費者庁の田中氏は取材の際に「コロナウイルスに効くという健康食品については薬機法での逮捕者も出ている状況です」とも説明していた。
サプリメントを扱う事業者のすべてに問題があるわけではないだろう。だが悪質な業者も、ILLUMINATEも、今も増え続けるD2Cサプリのスタートアップも、販売するものは法律上は同じサプリメント、食品という括りで分類される。今後は商品を販売する上での意図に関わらず、より健全な姿勢が求められる。メディアについても、新しいプロダクトを紹介する上で、現行法上のリスクを判断する目線が求められる。
編集部より:ILLUMINATE社を取材した過去の記事に関しては、薬機法に抵触する恐れのある表現が含まれると判断し、削除いたしました。記事の表現に対して確認不足であったことを、読者の皆さまに重ねてお詫びいたします。今後は厚生労働省、消費者庁、東京都福祉保健局などの行政機関および識者への取材の徹底、公開資料をもとにしたガイドラインの策定。ならびに関連業法を確認した上での記事執筆を徹底して参ります。