
- 最新作『モンスターハンターライズ』は英語版も同時発売
- 新型コロナウイルスの影響によるコミュニケーションツールとしての役割
- ダウンロード版ソフト販売比率上昇による貢献も
- 新規ユーザーも獲得し『モンスターハンターライズ』は過去最高のヒットに
3月26日には最新作となる『モンスターハンターライズ』が発売されたばかりのモンスターハンター(モンハン)シリーズ。ゲーム好きでなくともその存在を知るであろう、カプコンの超大ヒットタイトルだ。
2018年1月発売の『モンスターハンター:ワールド』は、PlayStation 4版とXbox One版を全世界同時展開、追ってPC版を提供したことも奏功し、1680万本という驚くべきセールスを記録した。これは、カプコンの歴代販売本数ランキング2位である『バイオハザード7 レジデント イービル』の850万本にダブルスコア近い差を付けた、ダントツの1位である。
こう聞くと、モンスターハンターはカプコンを代表するようなタイトルだと思われるかもしれないが、カプコンが投資家向けに公表しているWebサイト「ミリオンセールスタイトル」を見ると、意外な結果が見えてくる。
1位は前述した通り『モンスターハンター:ワールド』で、6位にはその有料アップデート版である『モンスターハンターワールド:アイスボーン』がランクインしている。しかし2~5、9位は『バイオハザード』シリーズで、7位は1992年に発売したスーパーファミコン専用ソフト『ストリートファイターII』で、8位は『ストリートファイターV』と続く。『モンスターハンター』シリーズは10~12、14~15、17位だ。

つまり、モンスターハンターはカプコンを代表するシリーズであることは間違いないのだが、『バイオハザード』や『ストリートファイター』シリーズの強さを再確認することになる。だがゲーム好きなら、この結果に違和感を覚えないだろうか。
私の見解を言うと、『モンスターハンター:ワールド』以前のシリーズは、主に日本国内市場向けソフトだということ。『モンスターハンター:ワールド』は、世界同時発売を果たした、初めてのモンスターハンターだったのだ。
モンスターハンターシリーズの人気が爆発したのは主にPlayStation Portable(PSP)向けの『モンスターハンターポータブル』以降。据置機用でも『モンスターハンター3(トライ)』以降は、日本国内では100万本超えの大ヒット作品となったが、海外市場でのセールスがあまり伸びていない。世界合計の売上本数の90%以上は日本国内での販売本数と言っても過言ではないのだ。そういう視点で見ると、前出のランキングの見え方も変わってくるだろう。
最新作『モンスターハンターライズ』は英語版も同時発売
3月26日に発売された最新作『モンスターハンターライズ』は、日本語版ソフトのほか、北米市場向けの英語版も同時に提供される。これだけでも『モンスターハンター:ワールド』に次ぐヒットが期待されるが、今回の勝機はこれだけではない。
日本国内での、ハードウェアの売上台数を考えてみよう。ファミ通.comで公開されている「ハード推定販売台数」(2021年3月14日までの販売分)の結果(累計台数)は以下だ。
Nintendo Switch
Nintendo Switch:1531万5653台
Nintendo Switch Lite:341万3094台
合計:1872万8747台
PlayStation 4/5
PlayStation 4:777万323台
PlayStation 4 Pro:157万5689台
PlayStation 5:40万7223台
PlayStation 5 デジタル・エディション:7万6036台
合計:982万9271台
日本国内におけるハードウェアの販売台数は、Nintendo Switch(ニンテンドースイッチ)の方が2倍近く多く、そろそろPSP(推定販売台数1969万台)に届く勢いだ。
ハードウェアの所有客層とソフトとの親和性もあるため、ハードの普及台数とソフトの販売本数が比例するとは限らないが、普及しているハード向けの方が、ソフトの売上に貢献することは間違いない。

こう考えていくと、ハードが普及しているニンテンドースイッチ用ソフトとして発売される『モンスターハンターライズ』(後日、PC版も発売予定)は、日本国内での販売本数で比較すれば『モンスターハンター:ワールド』を超えるのは間違いない(日本国内のみでの販売本数は未公表)。
本数の目安としては、ほとんど日本市場だけで490万本のヒットを記録した『モンスターハンターポータブル3rd』も超えるはず。日本国内のパッケージ+ダウンロードカードの販売数だけで669万本超(2021年3月14日までの販売分)となった『あつまれ どうぶつの森』にすら届く可能性を秘めていると考えている。
新型コロナウイルスの影響によるコミュニケーションツールとしての役割
ニンテンドースイッチの『あつまれ どうぶつの森』がここまでのヒットとなった一因には、新型コロナウイルスの影響による巣篭もり需要があったと言われている。世界的に不要不急の外出はせず、休日は自宅で過ごせという方針がさけばれた中、オンデマンド映像配信など大きくセールスを伸ばしたいくつかの業界の中の1つに、ビデオゲーム業界がある。
自宅で楽しめるエンターテインメントという要素に加えて、『あつまれ どうぶつの森』は他人が整えた島へ遊びに行ったり、アイテムのやりとりができるという内容も後押しとなった。スタンドアローンで遊ぶタイプのゲームソフトに較べて、実際に会うことはできなくても「人とのつながり」を感じられるコミュニケーションツールとしての役割を果たしていたのだ。
その役割を象徴した出来事として、エレクトロニック・アーツやSIEワールドワイド・スタジオ ロンドンを経て、現在は『ニード・フォー・スピード』の開発で知られるクライテリオン・ゲームズでゲームのアソシエイトプロデューサーをしているAlexia Christofi氏のツイートに注目したい。彼女の娘は9歳の誕生日を迎える日、友人たちと会えないことを悲しんでいた。そんな娘のために、島の地面には「HAPPY BIRTHDAY SOPHIA」というマイデザインを準備。彼女の同僚や友人など6人が娘の島を訪れ、クラッカーを鳴らし、隠れんぼを楽しんだという。
I could cry. My friends @Skilton, @lillieUIVR , @rubyannem , @RenderTramp, and their pals threw Sophia a 9th birthday party in #AnimalCrossingNewHorizons because she couldn't see her pals due to lockdown 😭 pic.twitter.com/hEKtOtU0rk
— Alexia Christofi 🎊🎉 (@Lex_mate) March 24, 2020
『モンスターハンターライズ』は自分を含む最大4人のパーティを組み、強大なモンスターを討伐するゲーム。アクションゲームが好きな人は1人でも強敵を倒せるが、アクションゲームが苦手な人でも、上手い人に手伝ってもらうことにより、強敵を倒せるようになる。
助けた側は感謝され、助けられた側は強敵を倒せたことを喜ぶ。このWIN-WINの関係こそが、モンスターハンターシリーズが多くの人に評価された要因だ。『あつまれ どうぶつの森』とはコンセプトが大きく異なるが、「人とコミュニケーションしたい」という気持ちを満たすツールとして、コロナ禍においては以前よりも需要が高まることは間違いない。
ダウンロード版ソフト販売比率上昇による貢献も
ゲームソフトの販売方法は現在、ニンテンドースイッチのゲームカードや、PlayStationシリーズ/Xboxシリーズ用のDVD/Blu-rayを販売する「パッケージ版」のほか、インターネットを通じてデジタルデータを購入する「ダウンロード版」という2つの選択肢がある。
ダウンロード版ソフトは、ソフト発売日の0時からプレイ可能(かつ、それ以降は、遊びたくなった瞬間に購入可能)になるというアドバンテージに加えて、新型コロナウイルスの感染を心配しながらゲームソフト販売店へ受け取りに行ったり、通販サイトが発送した商品の到着を苛々しながら待つ必要がないという利点もある。
もちろん、メーカーとしても物理的な商品が存在しないため在庫リスクもないばかりか原価も安く、流通を経由しないために利益率が高い。このため、販売元としてはダウンロード版ソフトの販売比率を高めることが、営業利益の向上に直結するわけだ。しかし、ダウンロード版の販売比率が増えると、メーカーにはもう1つ、嬉しい利点がある。それは、中古市場の抑制だ。
ゲームソフトは残念ながら「人気があると聞いて買ったけど、自分には合わなかった」というミスマッチが起こり得る商品ジャンルだ。このため発売日の直後に購入しても、すぐに中古ソフトショップに買取してもらおうとする人は一定数いるし、これを責めることもできない。でも中古ソフトショップに並んだ商品が売れても、メーカーの利益には還元されない。それどころか、新品ゲームソフトの販売チャンスを奪われている。
当然のことながら、ダウンロード版として購入されたソフトは中古ソフトショップに買取してもらえない。中古ソフトショップの店頭に並ぶソフトの本数が減ると、中古品の販売価格が上がる。結果として、新品ソフトとの価格差が狭まり、中古ソフトを選ぶ意味が薄れる。中古ソフトショップに流れる商品数をゼロにはできないまでも、着実に減らすことはできているだろう。ここまで説明するとパッケージ版ソフトとダウンロード版ソフトの両方がある場合、どちらが何パーセント売れたかというデータが知りたくなるだろう。PlayStation 4/5を販売するSIEはワールドワイドの平均値として、2018年4月期は43%、2019年4月期は55%、そして2020年4月期は63%になったと発表している。日本のクレジットカード普及率の低さもあって、ワールドワイドに較べて3分の2程度にとどまるのではないかと私は考えている。
次に『モンスターハンターライズ』のプラットフォームであるニンテンドースイッチについてだが、任天堂は具体的な数字を発表されていない。任天堂が2020年11月5日に発表した「2021年3月期 第2四半期 決算説明資料」によると、「デジタル売上高」は、2021年3月期の上半期だけで全体の約半分となる47.2%(売上高1715億円)になった。
この金額にはNintendo Switch Onlineの利用料やダウンロード専用ソフト、有料ダウンロードコンテンツ(DLC)も含まれているため、純粋にダウンロード版ソフトの販売比率が47.2%になったというわけではない。だが対前年比139.4%という結果からは、ダウンロード版ソフトの販売比率上昇も貢献しているに違いない。
余談になるが、任天堂以外のゲームメーカーの中には、ソフトの発売から1年ほどするとダウンロード版の売り伸ばし施策として、割引セールを行うところも多い。中には半額以下という価格設定にされるゲームソフトもあるため、この段階においてもさらなる販売数の増加が見込める。ゲームカードやパッケージを製造しないでも販売できる、ダウンロード版販売だからこそ可能な拡販手法だ。
新規ユーザーも獲得し『モンスターハンターライズ』は過去最高のヒットに
『モンスターハンターライズ』は、実はこれまでのシリーズとは異なり、プレイヤーたるハンターたちは忍者風に。そしてモンスターは妖怪風に登場する、和テイストな世界観なっている(編集注:厳密には、2010年発売の『モンスターハンターポータブル 3rd』も和テイスト)。また妖怪のテイストは低年齢層向けのコミカルな妖怪ではなく、どちらかと言えば水木しげる作品のような、大人に向けた妖怪モノの作品に仕上がっている。
これまでの剣と鎧とドラゴンといった、中世ヨーロッパ的な世界観とは一線を画する。この路線が成功すれば、今後の『モンスターハンター』シリーズにおける、新しい柱になり得るのではないだろうか。
世界観を変えるということは、新たな客層が期待できると共に、既存ユーザーからの反発を受けるかもしれないという危険性を秘めている。しかしSNSなどの評判を見る限り、シリーズのファンからの反発の声は目にしたことはない。『モンスターハンターライズ』は既存のファンを失うことなく、新規ユーザーへのアピールも果たすという、いいとこ取りのコンセプト変更になりそうだ。
こうしたさまざまな要因がどれも後押しとなり、『モンスターハンターライズ』は(少なくとも日本国内と北米では)過去最高のヒット作になるだろう。それは、このシリーズを愛して止まない、私自身の望みでもある。一緒に遊べる仲間が身近にいない人は、ゲームのスクリーンショットなどを添えて、SNSにこう投稿してみてはどうだろうか。
「一狩り、いこうぜ」