• 若年層がもっと手軽にアートを所有できるように
  • リリースから1年半で現代アーティスト約120人が登録

商品を購入する前に、まずは借りて試してみる──昨今、家具や家電を中心に普及の兆しを見せている“レンタル”という新たな考え方は、どうやらアートにも波及しているようだ。

2021年3月30日、ニューヨークを拠点に現代アートのレンタルサブスクリプションサービス「Curina(キュリナ)」を展開するCurinaはベネッセコーポレーション取締役の福武英明氏、CAMPFIRE代表取締役社長の家入一真氏、マネーフォワード代表取締役社長の辻庸介氏、ユーザーベース取締役の梅田優祐氏などを含む、総勢10人のエンジェル投資家から総額8000万円の資金調達を実施したことを明かした。

今回調達した資金をもとに、Curinaはサービスの対象エリアをニューヨーク州、ニュージャージー州、コネチカット州の3州から、アメリカ全土へと拡大。さらにアーティストやギャラリーとの契約も進め、さらなるポートフォリオの充実に取り組むという。

若年層がもっと手軽にアートを所有できるように

Curinaはサブスクリプション型の現代アートのレンタルサービス。10〜500万円ほどの現代アート作品を月額制で3カ月からレンタルすることできる。レンタル期間が終了した後はそのまま作品を購入することができるほか、それまでに支払った月額費用を作品の購入価格にクレジットとして充てることができる。

現在、月額費用は38ドル、88ドル、148ドルという3つのプランを提供しており、ユーザーの中心は20〜30代の若年層となっている。“サブスクリプション型のレンタル”という仕組みを提供することで、若年層が抱える「アートに興味はあったけど一歩踏み込めずにいた」という課題を解決している。実際にCurinaのユーザーの9割は20〜30代となっており、その半数以上が人生で初めてアートをレンタル、または購入に至っているという。

Curinaのサービス開始は2019年10月。同社の創業者であり、代表取締役の朝谷実生氏は東京大学を卒業後、経営コンサルティングファームでの勤務を経て、2019年にコロンビア大学ビジネススクールでMBA(経営学修士)を取得した人物。

朝谷氏はコロンビア大学に在学中、幼少期から趣味として嗜んでいた芸術鑑賞に時間を割くようになったそうで、そこで若手アーティストの経済的な苦悩や、アートに興味のある若年層の課題に触れた結果、Curinaの事業アイデアを着想したという。

Curina代表取締役の朝谷実生氏
Curina代表取締役の朝谷実生氏

「私自身、美術館やギャラリーに足を運ぶなど、幼少期からアート作品に触れる機会は多くありました。ただ、アート作品を購入しようと思ったときに、何から始めていいか全く分からなかったんです。ギャラリーに展示されているアート作品は高価ですし、そもそも価格帯が分からないものも多い。私もそうですが、アートに関心のある若年層がもっと手軽にアートを所有できるような仕組みが必要だと思い、サービスを立ち上げました」(朝谷氏)

朝谷氏はサービスを開始する1年ほど前からMVP(Minimum Viable Product:顧客ニーズを満たす最小限のプロダクト)を開発していたそうで、そのサービスに対する反応も良かったことから、コロンビア大学やNYのトップアートスクールの卒業生たちと共にCurinaを創業した。

リリースから1年半で現代アーティスト約120人が登録

Curinaがサービスを開始する前から、アメリカでは「Feather(フェザー)」や「Fernish(ファーニッシュ)」といった家具のレンタルサービスが人気を博していたこともあり、Curinaのサービスはすぐに多くのユーザーから受け入れられた。

「私が住んでいるニューヨークの賃貸契約は基本的に1年契約が当たり前です。また契約更新後は家賃が10〜20%上がってしまうため、みんな同じ場所に住み続けません。現に私も1年ごとに引越しをしています。その際、今までは引越しの度に使っていた家具は捨て、新居にあわせて新しく家具を買い揃えていたのですが、昨今はサスティナブルへの関心も高まったこと、さらに便利さも相まって家具をレンタルする動きが活発になってきています」

「そうした中、ニューヨークアーティストの現代アートを自宅で楽しめる敷居の低さが共感を呼び、ミレニアル世代の口コミで注目を集めはじめました」(朝谷氏)

朝谷氏によれば、サービス提供開始前の時点でCurinaのウェイトリストは100人以上が登録したほか、メルマガ登録者は半年で2000人以上を記録したという。

また、コロナ禍もCurinaのサービスには良い影響を与えた。在宅時間の増加に伴い、自宅内環境への投資が進んでいることもあり、2020年3月にニューヨークでロックダウンが発動されて以来、レンタル・販売の売上が約1カ月で500%増えた。

そんな成長著しいCurinaと契約を望むアーティストやギャラリーも増えてきている。朝谷氏は「最初の10人、20人のアーティストと契約するのは大変だった」と振り返るが、現在は厳正な審査を通過したニューヨーク在住の現代アーティスト約120人が登録し、取り扱っている作品数は1500点を超える規模になっている。

「Curinaは厳正な審査を行っており、誰もが登録できるわけではありません。一定のキャリアを積んだアーティストは歴史あるギャラリーと契約する傾向にあり、最初は私たちのようなスタートアップと契約してくれるアーティストを探すのは大変でした。ただ、数人のアーティストが契約すると、そのアーティストが新たなアーティストを呼ぶ流れができあがり、その結果Curinaと契約するアーティストの数が増えていきました」(朝谷氏)

また、ニューヨークのギャラリーと契約したことで、そのギャラリーから30人ほどのアーティストがCurinaに登録するようになっているという。

「より多くのユーザーがCurinaを通じて素晴らしいアーティストを発掘し、お気に入りの作品と出会い、購入できるようにしたいです。そのためにアーティストやギャラリーとの契約をさたに押し進め、作品ポートフォリオを拡大していきます」と語る朝谷氏。

現在、日本でもCasie(カシエ)やclubFm(クラブエフマイナー)など、現代アートのレンタル・販売を手がける企業も出てくるなど、アート作品の所有方法も広がりを見せている。今後、Curinaはアメリカ全土へのサービス提供に向けて体制を整備するほか、日本、中国をはじめ世界中での展開も推し進めていく予定だという。