
10年前の今日、2011年3月11日に発生した東日本大震災。コミュニケーションアプリの「LINE」もまだ登場する前だった当時、電話の接続やメールの送受信が不安定な中、急速な勢いで利用が進んだサービスがある。140文字以内のテキストを投稿できるSNSのTwitterだ。
Twitter Japanによると、地震や津波が発生した直後には、1秒間に5000以上のツイートが投稿されることが5回もあった。被災地にいる知り合いの安否情報などを求めるツイートが相次ぎ、日本からのツイートは当時の平常時の500%に増えたという。
Twitter Japanは米Twitterの日本法人。同社の設立は偶然にも東日本大震災と同じく2011年3月のこと。2008年にTwitterに入社し、震災の前後には日本での事業展開をサポートするために出張で東京に滞在していたという松野ショーン氏は、このように語り当時を振り返る。
「東日本大震災が発生した時、米国・サンフランシスコのTwitter本社に勤めるサーバー担当の日本人エンジニアが、日本からのアクセスが異様に増えていることに気がつきました。 サンフランシスコは深夜0時近かったのですが、未曽有の災害が起こっていることを察したエンジニアたちは、サーバーを落とさないように緊急対応をしました。結果として、日本各地で電話やメールが繋がらなくなった中でも、Twitterは利用可能な状態でした」
「Twitterの利用者は、まずは地震による揺れや被害の状況についてツイートし、家族や友人の安否を確認していました。東北など被害が甚大だった地域では、避難所の情報や救助要請などのツイートがありました。 関東圏など交通機関が麻痺した地域では、帰宅が困難な人向けの避難所や運行再開状況などの情報が交換がされていました。 地震発生から少し経つと、フォロワー数の多い利用者が援助物資についてのツイートや助けを求めるツイートを拡散し、寄附や節電を呼びかけるツイートも広まりました。情報伝達のソーシャルメディアとして、Twitterが大きな役割を果たした瞬間でした」(松野氏)

東日本大震災から10年──Twitterは災害時の情報インフラとしてどのような進化を遂げたのだろうか。現在のTwitter Japanの取り組みや災害時のTwitter活用術について、公共政策本部長の服部聡氏に話を聞いた。
──Twitterにおける公共政策本部の役割を教えてください。
公共政策本部では、Twitterが日本市場で直面するさまざまな法規制への対応や、政府や公共機関、業界団体に対する窓口を担当しています。また、より多くの公共機関にTwitterを使っていただくためのお手伝いをしています。 アカウント開設のお手伝いを皮切りに、選挙の際によりTwitterを活用していただくために、ユーザーに投票を促すようなキャンペーンを実施するなどし、公共機関などによる選挙周りでのTwitter活用を促進しています。
公共政策本部ではCSRの取り組みも行っています。Twitterでは「Twitter for Good」というCorporate Philansolophy(企業の社会的貢献活動)を実施しています。それは、「Internet safety and education(インターネットの安全性と教育)」、「Freedom of speech and civil liberties(表現の自由と自由権)」、「Equality(平等)」、「Environmental conservation and sustainability(環境保全と持続性)」、「Crisis and emergency response(危機的状況・緊急時における対応)」という5つの分野での活動から成ります。今回は5つ目のCrisis and emergency responseにおける取り組みをお話させていただきます。

──日本は多くの大地震を経験している国です。Twitter Japanでは他の国では見られないような取り組みは行っていますか。誤情報に関する対策についても教えてください。
我々は情報の真偽を判断する立場にはないと考えています。「この情報は間違っている」といった判断は基本的には行っていません。
ですが、皆さまに少しでも信頼できる情報を届ける、あるいはユーザーの皆さんを信頼できる情報に繋げることは重要です。そのため、例えば自治体や公的機関のアカウントに認証バッジを付けています。ユーザーの皆さんが情報の発信源に対して信頼が持てるようにする取り組みです。
Twitter Japanでは「Twitterライフライン(@TwitterLifeline)」というアカウントを運用しており、自治体や政府、公共機関、メディアなどの災害時のツイートを拡散するためのお手伝いをしています。Twitterライフラインは自然災害・緊急災害に特化した情報提供のアカウントです。
以前みなさんから #防災豆知識 #非常時に知っておくと役立つ便利情報 としてに集まった避難袋の中身や防災グッズの数々を紹介しますね。是非これらを参考に、みなさんそれぞれのニーズに合った万全の備えを! https://t.co/O5b0UQGofZ
— Twitterライフライン (@TwitterLifeline) February 14, 2021
Twitterライフラインでは災害が起こる前の防災、減災に向けた啓発コンテンツ、災害が起きた時には災害情報、災害が起きた後の「ボランティア募集」や「復興のプロセス」などに関するお知らせなど、一連の情報を発信しています。Twitterはグローバル企業ですが、このようなアカウント運用をしているのはTwitter Japanのみです。
我々は自治体向けにTwitterのトレーニングを提供したり、内閣府、消防庁、気象庁などとは「災害連絡会議」という集まりにおいて「ハッシュタグをどうすれば有効活用できるのか」などとといった議題について意見交換も行っています。
──服部さんは2017年に入社されたと聞いています。東日本大震災や2016年の熊本地震はTwitter社で経験されていません。2018年に北海道胆振東部地震が発生した際には現職だったかと思いますが、当時のTwitter利用はどのような状況でしたか。
北海道胆振東部地震では当時経産相だった世耕弘成氏(現・参議院自民党幹事長)が積極的にTwitterを活用していたことを印象深く覚えています。地震発生直後から情報を発信しており、電力会社よりも先に情報を出していくようなかたちで、非常にTwitterらしい使い方だと感心したことを覚えています。
北海道地震。停電の原因について現時点で分かっていること。
— 世耕弘成 Hiroshige SEKO (@SekoHiroshige) September 5, 2018
地震発生当時道内電力需要が300万kw程度でしたが、そのうち半分の165万kwを発電する苫東厚真火力発電所が地震のため急遽自動停止したため、受給バランスが大きく崩れ、他の発電所も停止し、道内全域の停電につながったものと思われます。
世耕氏のツイートに続くようなかたちで、自治体や経済産業省(経産省)も情報を出していくということが起こっていました。災害情報発信における新しい時代の幕開けを感じました。
経産省のTwitterアカウントよりも先に大臣がどんどん情報を出してくる。その是非についてはわかりませんが、インターネット時代における“リアルタイム”のサービスを非常に上手く使われた。リーダー、あるいは知名度が高く影響力のある方による発信は非常に重要です。
過去の震災では、県知事や市長、地元の警察などがデマについて「これは間違いです、これが本当の情報です」といったツイートを投稿していました。立場のある方による情報発信が進むことは社会の安心にも繋がると思います。自治体と話をする際にも、自治体による情報発信がいかに市民に大きな影響を与えるかということを強調して伝えています。
──災害時にTwitterを利用するために、ユーザーはどのように備えておくべきでしょうか。
Twitterライフラインでも都道府県別に災害情報を発信するアカウントを集めたリストを用意しています。住んでいる都道府県のリストをフォローしたり作成していただければと思います。そうする事で、Twitterのタイムラインには膨大な量の情報が流れてきますが、自分の住んでいる地域の情報だけを効果的に見ることが可能になります。
加えて、自分にとって必要な情報、例えば川の近くに住んでいればその川の情報が得られるアカウントをフォローしておくことが重要です。災害時に急に準備することは困難なため、普段から意識して備えておくことが重要です。
また、デマや不確かな情報も増えてくると思いますので、認証バッジの付いたアカウントが発信する情報を優先的に見るようにしたり、不確かな情報にある背景や正確性についても意識していただけたらと思います。
目を引く投稿については返信欄や引用リツイートにどのようなコメントが付いているかをよく見て確かな情報なのかを確認していただくのも良いかと思います。Twitterでは間違った情報は誰かが「それは違う」と書き、反証されているケースも多くあります。
3箇条にするのであれば、以下のとおりです。
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災害情報などを収集できるリストを用意するなどして普段から備えておく。
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災害が発生した時は情報の真偽や信頼性に気をつける。
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被災地にいる場合は自らツイートする。
被災地にいる方によるツイートは安否確認にもなりますし、周りの災害情報や気象情報などは誰かの役に立つ可能性が高いので、情報共有に協力して頂けると、誰もがリアルタイムで情報発信できるというTwitterの強みがより生かされるのではないかと思います。
──東日本大震災から10年が経ちました。災害時におけるTwitterの役割はどのように変化しましたか。
より多くの方がTwitterを使い、より多くの方がTwitter上の情報を頼り、信頼するようになってきました。我々としてもTwitterをさらに効果的に活用していただければと思っています。
とは言っても、まだまだ多くの自治体では一方的な情報発信というかたちでの利用に留まっています。ユーザーによる投稿も、「揺れた」(とだけツイートして、どこの、何のことかも分からない)などといった具体性に欠けた投稿が多く見られます。
Twitter上の情報をより効果的に、ビッグデータとして活用するためには、災害情報や気象情報をツイートする時に、位置情報を付けていただいたり、ハッシュタグを活用していただいたりすることが重要です。
Twitterのデータを活用して、災害時に有効な自治体向け製品も徐々にでき始めていると聞いています。そういったことが進めば、Twitter上での会話がより精密な信頼性の高いデータとして施策にも活かされるようになってくるのではないかと思います。
Twitterは開かれていて会話性のあるプラットフォームです。行政、自治体、政治家の方々やメディアの皆さまに、もっとTwitter上での会話を積極的に行っていただければ、Twitterの強みがより生きてくると考えています。ですが、現状は多くの省庁や公共機関、自治体が利用の内規として「返信はしていません」としています。そのため、どうしても情報発信が一方通行になってしまっています。普通のホームページと変わらない状況のため、もっとTwitterらしい使い方をして欲しいなと期待しています。
東日本大震災をきっかけに、日本におけるTwitterの認識は大きく変わったのではないかと思います。電話が通じず、停電でテレビも使えなくなった時でも、幸いインターネットは生きていた。そのため、Twitterにソーシャルインフラ・ライフラインとしての価値を見出していただけた。以来、地震や災害が起こると「緊急時はTwitter」と言った具合に使っていただいている状況です。
リアルタイムで誰もが情報を発信でき、開かれたプラットフォームで誰もが情報にアクセスすることができる。 Twitterのそのような強みは非常に重要だと思っています。より多くの自治体やユーザーに使っていただくため、我々は一生懸命、取り組みを進めているところです。