東京大学協創プラットフォーム開発(東大IPC)が展開するインキュベーションプログラム「東大IPC 1stRound」の新採択企業が発表された
東京大学協創プラットフォーム開発(東大IPC)が展開するインキュベーションプログラム「東大IPC 1stRound」の新採択企業が発表された。画像は東大IPCの公式サイトより
  • Yanekara : 電気自動車を蓄電池に変える充放電システム
  • Citadel AI : “24時間いつでも頼れるAI”を実現するための監視ツール
  • EVERSTEEL : 鉄鋼材のリサイクルを促進する、鉄スクラップの自動解析システム
  • LucasLand : 東大発の新素材を軸にバイオ産業の成長を加速
  • ANICLE : ペットの健康問題を解決するオンライン獣医療プラットフォーム

東京大学協創プラットフォーム開発(東大IPC)が起業を目指す東大関係者や東大関連のシードベンチャーを対象に実施しているインキュベーションプログラム、「東大IPC 1st Round」。今回で4回目を迎える同プログラムの新たな支援先5社が発表された。

東大IPC 1st Roundでは各社に対して最大1000万円の活動資金を提供するほか、東大IPCが6カ月月間に渡って事業の立ち上げ・運営をサポートする。JR東日本スタートアップやトヨタ自動車、ヤマトホールディングスなど各業界の大手事業会社がパートナーとして参画しており、各社と協業や実証実験の可能性がある点も大きな特徴。今回から新たに安川電機とピー・シー・エーがラインナップに加わった。

前身となるプログラムも合わせると過去3年半で累計34チームが採択されており、すでに23社が投資家から資金調達を実施済み。2020年より採択先に対する東大IPCからの投資も始まり、以前紹介したBionicMアーバンエックステクノロジーズARAVなどへの出資事例がある。

以下では今回採択された5社の概要を簡単に紹介する。

Yanekara : 電気自動車を蓄電池に変える充放電システム

Yanekaraでは電気自動車を蓄電池に変える充放電システムを開発する

Yanekaraでは電気自動車を“エネルギーストレージ化”する充放電システムの開発に取り組んでいる。

今後急速な普及が見込まれるEVの中には巨大なバッテリーが眠っており、駐車中のEVは大きな可能性を秘めた遊休資産となっている。このエネルギーを有効活用するには充放電器が必要となるが、従来の製品は1基約80万円と価格が高く簡単に導入できるものではなかった。

Yanekaraが開発する充放電システムの場合、一基で複数台の電動車両の充放電を管理できるため一台当たりの初期費用が3分の1以下に抑えられるのが特徴。太陽光パネルから直流のままバッテリーに充電できる仕組みであることから、EVを再生エネルギーで走らせることも可能だ。

またこの充放電器に繋がった複数車両の充放電を群制御することで、仮想的に巨大な蓄電池を創出することを目指しているという。

同社は東京大学工学部電気電子工学科の松藤圭亮氏ら3人が立ち上げたスタートアップ。このテーマで2020年度の未踏アドバンスト事業にも採択された。

Citadel AI : “24時間いつでも頼れるAI”を実現するための監視ツール

Citadel AIでは「24時間いつでも頼れるAI」を実現するためのAI監視ツールを開発する

Citadel AIが開発するのは「24時間いつでも頼れるAI」を実現するためのAI監視ツールだ。

AIシステムは「どのような形式のデータをどういったモデルで学習するか」というアーキテクチャ部分を人間がコーディングする一方、軸となるロジックやフローチャートに相当する部分についてはデータを基に“AIが自ら学習”する。そのため出来上がったシステムのロジックを人間が推測しにくく、いわゆる「ブラックボックス化・説明責任問題」が生じやすい。

またAIには“生鮮食料品”的な側面が強く、常に再学習・更新を続けなければその品質や精度が大きく劣化しかねない。学習時にバイアスのかかったデータを読み込ませてしまうとAIが偏見を持った判断を行い、コンプライアンス問題や訴訟に繋がるリスクもある。

運用段階で専門家がAIシステムを常時監視することはコストやリソースの面でも難しく、多くの現場では上述したようなリスクを見落とす可能性が常に付きまとっている状態だ。

Citadel AIが開発する「Citadel Radar」はそのリスクから顧客を守るAI監視ツールだ。顧客に変わってAIを監視し、その思考過程を可視化した上で品質や信頼性を確保する。さまざまなAIシステムに適用でき、AI固有の脆弱性・説明責任リスクを回避する。

同社でCEOを務める小林裕宜氏は三菱商事を経て、「Ponta」運営元のロイヤリティマーケティングの社長や米国Indiana Packers CorporationのCEOなどを務めてきた。CTOで共同創業者のKenny Song氏は米Google本社の出身。同社のAI開発中枢機関であるGoogle Brainのプロダクトマネージャーを経験しており、現在は東大理学部の研究生として所属しつつ、Citadel AIの立上げに携わっているという。

EVERSTEEL : 鉄鋼材のリサイクルを促進する、鉄スクラップの自動解析システム

EVERSTEELは鉄スクラップの解析に特化したAIを通じて鉄鋼材のリサイクルを促進し、世界のCO2排出量を削減することを目指している。

鉄鋼材生産によるCO2排出量は製造業全体の中でも多く、排出量を4分の1へ低減できる「鉄リサイクル」の促進が急務だ。ただ、それを進める上で鉄スクラップに混入する異物が大きな障害となっているという。

異物の混入は鉄鋼材の品質に深刻な影響を与えるため、従来現場では熟練の作業員が目視で膨大な量のスクラップの選別を行ってきた。そこには多大な人件費がかかるほか、人材不足や見落としによる品質低下の問題も発生している。

EVERSTEELではAIを活用した鉄スクラップの自動解析システムを通じて、この課題を解決する。特徴はさまざまなスクラップを正確に解析できるアルゴリズムと、少量のデータセットから高い精度を出すための独自のデータオーグメンテーション(データ拡張)技術だ。

共同創業者の田島圭二郎氏と佐伯真氏は環境問題に一石を投じたいという思いからチームを発足しており、鉄スクラップの自動解析システムをテーマに未踏アドバンスト事業にも採択されている。

LucasLand : 東大発の新素材を軸にバイオ産業の成長を加速

LucasLandは東大発の新素材「多孔性炭素ナノワイヤ」を基盤とした簡便微量分析チップの研究開発に取り組む。

LucasLandは東大発の新素材「多孔性炭素ナノワイヤ」を基盤とした簡便微量分析チップの研究開発に取り組むチームだ。

創薬や食品検査、環境安全、感染症検査、病理検査、科学捜査などのバイオ産業分野において“微量分析”は重要な役割を担うが、従来の分析方法には何かしらの課題もあった。たとえば一般的な微量分析法(X線、NMR、質量分析など)は分析装置の大きさやコストが問題。簡便微量分析法である表面増強ラマン分光法(SERS)は生体試料への適合性が問題、といった具合だ。

LucasLandではこれらの課題を解決する東大発の新素材をコア技術に、これまでのバイオ産業では困難とされてきた簡便微量分析を実現するプラットフォームの創造を目指している。

このチームには複数のバイオベンチャーの経営に携わってきた望月昭典氏や東大大学院理学系研究科の教授で微量分析・精密計測の研究に精通する合田圭介氏を始め、さまざまな経験を持つメンバーが集まっているという。

ANICLE : ペットの健康問題を解決するオンライン獣医療プラットフォーム

ANICLEではペットの健康問題を解決するオンライン獣医療プラットフォームを開発する

ANICLEでは在宅から動物病院までがシームレスに繋がった獣医療の実現を目指して複数のサービスを展開している。

これまで飼い主がペットの異変に気付いた場合、該当の症状に関してネットで検索したり、病院に連れていったりすることが一般的だった。ただネットの情報だけをもとに適切な判断をすることは難しく、そもそも病院に連れていきづらい状況にある飼い主も存在する。結果的に動物病院への受診が遅れ、重症化してしまった症例や命が失われる症例も少なくないのが現状だ。

この問題の解決策としてANICLEは3つの仕組みを作っている。飼い主がペットの情報や症状を詳細に入力することで、緊急性や考えられる病気が即座に分かる「AI問診システム」を開発。判定結果を基に獣医師による「オンライン相談や往診」が受けられる環境を用意した。

またサービスを通じて得られた診療データを活用し、獣医師の業務効率化や正確な診断・治療をサポートしていく計画もある。

ANICLEは東京大学・北海道大学獣医学部同期の獣医師8人が中心で運営しているチームだ。これまで1年以上にわたって無償でオンライン相談を受けつけ、累計で800人以上を支援してきた。近々正式に会社として登記をする予定だという。