
未だ終わりの見えない米中貿易戦争の中で窮地に立たされているHuawei(以下、ファーウェイ)、2020年は新型コロナウイルスの感染拡大というダブルパンチを食らったものの、地元・中国市場に支えられなんとか成長を遂げた。3月31日に中国本社で開催された、ファーウェイのアニュアルレポート発表会と日本での代表取締役の会見をレポートする。
中国市場が牽引し増収増益、スマホは大きな打撃
3月31日、ファーウェイは本社で2020年の業績報告を行なった。ファーウェイは公開企業ではないため開示の義務はないが、以前から毎年この時期に自主的に業績を開示している。今年も監査はKPMGが行っている。
2020年の売上高は前年比3.8%増の8914億人民元(約15兆175億円)、純利益は同3.2%増の646億人民元(約1兆883億円)。営業キャッシュフローは前年比61.5%減の352億人民元(約5930万円)となった。輪番会長の胡厚崑(ケン・フー)氏は、業績を「想定通りだった」として、キャッシュフローの減少については「研究開発への投資を増やしたこと、資材の備蓄のための支払いを行ったこと」を理由に挙げた。

ファーウェイは基地局などICTインフラ機器のキャリア事業、スマートフォンなどのコンシューマー事業、サーバーやクラウドなど法人向けのエンタープライズ事業と3つの事業の柱を持つ。2020年はキャリア事業は0.2%増、コンシューマー事業は3.3%増、エンタープライズ事業は23%増とすべて増加した。
第5世代(5G)移動通信システムに関して、日本をはじめ多くの国から締め出しを食らったキャリア事業、半導体の供給をストップされたコンシューマー事業は苦しい状況にある。中でも、コンシューマー事業については、「これまで高い成長を遂げてきたが、仕入れなどの問題があり売り上げは減った」と認める。

「2020年は米国からの不公正な制裁を受けていたが故に、スマートフォン事業は悪影響を受けた。それは事実として申し上げる」(胡氏)
同時に、この分野では”1+8+N”として「シームレスAIライフ」のビジョンを掲げてきたファーウェイ。スマートフォンは入口の「1」にすぎず、ほかの8つの製品群のうち、PCやタブレット、ウェアラブルデバイス、スマートディスプレイなどの売り上げは急成長を遂げたと報告した。

シームレスAIライフビジョンでは、具体的には、独自OS「HarmonyOS」、Google Mobile Services(GMS)に代わるモバイルサービス「Huawei Mobile Services(HMS)」、AIの3つの技術を中核として、「スマートホーム・スマートオフィス・スマートモビリティ・運動と健康・エンターテインメントの5シーンにフォーカスした、シームレスかつ個別化されたユーザー中心の体験」の実現を目指す。
5Gについて、胡氏は「中国では5Gが関連した産業契約は1000件以上ある」と語る。この中には、エネルギー、製造、医療などがあるという。現状について「0から1に来た段階。今後、1からNに一気に広がる」と述べ、「5Gの今後の展望は十分に自信が持てる」と続けた。
地域別に売り上げを見ると、65%以上を占める中国では15.4%アップしたが、残るEMEA(ヨーロッパ、中東・アフリカ)、APAC(アジア太平洋)、アメリカ地区はすべてマイナスとなった。つまり、ファーウェイの2020年の増収増益は中国市場がけん引してこその結果と言える。
日本企業からの調達での支出額は5年で4.7倍に
本国でのイベントに合わせて都内で開催した会見で、ファーウェイ・ジャパンの代表取締役会長 王剣峰(ジェフ・ワン)氏は、ファーウェイの日本経済への貢献をアピールした。
同社が英国の調査・分析会社Oxford Economicsと協力して、GDP、雇用、納税の3分野における貢献額を調べた結果によれば、2019年、GDPへの貢献は1兆1100億円規模、過去6年間の累計では3.4兆円を上回るという。
雇用は2019年は6万6000人規模、過去6年間の累計では20万6600人とのこと。納税額は、2019年は3000億円以上。この金額は「日本全国の教員の給与として確保している予算に相当する」という。過去6年間の累計納税額は9440億円となった。

王氏はまた、ファーウェイにとって日本企業が「グローバルなサプライチェーンを支える重要な供給源になっている」とする。日本企業からの製品・サービスの調達は年々増えており、2014年の2220億円から2019年は4.7倍の1兆600億円となった。

一方で、米政府がファーウェイを、禁輸リストであるEntity Listに載せたことは、日本のパートナー企業にも影響が出ていることも認める。初回にリストに登録された2019年の5月に続き、2020年5月と8月には半導体についても制裁が拡大されており、パートナーであるソニーとキオクシア(旧東芝メモリー)は米国から輸出許可が降りたものの、キオクシアは1月に許可を取り消された。キオクシアが再び許可を得られるかについては、「2021年の不確定要素」と王氏は述べた。
なお、1月に誕生したバイデン政権については、「政策レベルでは変化はない」としながらも、「TikTok、WeChat、Xiaomiなどの中国企業が米国から受ける風当たりは柔らかくなっている」と述べ「今後、米国政府が科学技術の供給網に対して影響を及ぼさないことを願っている」と続けた。

キャリア事業については、5Gでは実質排除となっており「通信事業者との取引に甚大な影響が出ている」と王氏。一方でエンタープライズ事業は好調だという。「通信事業者と比べると、(法人顧客は)よりビジネスメリットを重視する意思決定をしている」と述べた。
総じて、キャリア事業とエンタープライズ事業は合算すると安定しているが、コンシューマー事業は「甚大な影響が出ている」と王氏。それでも、「本社の方針は明確で、どんなに苦しい状態でも可能な限り日本でも存続できるようにした」と述べた。