NOVENINEでは口臭ガスの測定機能を搭載したスマート歯ブラシ「SMASH」を開発している
NOVENINEでは口臭ガスの測定機能を搭載したスマート歯ブラシ「SMASH」を開発している すべての画像提供 : NOVENINE
  • 歯ブラシに息を吹きかけ口臭測定、口腔内の健康状態を可視化
  • “口腔内予防意識”の変革へ、歯科医師の挑戦
  • 必要な時間は約10秒、スマホとペアリングせずとも口臭チェック

「誰でも虫歯や歯周病になりにくい状態を作ることはできます。治療自体をオンラインで実施することは難しくても、何らかの気づきや行動変異に繋がるきっかけを提供することはできるはず。そう考えてオンラインの歯科相談サービスを始めました」

そう話すのは現役歯科医師でありながら、自身が2018年に創業したスタートアップ・NOVENINE(ノーブナイン)で代表取締役社長を務める竹山旭氏だ。

「歯科医療を通じて予防医療をアップデートする」ことをミッションに掲げる同社では、以前からオンライン歯科相談サービスに次ぐ“本丸”のプロダクトの開発に取り組んできた。その販売がいよいよ近づいてきている。

SMASH」と名付けられた同プロダクトを一言で紹介すると、口臭ガス(タンパク質が口内の細菌により分解・発酵される過程で出るガス)の測定機能と電動歯ブラシとしての機能を併せ持った“スマート歯ブラシ”だ。

自社EC上にて5月からの販売を予定しており、それに先駆けて3月16日よりクラウドファンディングサービスの「Makuake」で先行予約を受け付ける。

竹山氏はこのSMASHを通じてユーザーが口腔内の健康状態に意識を傾け、適切なケアを行えるきっかけを作りたいという。

歯ブラシに息を吹きかけ口臭測定、口腔内の健康状態を可視化

SMASHの大きな特徴は、デバイス(歯ブラシ)本体のみで簡単に口臭ガスの測定ができること。本体をスライドして通気口を出し、そこに息を吹きかければ搭載された口臭センサーが呼気に含まれるガスを検知。口臭のレベルを4段階に分け、本体のLEDの色で結果を示す。たとえば緑が1番いい状態、紫は危険信号といった形だ。

SMASHでは歯ブラシ本体の通気口に息を吹きかけるだけで、簡単に口臭を測定できる
SMASHでは歯ブラシ本体の通気口に息を吹きかけるだけで、簡単に口臭を測定できる

測定された口臭ガスデータは、専用のスマホアプリと連携すれば「オーラルスコア」として数値化される。同アプリではスコアの変遷をチェックしながら口腔内の健康状態をチェックできるほか、ブラッシングの時間や歯磨きの時刻などもわかる。

これらのデータに加え、ユーザーが口腔内の写真や生活習慣に関するアンケートを登録すれば“歯科の専門家による評価レポート”を受け取ることも可能だ。

竹山氏は毎日歯磨きをしていても新たに虫歯ができてしまう要因の1つが「口の中の状態が見えていないこと」にあるという。そこでSMASHにおいては適切なオーラルケアをサポートする上で「口の中を可視化すること」を重視している。

その観点ではオーラルスコアだけでなく、口腔内の写真も欠かせない要素だ。口腔内の健康状態を把握する上で視覚情報は非常に重要。セルフチェックに加えて、専門家にこれらの情報を評価してもらうことで健康リスクの早期発見にも繋がる。

アプリ内のレポート機能を通じて定期的に健康状態をチェックし、異常があった場合には歯が痛くなる前にいち早く歯科医院に足を運ぶ。SMASHが自宅でのホームケアと歯科医院の間を埋める架け橋となることで、「普段から口の中の状態に関心を持ってもらい、予防意識の変革や最終的な行動変容に繋げていきたい」(竹山氏)という。

月額制の有料会員向けには専門家によるレポートやオンライン相談サービスも提供している
月額制の有料会員向けには専門家によるレポートやオンライン相談サービスも提供している
オンライン相談サービスのイメージ

なおレポートを含めた一部の機能は月額制の有料会員向けのサービス(NOVENINE CARE)となる。同プランには3カ月に1回の定期レポートに加え、1カ月に1度まで歯科専門家からアドバイスを受けられるオンライン相談サービス、3カ月ごとの替えブラシの送付サービスが含まれる。

具体的な料金は調整中とのことだが、いまのところ月額780円を想定しているそう。SMASH本体に関しては3万7180円(税込み)で販売する計画だ。

SMASHと専用のスマホアプリ

“口腔内予防意識”の変革へ、歯科医師の挑戦

虫歯や歯周病などは「予防できるにも関わらず(多くの人が)なぜそうしないのか」ーー。竹山氏は学生時代からそのことに対して疑問や課題感を抱いてきたという。

その後臨床現場に立って多くの患者を診察してきたが、ほとんどの人は自分の歯がどうでもいいと思っているわけではなかった。無関心なわけではなく、自分の口の中がどうなっているのか知らないだけ。実際に歯を失って後悔している高齢者もたくさん見てきた。

「臨床現場では写真などを見せながらとにかく丁寧に説明するんです。すると問診票には『痛いところだけを治療して欲しい』と書いていた患者さんも、8〜9割の人は『やっぱり全部治して欲しい』と考え方が変わります」(竹山氏)

必要なのは虫歯や歯周病を予防するための正しい情報を伝えていくこと。別の言い方をすれば「教育」だ。

テクノロジーが発達している時代だからこそ、それを上手く活用することで多くの人に正しい知識を届けていくことができるかもしれない。そう考えた竹山氏は2018年にNOVENINEを創業した後、オンラインの歯科相談サービスを作った。

NOVENINEのメンバー。右から3人目が代表取締役社長を務める竹山旭氏
NOVENINEのメンバー。右から3人目が代表取締役社長を務める竹山旭氏

とはいえ、当初からいずれはSMASHを開発するつもりだったという。2019年にはBeyond Next Venturesから約1.25億円の出資を受け、SMASHの開発を本格的にスタートさせた。

なぜ口臭ガスを測定できるスマート歯ブラシだったのか。それはこのプロダクトを通じて「口腔内予防意識」の変革を起こしたいと考えたからだ。

「歯周病は万病の元」とも言われるように、 口腔内の健康状態は全身に影響することが示唆されている。その一方で今から15年以上前の2004年には“予防の父”といわれるペール・アクセルソン博⼠によって「成⼈でも97.7%の⻭を守れる」という事実が証明され、予防歯科という概念が広がり始めた。

ただ日本でもその言葉自体は普及しつつも、十分に社会実装されたと言える状況には至っていないと竹山氏は言う。

虫歯・歯周病の予防には日々のホームケアだけでなく、専門家による「定期的なメンテナンス」と「正しい知識の提供」が欠かせない。口臭を軸に口腔内の健康状態を常に把握できる仕組みに加えて、生活者と専門家を繋ぐ仕組みが必要。そんな思いからたどり着いたのがSMASHだった。

2019年6月には人々の口腔内意識を変えるための場所として竹山歯科口腔医院をスタート。さまざまな患者と直に接し、悩みや課題をヒアリングするためのラボとしても機能する
2019年6月には人々の口腔内意識を変えるための場所として竹山歯科口腔医院をスタート。さまざまな患者と直に接し、悩みや課題をヒアリングするためのラボとしても機能する

必要な時間は約10秒、スマホとペアリングせずとも口臭チェック

スマホと連携させることで口腔ケアをサポートするIoT歯ブラシ自体はすでに存在するが、その中にはスマホとペアリングをした状態で画面を見ながら使うタイプも多い。毎日継続をしていく上では、この仕様がハードルになりうると竹山氏たちは考えた。

SMASHを開発するにあたってはメンバーで実際に既存製品を試してみたものの三日坊主になってしまい、「歯磨きの際に毎回スマホを見ながら使い続けられるかというと難しい」と感じたという。

そこでSMASHでは歯ブラシ本体だけで口臭ガスを測定でき、なおかつLEDの色ですぐに結果がわかるように設計。短い時間で口臭を測定するための仕様にもこだわった。

SMASHの場合は毎回スマホとペアリングする必要はなく、歯ブラシ本体だけで口臭ガスを測定できるのが特徴
SMASHの場合は毎回スマホとペアリングする必要はなく、歯ブラシ本体だけで口臭ガスを測定できるのが特徴

設定をオンにしてから口臭を測定するまでに何分もかかってしまうと、忙しい時には使いづらい。SMASHの場合は準備から呼気を吹きかけるまでにかかる時間はトータルで約10秒ほどに抑えている。

また歯ブラシ自体にデータが約1カ月分保存されるため「スマホと接続するのを忘れてしまったことでデータの取りこぼしが発生した」という事態も起きない。

「毎日の歯磨きの習慣にほんの少しの手間を加えるだけで使えるようにしなければいけない。その考えが原点にあり、いかにその手間を少なくできるかを常に工夫しながら開発を進めてきました」(竹山氏)

まずは自社ECを通じてデバイスを販売していく計画で「SMASHを使って口腔内の状態を測定し、セルフチェックや専門家への相談をしながら適切なケアを行っていく」習慣を広げていくことを目指す。次のステップでは歯科医院での販売も見据えているほか、ゆくゆくは蓄積されたデータを用いた事業展開や、保険との連携なども視野に入れているという。