
- 素晴らしい物語はジャンルや言語の壁を越える
- クリエイターが実現したい作品の世界観や自由な発想を尊重
- 5年前とは比較にならないほど韓国コンテンツのファンが増加
- 最も大切なのは韓国のメンバーのニーズを満たすこと
2020年、日本で社会現象を巻き起こした韓国ドラマ。その年に話題となった新語・流行語を決定する年末恒例の企画「2020ユーキャン新語・流行語大賞」のトップ10に選出された『愛の不時着』を筆頭に、『梨泰院クラス』や『サイコだけど大丈夫』、『青春の記録』など、Netflixで独占配信された韓国ドラマは軒並みヒットを記録した。
そうした流れを受け、Netflixは韓国コンテンツへの投資に本腰を入れている。同社は2021年2月に開催したオンラインイベント「See What’s Next Korea 2021」にて、2021年は韓国の映画・テレビシリーズ作品に5億ドル(約520億円)投資することを発表している。
Netflixが韓国でサービスをスタートさせたのは2016年。その後、2020年までの4年間で累計約740億円を投資し、約80本の作品を全世界に配信してきた。
過去4年間で投じてきた資金の約8割を1年間の製作費として確保する──この事実から、いかにNetflixが韓国コンテンツに注力しているか、がわかる。
昨年、アカデミー賞で4部門を受賞した映画『パラサイト 半地下の家族』に続き、今年は『ミナリ』が作品賞、監督賞などアカデミー賞6部門にノミネートされるなど、世界中で旋風を巻き起こしている韓国発のコンテンツ。なぜ、ここまでヒットしているのか。
韓国のオリジナル作品のラインナップをつくり上げた、Netflix コンテンツ部門 バイス・プレジデントのキム・ミニョン氏に話を聞いた。
素晴らしい物語はジャンルや言語の壁を越える
──韓国発の作品が世界的にヒットしている要因はどこにあると思いますか。
韓国は日本同様、独自のコンテンツを生み出す世界屈指のストーリーテリング大国です。とりわけ韓国のクリエイターは、過去数十年にわたってアジア地域の韓流ブームを先導する中で培った確固たる制作能力を備え、これを土台に、クオリティおよびストーリー性の高い物語を継続的に配信できているのは大きな強みです。
また、Netflixによって「Kコンテンツ(韓国発の作品)」が全世界に同時配信され、全世界190カ国のメンバーのみなさんに一斉に楽しんでもらえているのも要因のひとつでしょう。
全世界に同時配信されることで、多くの人に愛される作品群としての影響力をさらに拡大でき、それによってKコンテンツは新たな段階を迎えていると実感します。特に、Netflixは韓国コンテンツを全世界に広めるために、最大31言語の字幕および最大20言語の吹替を行い、効果的に韓国発のオリジナル作品お届けできることにこだわっています。
──最近、韓国発の作品はラブロマンス以外のカテゴリーの作品も充実してきたように思います。改めて韓国発の作品の“魅力“とは何か教えていただけないでしょうか。
Netflixは作品ジャンルや取り扱う原作のバラエティを豊かにすることで、作品群の多様性を追求しています。さらには、韓国にとどまらず世界中の人たちが共感できる感情や感覚にも注目しています。原作はローカル発のものだったとしても、映像コンテンツを通じて抱く視聴者の感情は世界共通です。
例えば、李氏朝鮮という時代背景と、ゾンビとの組み合わせが新鮮なドラマ『キングダム』が良い例でしょう。同ドラマで描いている李氏朝鮮の時代背景は多少なじみが薄いものであっても、権力に対する人間の強欲は世界中の人が十分に共感できる要素です。
こうしたことから、素晴らしい物語はジャンルや言語の壁を越え、皆さまに楽しんでいただけるということを改めて実感させられるものです。

Netflixでしか観ることのできない作品を届けることを突き詰め、韓国国内の映像業界と細やかな協力関係を持つ。それにより、フォーマットやジャンルなどの制約にとらわれず、新しいコンテンツを生み出ていくことには今後も挑戦し続けていきます。
『キングダム』のほかにも、犯罪の道を選んでしまった高校生を通じて犯罪への問題意識を提起した『人間レッスン』や怪物をテーマにしたスリラードラマ『Sweet Home -俺と世界の絶望-』、宇宙をテーマにしたSF映画『スペース・スウィーパーズ』などをNetflixの韓国発のオリジナル作品として配信しました。ラブロマンスのジャンルを超えて、今後も個性豊かなさまざまなコンテンツを配信していきたいと思います。
クリエイターが実現したい作品の世界観や自由な発想を尊重
──韓国のクリエイターたちの特徴についても教えてください。
韓国のクリエイターは、基本的に一流のストーリーテラーとしての優れたクリエイティブ能力を備えており、感情を繊細に描くことに長けている豊かな感受性を持っています。彼らが表現する人物の細やかな感情はジャンルを問わず、Kコンテンツに共感を持ちやすい理由だと思います。例えば、ひとつの事件を中心にストーリーを展開する単純な仕掛けではなく、それぞれの登場人物の内面を深く理解できるような脚本にする。それによって、世界中の人々の心を動かすことができるのだと思います。

実際、Netflixが韓国の映画業界のクリエイターと一緒に制作する映画として注目されている『Carter(英題)』のチョン・ビョンギル監督は「『Carter』で表現する斬新なアクションは、世界中の人々にも十分に共感してもらえるだろう」と話しており、『Hellbound(英題)』に出演した俳優のヤン・イクジュンも「『Hellbound』は韓国独特の素材とストーリーの集大成となる作品だが、どの国でも受け入れられる普遍的なストーリーである」と、世界中の人々の心を繋ぐ韓国のストーリーテリングの底力を強調しています。
──従来のテレビドラマではなく、Netflixの製作環境だからこそできる表現などはあるのでしょうか? Netflixが韓国のクリエイターたちにどう貢献しているのかも教えてください。
Netflixは「クリエイターのビジョンが実現されることで作品の完成度を押し上げる」という信念があります。このためクリエイターが実現したい作品の世界観や自由な発想を尊重し、クリエイティブの意図を最大限に実現できる制作環境をつくる支援を行っています。
こうした考え方によって、従来の成功の図式とは異なる、これまで簡単に見ることができなかった、ひと味違うジャンルやフォーマットのコンテンツに今後も注力していきます。例えば、『キングダム』の原作者であるキム・ウニは次のように述べています。
「高い制作費がかかる李氏朝鮮を背景にした時代劇に、ゾンビが登場するというジャンル的な特徴から考えて、Netflixの全面的な支援がなかったら『キングダム』の誕生は不可能だったでしょう」
このように、Netflixはクリエイターがクリエイティブの意図を実現できるような制作環境づくりに留まらず、制作スタジオや、アニメーション、ダビング、字幕、特殊効果、シナリオなどにおいても、韓国のコンテンツ業界と継続的な協力関係を構築しています。
こうした業界との綿密な関係があることで、スタジオは安定した作品のパイプラインを構築でき、プラスの経済効果をもたらすことができます。
また、吹き替えスタジオ「IYUNO」は、2015年にNetflixとパートナーシップを締結してから2019年までの5年間で、毎年50%以上の成長を記録。世界各地に37のオフィスと24のスタジオを運営するグローバル企業へと成長しています。
さらに、Netflixの投資が他社と差別化できる点として、作品づくりの全プロセスに関わるインフラを構築し、制作業界のための好循環をつくり上げていることが挙げられるでしょう。
Netflixはストーリーの発掘からコンテンツの制作、ローカライズに至るすべての段階で、韓国の映像業界との持続的な協力関係をもつことを大切にしています。また、韓国の次世代のクリエイターのために定期的にセミナーやワークショップを開催しているだけではなく、制作に特化したスタッフに対して専門家をはじめとする、さまざまなパートナーとの技術的交流を通して、才能の交流を促しています。
今年最初のニュースとして発表した新たなプロダクションスタジオの賃借(編集部注:Netflixは今年1月、韓国ソウル近郊に位置する京畿道(キョンギド)の坡州(パジュ)市と漣川(ヨンチョン)郡に2つのプロダクション施設を設立することを発表している)を皮切りに、今年も韓国の映像業界と連携してより多くの活動ができることを期待しています。
5年前とは比較にならないほど韓国コンテンツのファンが増加
──先日、Netflixは韓国発の作品におよそ5億ドルを投資すると発表しました。Netflix内での韓国発の作品の位置付けも変わってきていますか。
Netflixが韓国に進出した5年前とは比較にならないほど、国や言語、文化の壁を越えて韓国コンテンツのファンが増えています。日本でも『愛の不時着』をはじめ、『梨泰院クラス』などさまざまな韓国コンテンツが広く愛されていることをとても嬉しく思います。
今年2月に配信した『スペース・スウィーパーズ』は、公開直後に韓国国内で「TOP10(映画)」1位を記録する快挙を遂げました。さらに、昨年の第4四半期の業績発表において、異例にも世界の全2200万世帯が『Sweet Home -俺と世界の絶望-』を視聴したという点に言及したほど、Netflixは韓国制作業界の底力とKコンテンツに注目しています。

Kコンテンツは、一時的な流行や現象を超えて世界規模で多くの人に愛されるジャンルのひとつとして定着していることを実感します。韓国だけではなく、アジア全体の成長を牽引する重要な作品ジャンルであることは間違いありません。
とりわけ、エンターテインメントを日ごろから楽しむための出費を惜しまない韓国から発信される豊かなコンテンツを、Netflixを通じて世界190カ国の皆さまに楽しんでもらえるという点では、こうしたジャンルに対してさらに投資を拡大していく予定です。
そうした背景もあり、今まで韓国発の作品に7700億ウォン(約740億円)を投じてきましたが、今年だけでも5500億ウォン(約520億円)の投資を行うことで、韓国の制作業界とともに成長を図っていけることをとても嬉しく思います。韓国のクリエイターと協力し、見どころ満載の新しいコンテンツを提供するのはもちろんのこと、新たな韓流の舞台を広げることにおいてもNetflixが貢献できれば、と思っております。
──オリジナル作品とライセンス作品の割合について、どのように考えていますか。
Netflixの競争力は「コンテンツ」です。特段、オリジナル作品とライセンス作品を一定の割合で維持するのではなく、エンターテイメントを愛する世界中のファンに楽しみを提供することを軸に作品ラインナップを編成的に考えています。そのため、韓国と日本をはじめとする多くの国々で現地の制作業界との協力を強化し、優れたストーリーを継続的に発掘していくことで、新たな作品を提供できるよう、引き続き努力していきます。
最も大切なのは韓国のメンバーのニーズを満たすこと
──今後はドラマだけでなく、長編映画の制作にも注力していくとのことですが、その狙いはなんでしょうか。
2020年は韓国の映画業界が成し遂げた成果が特に輝いた年でした。ポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』がアカデミー作品賞を含む4冠を達成し、またNetflixを通して海外映画ファンのみなさんに向けて配信した映画『#生きている』が世界中で爆発的な反響を呼びました。そのほか、『狩りの時間』や『ザ・コール』などの映画もNetflixのオリジナルとして190カ国以上で同時配信されました。
こうした作品によって、字幕という「1インチの壁」を越えて、いつでもどこでも視聴してもらえることを再確認できました。
今年もNetflixと韓国映画関係者がオリジナルで製作する映画『Carter(英題)』や『Moral Sense(英題)』を通して、韓国映画の力を広く周知する努力を継続したいと考えています。映画ファンには韓国映画をいつでもどこでも楽しむことができるサービスを提供し、クリエイターには、さまざまな言語や文化圏のファンに自らの作品を届けられる仕組みをつくっていきたいと思います。
──最後に長編映画の制作以外の戦略についても教えてください。
最も大切なのは、結局メンバーに楽しんでもらうということを最優先にすることです。とりわけ、韓国のメンバーのニーズを満たすことに力を入れています。
Netflixは世界190カ国にコンテンツを同時配信しているため、海外のメンバーのためのサービスという見方をされることがしばしばありますが、長編映画やシリーズ、ドキュメンタリー、スタンドアップ・コメディなどの幅広いジャンルをひとまとまりに視聴できることもNetflixの強みです。韓国のファンが共感できるNetflix韓国オリジナル作品であってこそ、アジア、ひいては全世界のファンも楽しんでいただけると思います。