写真中央:shizai代表取締役の鈴木暢之氏
写真中央:shizai代表取締役の鈴木暢之氏 画像提供:shizai
  • ECの“開封”体験がマーケティング、ブランディングで重視される
  • 包装資材調達業務のDXでコスト・時間の削減を図るshizai
  • 包装資材をきっかけとして倉庫選定などECのバックエンドも支援
  • 3000億〜1兆円規模市場をにらみ日本でサービス展開を図る

巣ごもり消費の増加でショッピングの舞台がリアル店舗からEC、D2Cといった通信販売へとシフトする中、“アガる”買い物体験に欠かせない構成要素のひとつに「パッケージ」がある。注文後、楽しみに待っていた商品がステキなパッケージで届いたら、思わず写真に撮ってSNSにアップしたくなる気持ちにもなるというものだ。

個店のEC進出やD2Cの台頭で、ますます注目されるショップオリジナルのパッケージ。そのオリジナル包装資材の制作・提供を起点にしつつ、その後の資材管理や最適な倉庫の選定など、EC・D2C運営事業者の一連のバックエンド業務をサポートするのが、2020年10月設立のスタートアップ、shizaiだ。

shizaiは4月5日、ANRI、グローバル・ブレインと個人投資家を引受先とした第三者割当増資と日本政策金融公庫からの融資により、総額約1.2億円の資金調達を実施したと発表。また、同日、資材プラットフォーム「shizai」を正式にローンチした。

ECの“開封”体験がマーケティング、ブランディングで重視される

2020年7月に経済産業省が発表した、電子商取引に関する市場調査の結果によれば、国内のBtoC EC市場は年々規模を拡大。2019年時点で19.4兆円となった。そのうち約半分の10兆円強を実際の物が流通する物販分野が占める。

日本のBtoC-EC市場規模の推移
日本のBtoC-EC市場規模の推移(単位:億円) 経済産業省「令和元年度内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業(電子商取引に関する市場調査)」より

2020年以降は、新しい生活様式の浸透で非接触・非対面が求められたことによる巣ごもり消費の増加で、EC市場のさらなる伸びが予測される。

また店舗の側でも、店に足を運ばなくなってしまった顧客の心を再び捉えるべく、ECショップを始めたり、展開を強化したりといった動きが活発化。「Shopify」「STORES」「BASE」といったクラウド型のECプラットフォームがこうした動きを支え、従来のECモール出店に限らない、個店のEC進出、D2Cの台頭も進んでいる。

これらを背景に、今までのAmazonや楽天のようなサイトでは得にくかった、それぞれのショップにしかない買い物体験がユーザーによってSNSでシェアされ、それがまたショップのブランディングにつながって、さらなる顧客を呼び込むという流れも加速している。

先述した経産省の調査報告でも、米国で先行するD2Cの成功事例の概観として「SNSで集客した消費者に対して自社ECサイトのブランディングやサブスクリプション形式の販売手法などによって強いリレーションを構築」、「その上で、SNSを通じブランドがさらに周知され集客力の向上につながる循環を生み出している」と記されている。

shizai代表取締役の鈴木暢之氏は「ECでは顧客との最初の接点がパッケージになる」として、物理的な配送を伴うECでの“アンボクシング体験”の重要性を強調する。

「Amazonや楽天などのような共通の箱による配送ではなく、パッケージを商品の一部として各社が戦略を立てるようになっています。ユーザーのパッケージ体験はSNSを通じたバイラルに乗りやすい。米国や中国のEC・D2C企業ではパッケージは『顧客が自社製品を拡散する起爆剤』として認知されています。また、包装資材に込めるメッセージをどうするかといった課題が、マーケティングとして科学され始めています」(鈴木氏)

ブランディング観点では、サステナビリティーに対する事業者の取り組みも、顧客に重視されるようになっている。鈴木氏は「D2Cブランドの顧客はエコ、SDGs(持続可能な開発目標)についても感度が高い人が多い。プラスチックゼロや大豆インクでの印刷などが明示されることが、ショップのブランディングにもつながっています」と語る。

shizaiでサステナブルアクションを
画像提供:shizai

包装資材調達業務のDXでコスト・時間の削減を図るshizai

さて、箱や容器を汎用品でなくオリジナルで制作して確保するとなると、事業者にとって気になるのがコストだ。

日本では商社やOEM業者など、中間業者が製品パッケージや梱包資材の調達フローに入り、印刷や加工などの工程を経るごとにマージンがかかることが多かった。shizaiでは、資材製造メーカーや印刷会社など、全国数百の一次製造工場を直接ネットワーク化することで、平均約20%のコスト削減を実現する。

同条件で平均20%のコストダウンを実現
画像提供:shizai

また、「訪問営業や電話・FAXによるやり取りなど、レガシーでアナログな商習慣が資材領域には残っている」と鈴木氏は指摘。そうした背景を踏まえ、shizaiでは包装資材ビジネスのDX(デジタルトランスフォーメーション)も図ることで、電話やメールやり取りなどの業務コストも削減したい考えだ。

同時に、従来は形状や仕様、デザイン策定から発注まで、数カ月かかることもあったパッケージ制作の工程を、ソフトウェアの標準化により、最短で60秒ほどで見積もりから発注まで完結できるようにした。shizaiでは、テクノロジー活用により、資材コストも速度も改善するDXプラットフォームを目指していくという。

段ボール箱や化粧箱、アルミパウチ袋などが最短60秒で発注できる
段ボール箱や化粧箱、アルミパウチ袋などが最短60秒で発注できる 画像提供:shizai

包装資材をきっかけとして倉庫選定などECのバックエンドも支援

D2C事業者に向けて、オリジナルパッケージの印刷・販売を行うサービスとしては、2018年創業のreが提供する「canal(カナル)」などが既にある。

鈴木氏は「確かに、印刷会社をネットワーク化してオリジナルパッケージをD2C企業へ提供するという点では既存のプレイヤーと似た事業です」と断った上で、競合との違いについて、次のように説明する。

「我々はパッケージ資材の購買だけでなく、デザイン提案から資材管理、各事業者の梱包オペレーションに最適な倉庫の選定など、バックエンドまで最適化しようとしている点において既存のプレイヤーとは異なります。パッケージデザインにおいても、印刷だけでなく、組み立てやすく梱包しやすいデザインまで踏み込んで提案し、顧客の業務の全体最適化を支援することが可能です。また、我々はD2C事業者だけではなく、古くからEC事業を展開する中規模の事業者もターゲットにしています」(鈴木氏)

資材を起点にEC/D2Cバックエンドを最適化
画像提供:shizai

現在、ECのバックエンド業務支援は一部、手作業で行われているとのことだが、長期的にはソフトウェア化を図るという。倉庫プレイヤーとは現在10〜15社ほどと連携しているそうだ。

「顧客が『倉庫を欲しい』と思うタイミングはさまざまです。規模が大きくなった、冷凍品を扱うようになったなど、成長がトリガーとなることもあれば、商材がトリガーになることもある。そのためにいろいろな種類の倉庫とネットワークを結んでいます。資材の最適化など、複合的にやろうとすると、どうしてもロジスティックス方面も手がけることになります」(鈴木氏)

では、ロジスティックスをベースにしたシステムからスタートしなかったのはなぜなのか。そう尋ねると鈴木氏は次のように答える。

「物流の効率化では、2016〜17年ごろからプラットフォーマーが現れ、サービスを磨いてきました。我々はそうした企業とも連携しています。一方でオリジナル包装資材の領域についてはプレイヤーも少なく、困っている人が多かった。だから、そちらから課題を解消しようと考えました」(鈴木氏)

3000億〜1兆円規模市場をにらみ日本でサービス展開を図る

shizaiでは10月末からクローズドでサービスを提供。プロダクトの正式リリース前だがスタートアップを中心に問い合わせは多く、中には1000万円を超えるような引き合いもあったそうだ。

shizaiを利用する企業は、ギフトEC「TANP」を提供するGraciaや、オーダーメイドウェディング・オンライン結婚式サービスのCRAZY、おもちゃのサブスクサービス「トイサブ!」を提供するトラーナなど。贈答や特別なイベントなど、ユーザー体験が商品価値に直結するブランド、サービスや、おもちゃ、花、アートなど、送られてきたときのワクワク感がその後の利用継続につながるサービスなどがやはり多いようだ。

包装資材マーケットの魅力について鈴木氏は「市場は大きいがアナログな部分が多く、ソフトウェアを少し適用するだけでも大きく変わる点」と話す。また、自身が電通の出身でクリエイティブも含めたクライアントへの提案に関わった経験があり、なじみのある分野だったことも、この領域にフォーカスした理由として挙げている。

「(野村総研の調査では)BtoC ECの国内市場規模は2025年、27.8兆円が見込まれています。そのうち物販の比率が50%、売上に対する資材の原価比率が2〜5%と想定すると、3000億から1兆円の市場があると考えられます。グローバルでも包装資材を起点とした、ECのバックエンドサービスがここ2〜3年で出てきたところ。米国のLumiや欧州のPackhelp、インドのBIZONGO、中国の小象智合などのプラットフォームが台頭してきています。我々は彼らと同様のサービスを提供する日本のプレイヤーとして、資材を起点としたECバックエンドサービスを展開していきます」(鈴木氏)