決裁者マッチング支援SaaS「ONLY STORY」を運営するオンリーストーリーのメンバー。左から2人目が代表取締役の平野哲也氏
決裁者マッチング支援SaaS「ONLY STORY」を運営するオンリーストーリーのメンバー。左から2人目が代表取締役の平野哲也氏 すべての画像提供 : オンリーストーリー
  • 気になる企業の“キーマン”と直接マッチング
  • 「オンライン×決裁者のリード獲得」のポジションで拡大へ
  • 決裁者コミュニティを軸に営業以外の領域も見据える

この1年で営業のオンライン化が急速に進んでいる。

背景としては新型コロナウイルスの影響が大きい。従来見込み客との接点を作る上で重要な役割を担ってきた「展示会」や「経営者同士の交流会」といった“オフラインの場”を設けることが格段に難しくなった。リモートワークが広がる中で「テレアポ」をしてもオフィスに誰もいないので繋がらない、そのようなケースも増えている。

こうした背景から現場では営業・商談のオンライン化が急務となっており、そのニーズに応えられる“セールステック”サービスへの注目度が高まってきた。

2014年創業のオンリーストーリーが手掛ける決裁者マッチング支援SaaS「ONLY STORY」もその1つだ。オンライン上で気になる企業の決裁者に直接アプローチできる仕組みを作ることで、ユーザーの新規顧客の開拓をサポートしている。

今後オンリーストーリーでは組織体制を拡充し、プロダクトの機能強化とさらなる事業拡大を目指していく計画。それに向けて日本郵政キャピタル、Das Capital 、大和企業投資、ユーザべース、博報堂DYベンチャーズ、ユナイテッドを引受先とした第三者割当増資により総額約13億円を調達した。

気になる企業の“キーマン”と直接マッチング

ONLY STORYは3000社以上の企業の決済者が登録するコミュニティだ
ONLY STORYは3000社以上の企業の決済者が登録するコミュニティだ

ONLY STORYのキモとなっているのが「KBM(Key person Based Marketing)」という概念だ。

従来BtoB企業の営業においては「決裁者にたどり着けないこと」が1つの課題となっていた。メールやテレアポといったアウトバウンド型の営業手法の多くはABM(Account Based Marketing)と言われるように“企業単位”でアプローチするタイプのもの。そのため狙った企業までは届いても、肝心の決裁者に届かないことがあった。

これに対して、ONLY STORYでは創業から数年間の時間をかけて「企業の決裁者に特化したコミュニティ」を構築。そのデータベースを活用することで、気になる企業のキーマンと直接繋がれる仕組みを作った点がポイントだ。

KBMという概念がキモになる

現在同サービスには3000社を超える企業の決裁者(だいたい4分の3が社長なのだそう)が登録されている。ユーザーは自社の決裁者情報を登録するほか、データベースの中から業種や商材、創立年数、従業員数、所在地、決裁者の年齢などを軸に気になる企業を検索することが可能だ。

ここまでは無料会員でもできるが、ONLY STORY上で決裁者に対してメッセージを送るには有料会員登録が必要となる。有料会員の利用料金はミニマム月額20万円からで、このサブスク売上がオンリーストーリーの収益源になっている。

「オンライン×決裁者のリード獲得」のポジションで拡大へ

2020年6月にXTech Venturesやエン・ジャパンなどから約3億4500万円の資金調達を実施して以降はモバイルアプリの開発のほか、1対Nのコミュニケーションができる掲示板機能の実装など、使い勝手の向上に向けてプロダクトの改善を進めてきた。

アプリのイメージ

オンリーストーリー代表取締役の平野哲也氏によると顧客からは決裁者と商談できるため受注率が高い点や、相見積もりにもなりにくい点が特に評価されているそう。広告支援事業を手掛けるある顧客は15カ月の間に約170件の商談を実施し、20件近くの契約を獲得するなど成功事例も増えてきた。

冒頭で触れた通り、コロナの影響で展示会や経営者同士の飲み会といったオフラインの営業が難しくなっている。オンリーストーリーが狙うのはそれらをオンライン化した「オンライン×決裁者のリード獲得」のポジションだ。

オンリーストーリーが狙うのは「オンライン×決裁者のリード獲得」のポジション

オンライン営業システムの「ベルフェイス」やクラウドIP電話「MiiTel」を筆頭に“アポイントを獲得した後”をサポートするサービスが充実してきている一方、「アポを取る段階にフォーカスしたサービスはまだあまりない」というのが平野氏の見解。この領域はまだまだ変革の余地が大きい。

またマッチング後の商談のオンライン化が進んだこともオンリーストーリーには追い風だ。従来はオフラインでの商談を望む企業が多く主に1都3県で展開してきたが、エリアの制約がなくなることでサービスの対象が全国規模に広がり、事業が加速しているという。

決裁者コミュニティを軸に営業以外の領域も見据える

平野氏はONLY STORYの特性をSaaSという側面にコミュニティの要素が加わった「コミュニティSaaS」と説明する。

個人向けのSNSなどと同様、コミュニティという側面があるからこそユーザーが増えるほどマッチング候補先が増え、ユーザーの選択肢も広がる。その反面、一定の規模に達するまではサービス上でできることが限定されてしまう。

オンリーストーリーでは創業から6年以上に渡ってエクイティ調達を実施せず、時間をかけながら地道にコミュニティを作り続けてきた。このコミュニティこそが同社にとっての強みであり、他社に対する参入障壁にもなると平野氏は話す。

今後は営業以外の領域においても決裁者コミュニティを活かしたマッチングのサポートを行っていく計画
今後は営業以外の領域においても決裁者コミュニティを活かしたマッチングのサポートを行っていく計画

今回調達した資金は主に人材採用とマーケティングへの投資に使っていく方針だ。まずは登録ユーザー数増加を目指すとともに、プロダクトの機能拡張やカスタマーサクセス体制の強化に取り組む。

また中長期的には決裁者コミュニティを軸に営業以外のシーンにおいてのマッチング支援も見据えている。たとえばM&Aや投資先、提携先を探す際など経営課題全般の領域にも展開していく計画だという。