
- プログラミングに興味を持ったきっかけはテレビ番組
- 優勝作品の開発を進行中
- 子供の成長の鍵は「親も一緒に楽しみながら学ぶこと」
「プログラミングが好きなのは、好きなものを作れることがワクワクするからです。作った作品をみんなに遊んでもらって、コメントとかをしてもらったり。『好き』とか『お気に入り』(といった評価)をつけてもらったりすると嬉しいです」
こう語るのは愛知県に在住の川口明莉さん。10歳の小学校4年生だ。
明莉さんは2020年の12月、サイバーエージェントの関連会社でプログラミング教室を展開するCA Tech Kidsが開催する小学生プログラミングコンテスト「Tech Kids Grand Prix 2020」で見事に優勝を果たした。
Tech Kids Grand Prix 2020には2189件の応募があり、東京都・渋谷区で開催された決勝大会では10人のファイナリストたちが各々の作品を発表。川口さんはAIを活用したSDGs(持続可能な開発目標)学習用アプリ「マークみっけ! for SDGs」を発表し、会場を沸かせた。審査員は「機械学習を使った作品が出てくるとは想像もしていなかった」などと述べていた。
筆者はTech Kids Grand Prixを第1回目の2018年から取材しているが、年々、発表する作品がレベルアップしていることに驚かされている。特にコロナ禍の中で開催された2020年大会では明莉さんのアプリを筆頭に、正しい手洗いについて学べるアプリやソーシャルディスタンスを確認できるARアプリなど、社会的意義のある作品が目立った。
3年にわたり大会を取材してきた筆者がずっと抱いていたのが「意識の高い作品を開発する小学生はどんな環境でプログラミングを学んでいるのだろう」といった疑問だ。筆者は明莉さんと父親の川口哲司さん、母親の川口奈都子さんを取材し、学習環境やサポート体制について話を聞いた。
プログラミングに興味を持ったきっかけはテレビ番組
明莉さんがプログラミングに興味を持ち、勉強を始めたのは小学1年生のころ。きっかけは友達に勧められて観たNHKの番組「Why?!プログラミング」だった。当時は水泳やピアノなど、プログラミングとは関係のない習い事に通っていた。だが、絵本を書くなど「何かを作ること」に興味があり、プログラミングに熱中するようになったという。
プログラミングを勉強するにあたり、最初は子供向けのプログラミング言語の「Scratch」を、NHK for Schoolが実施しているプログラミング大喜利「Why!?大喜利」に作品投稿することで勉強していたという。小学3年生からはゲームエンジンの「Unity」での開発に挑戦。父親と本を読んだり、ネット上の情報を頼りに勉強している。
明莉さんが愛用するパソコンはマイクロソフトの「Surface」。薄いピンク色の見た目が気に入っているという。ScratchやUnityのほかにも、ゲーム感覚でプログラミングを学べるRPGゲーム風プラットフォームの「HackforPlay」や、オンラインプログラミング学習サービスの「Progate」を活用する。
「Progateでは色々な言語を勉強しています。友達の学習レベルも見られるので、追い抜かすために頑張れるのが良いなと思います。Scratchはテレビなどを見ながら乗り越えられました。Unityはテキストプログラミングなので、Scratchとは少し違う感じで難しかったです。ちょっとつまずいたけれど、本を読んだりして作品を作ってるうちに、少しずつ慣れてきました」(明莉さん)
優勝作品の開発を進行中
プログラミング以外だと、なわ跳びやバスケットボール、折り紙や誕生日プレゼントで貰ったピラミッド型のルービックキューブのようなパズル「ピラミンクス」に夢中だという明莉さん。今はコンテストで発表したマークみっけ for SDGsを、他の子供たちも遊べるように公開することを目指している。半年〜1年後の完成を目標にしているという。
目的は、文部科学省のGIGAスクール構想で小学生全員が1台の端末を持った時に「みんなに遊んでもらえるんじゃないかと思ったから」。最近ではエンジニアでプログラミング関連の書籍を手がけるからあげ先生の本を読んでAIを勉強しているという。そんな明莉さんの将来の夢はプログラミングやAIの知識を活用して世の中に貢献することだ。
「将来の夢は小児科医になることです。理由は、図鑑などで体の仕組みを見たらとても面白かったからです。あと、子供が好きだからです。AIを活用して、病原体を発見して、子供たちの病気を治せたら良いなと思います」(明莉さん)
子供の成長の鍵は「親も一緒に楽しみながら学ぶこと」
「私は会場でコンテストを見ていました。正直、何かしらの賞を取れればそれで良いなと思っていました。明莉も同じ気持ちだったようなのですが、2位が発表された時には『だめだったかな』とあきらめかけていたので、1位に選ばれて本当に嬉しく思いました」
こう当時を振り返るのは明莉さんの父親、哲司さんだ。

「明莉はものづくりが好きで、絵本を書いたり、レゴで作品を作ったりしていましたので、プログラミングにも興味を持つかな、とは思っていました。プログラミングはこれからの時代、とても重要なスキルです。Why?!プログラミングを見たら興味を持ってくれたので、良かったなと思っています」(哲司さん)
明莉さんがWhy?!プログラミングを見るようになったのは、幼稚園の年長の頃。明莉さんと母親の奈都子さんが仲の良い親子に勧められていて、風邪で何日も休んでいた時にオンラインで見るようになった。
明莉さんが番組を見ながら実際にScratchの勉強を始めたのは小学校1年生になってから。以降、哲司さんはパソコンを与えるほか、明莉さんがプログラミングを学ぶ上で直面するハードルを乗り越えるための手伝いをしているという。
「子供用のScratchだとしても、最初は多少のハードルがあるのではないかと思っています。最初の1〜2作品は一緒に勉強して楽しみながら作っていき、そこから徐々に自分だけでもできるようになっていきました」
「Unityを使い始めた時も、最初は1人では始められなかったので、インストールをし、一緒に作品を作るなどしてから、以降は自分だけで頑張らせるというかたちで手助けをしています」(哲司さん)
母親の奈都子さんは明莉さんをさまざまなイベントに連れていったり、子供向けの新聞や本を一緒に読むことで、さまざまな知識に触れられる機会を与えているという。
「明莉も私もイベントに行ったりするのが好きなので、農業フェスタや鉄道フェスタなどによく連れてっています。イベントは子供が楽しく学べるようになっています。なので、興味のない分野のワークショップでも楽しく参加することが可能です」
「『しっかりと勉強しなさい』と言うよりは、子供新聞や図書館で借りてきた本を一緒に読んだりすることで、色々なことに興味を持てるように知識の幅を広げてあげることが大事だと思っています」(奈都子さん)

哲司さん・奈都子さんと話していて印象的だったのは、2人とも明莉さんと同様に学ぶことを楽しんでいる様子だったことだ。通信キャリアで働く哲司さんは、情報系の学生だったためプログラミングの知識はあるものの、明莉さんと一緒に新しい知識を身につけることに前向きだった。奈都子さんはプログラミングで成長する明莉さんに影響され、ICT支援員を目指して勉強してきたという。
明莉さんの将来について、哲司さんは「思いやりのある大人になっていてほしい。自分が好きなことを仕事にして、毎日が楽しいな、仕事は楽しいなと思える大人になって欲しいなと思います」とコメント。奈都子さんは「まだ小さいのでそこまで将来の事は考えていないのですが、アイデアを思いつくのが好きで、親としても『凄いな』と感じています。アイデアをかたちにできる仕事に着くと幸せになるのかな、と勝手に思っています 」と話していた。