Rettyの新サービス「Retty Order」は店舗型のモバイルオーダーシステムだ
Rettyの新サービス「Retty Order」は店内型のモバイルオーダーシステムだ
  • 中国では約20%の飲食店がモバイルオーダーを活用
  • IT活用で飲食店の負荷を削減、データ活用も後押しへ

2020年10月に東証マザーズに上場したRettyが、今後の事業拡大を見据え“飲食店のDX”をサポートする新事業に乗り出す。第一弾として、4月1日より飲食店内での注文をデジタル化するモバイルオーダーシステム「Retty Order」の提供を始めた。

Retty Orderは従来対面で行っていたメニューの注文を、スマホで完結できるようにするサービス。顧客はテーブルなどに設置されているQRコードを自身のスマホで読み取り、表示された注文画面を見ながらスマホ上でオーダーをする。

店員を呼ぶ手間や待ち時間のロスもなく、好きなタイミングでスムーズに注文できるのが特徴だ。

全体の注文状況は店舗側のタブレット端末に表示される(プリンタ出力も可能)。店舗向けには注文管理機能に加えて、テーブルごとの状況がリアルタイムにわかる機能や売上管理機能などを提供。スマホを持たない顧客などの代わりに店員がスマホから注文を代行できる仕組みも取り入れた。

導入店舗にとってはオペレーションの効率化が見込めるほか、コロナ禍でニーズの高まった非接触でのオーダー業務にも対応できる。

Retty Orderの特徴
Retty Orderのそのほかの機能

RettyではRetty Orderのベータ版を約3カ月で開発し、約1年にわたって一部の飲食店で試験利用してもらいながらサービスの改善を進めてきた。

たとえば従業員数が10名前後・座席数70席程度のあるビストロでは、コロナ禍でも安心して食事を楽しんでもらえる方法として一部の席でRetty Orderを導入。顧客からもスムーズに使えると好評だったため、現在は全席導入に向けて調整を進めているという。

利用料金は月額1.5万円を想定しているが(プリンタやタブレットなどの導入費用は別)、まずは1カ月間の無料トライアル期間を設けて多くの飲食店に試してもらう計画だ。

店舗のニーズによって柔軟に導入することが可能

中国では約20%の飲食店がモバイルオーダーを活用

「ユーザー側だけでなく、飲食店の方々にも価値提供の範囲を広げていきたいと考えています。以前から集客だけでは飲食店に対するサポートとしては十分ではないと感じていて、コロナ禍でその思いが一層強くなりました」

Retty代表取締役の武田和也氏は今回のタイミングで飲食店向けの新サービスを始めた理由についてそのように話す。

もっとも事業の検討自体は2019年の秋頃から始めていた。1つのきっかけとなったのが、モバイルオーダーの普及が進む中国の影響だ。

中国では約500万店ある飲食店のうち、すでに100万店ほどがモバイルオーダーを取り入れていると言われている。結果として店内でのオペレーションの効率化が進み、少人数で運営できる体制が整っている店舗も少なくない。また注文履歴をデータとしてためていくことで、リピーターの増加施策などマーケティングに活用する取り組みも進んでいる。

武田氏自身も何度か中国の飲食店を訪れる中で、モバイルオーダーに可能性を感じるようになったという。

「今までRettyでカバーしていたのは、主に(ユーザーが)お店に行くまでのところでした。そこにモバイルオーダーを加えることで、『お店に行ってからの体験』や『飲食が終わった後の体験』についても変えられる。ユーザーと飲食店双方に対して新しい価値を提供できると感じました」(武田氏)

今までRettyで蓄積してきたデータと「誰が何を注文したか」といったような店内での行動データを融合することで、ユーザーのお店選びの体験をさらに進化させる。武田氏の中には、それができれば「集客だけの価値に留まらない存在になれる」という考えもあるようだ。

IT活用で飲食店の負荷を削減、データ活用も後押しへ

モバイルオーダーは飲食店の業務効率化やコスト削減の効果も大きい
モバイルオーダーは飲食店の業務効率化やコスト削減の効果も大きい。画像は2021年9月期第1四半期の決算説明会資料より

モバイルオーダーの効果としては飲食店の業務効率化やコスト削減もわかりやすい。

実際に武田氏が訪れた店舗では接客をほぼほぼ排除するような形で、1人で運営しているようなところもあった。フロアにはスタッフがおらず、スマホ経由で受けた注文を店員が作って奥から持ってくる──。そのようなイメージだ。

「それが必ずしも良いかどうかは別として、(モバイルオーダーを活用すれば)やろうと思えばできなくはない。飲食店にとって負荷の高かった人件費を抑え、事業の構造を変えられる可能性があると感じました」(武田氏)

直近はコロナ対策が緊急の課題となっているが、多くの飲食店にとって一番の負担となってきたのは“人材”に関わる問題だ。人がやめる度に新しいスタッフを採用する。人手不足が進む中では採用へのコストも不安も大きい。

仮に新しい人が取れなくても「ツールを活用することでコストを抑えながら店舗を運営できる仕組みを作れれば、飲食店にも大きな価値があると考えています」と武田氏は話す。

店内におけるモバイルオーダーについては国内でもすでに複数社がサービスを展開しているが、日本ではまだまだ一部の飲食店にしか広がっていない状況だ。

実際、武田氏たちが飲食店にヒアリングを進めていても、コロナ前後で反応が大きく変わったそう。非接触や業務効率化のニーズが高まる中で、今後どこまでマーケット自体を広げていけるかが勝負になるという。

今後の展望。Rettyとの連携も見据える

「約4000万人のユーザーがいて、ある程度飲食店の方々にも知ってもらえている『Retty』という基盤がある状態でやれるのは大きいと思っています。(無料有料合わせると)店舗会員も約4万店舗あり、最初からリーチできる飲食店の数も多い。そのネットワークを活用しながら面を広げつつ、プロダクトの使い勝手も継続してアップデートする計画です」(武田氏)

まずは業務効率化やコスト削減を目的とした利用を見込むが、中長期的にはRettyとの連携なども含めて飲食店のデータ活用やマーケティングを支援する機能の実装なども検討していくという。