
行政のデジタル化に関連した仕事に興味がある──このような考えを持っている民間人材の割合は想像以上に多い。転職サイトを運営するビズリーチが実施した調査によれば、自らを「デジタル人材」と捉える民間人材の約8割が「行政のデジタル化に関連した仕事に興味がある」と回答。さらに、そのうちの約3割が雇用形態として「副業・兼業」を希望するといった結果も出ている。
実際、行政のDXを推進する新たな行政機関として、2021年9月に発足を予定している「デジタル庁」の人材募集には申し込みが殺到。約30人の採用枠に対し、1432人が応募するなど、採用倍率は40倍以上を記録する結果となった。採用されたエンジニアなどにはすでに辞令が交付されている。
そんなデジタル庁に続き、今度は渋谷区が初めて“副業人材”の採用に打って出た。4月26日、渋谷区は同区でのコミュニティマネージャー、スタートアップ招へい施策推進、海外プロモート支援、実証実験の推進といった業務を行う副業人材を11人採用したと明かした。
今回の採用にあたって、渋谷区はキャリアSNS「YOUTRUST」を運営するYOUTRUSTと連携。話題の企業・組織の重要ポストに限定した副業の募集企画である「すごい副業」を通じて人材の募集を行ったところ、国内外から約700人の応募が集まり、その中から11人の採用が決まった。
具体的にはA.T. Kearneyで経営コンサルティングに従事した人物や東急で社内の教育制度設計や働き方改革に従事した人物、ヤフーで広告領域のプロダクト組織戦略責任者を担当している人物などが採用されたという。
渋谷区に良い刺激を与えてほしい
採用を推進した、渋谷区グローバル拠点都市推進室長の田坂克郎氏は「こんなにも渋谷区に興味を持ってくれている人がいるとは思いませんでした」と感想を口にする。
国際的でスタートアップフレンドリーな都市へ──そんな考えのもと、渋谷区が“スタートアップ支援事業”に取り組み始めたのは2020年1月のこと。
田坂氏は同事業をけん引する人材として、2020年に渋谷区役所に入所した人物。在サンフランシスコ領事館で政務班コミュニティ担当職を務め、シリコンバレーの文化を経験した。その後、ベンチャーの役員、副社長職を経て現職に就いた。

スタートアップ支援事業は渋谷区内でスタートアップ・エコシステムの構築や国際化に向けた取り組みを行うというもの。
これまでにスタートアップ企業や大学、研究機関などから技術やアイデアを募集するプロジェクト「Innovation for New Normal from Shibuya」やスタートアップコンソーシアム「Shibuya Startup Deck」を立ち上げている。
同事業は田坂氏が専任スタッフとして従事し、他部署や外部の人間の協力を得る形の“実質1人体制”でスタートを切った。そうした中、立ち上げから1年ほど経ったタイミングで業務量が増えたことに加え、渋谷区では来年度(2021年4月~)から予算を付け、人材の拡充を予定していたこともあり、採用を検討し始めた。
「当時、スタートアップ支援事業を手伝ってもらっていた人からYOUTRUSTのことを紹介してもらったんです。それでYOUTRUSTを調べてみたところ、掲げているビジョンやミッションに共感し、“すごい副業”の企画が進んでいきました」
「自分も民間企業に勤めていたところから渋谷区役所に入所したので、区役所で働いた経験はありません。入所当時はすごくギャップを感じました。当然ですが、スタートアップという言葉を知らない人の方が圧倒的に多いでですし、そもそもスタートアップとは何かを説明しなければいけません。民間企業との連携の進め方に関しても自分は何となく分かりますけど、区役所の人たちが必ずしも分かるわけではない。それを踏まえたときに、その感覚を理解してくれている人たちに手伝ってもらったり、壁打ちしてもらったりすることで、いろんなことに取り組みやすくなると思ったんです(田坂氏)
2021年2月に人材の募集を開始したところ、1カ月間で700人が応募。採用を進めていくにあたって、田坂氏は「自分以外の何かに思いがあるかどうか」を意識したという。
「例えば、『渋谷で生まれ育ったので渋谷に何か還元したい』という渋谷への強い思いを持っている人だったり、『日本をスタートアップの国にしたい」というスタートアップへの強い思いを持っている人だったり。自分のキャリアのためではなく、自分以外の何かにやりがいを感じている人を採用させていただきました」(田坂氏)
今後、採用された人たちは「スタートアップ支援事業のコミュニティーマネジャー」「スタートアップ招へい担当with海外アクセラレーター」「海外への日本発スタートアップ プロモート担当」「スタートアップ実証実験推進担当」といった業務を行う予定だという。原則、出勤の必要はなく勤務時間や謝礼、契約形態は個別で決められている。
「新しいことをスピーディーに取り組んでいくには、外から新しい血を取り入れていった方がいい。今回、採用させていただいた人たちと新しいアイデアをつくっていくのが楽しみですし、渋谷区に良い刺激を与えてくれれば、と思います」(田坂氏)