
- 「切らない美容室」が疲れを癒やす
- 米国で大流行中の“シャンプー&ブロー”文化
- サブスクで「通うハードル」が一気に下がる
- 男性も使えるリラクゼーション
サブスクリプションモデル(月額定額制)のシャンプー&ブロー専門店「Jetset」が話題だ。2014年1月に1号店となる広尾店(麻布十番に移転済み)をオープンして以来、銀座や表参道にも展開し、12月12日には4号店となる六本木ヒルズ店を開店した。日本ではまだなじみのない業態だが、米国ではすでに1ブランドで130店舗も展開するほど浸透している。都会の生活に根付いた新しい美容室の在り方とは。(ダイヤモンド編集部 塙 花梨)
美容室は、髪を切りに行く場所――その常識は変わりつつある。
麻布十番、表参道、銀座、六本木と東京都内に4店舗を構える美容室「Jetset」のメニューには、美容室ならば必ずあるカットやカラー、パーマなどのプランが存在しない。書いてあるのはシャンプーとブロー、またはヘアアイロンでのスタイリングのみ。「日常のシャンプーとスタイリングをプロの手で」がコンセプトの、日本初“シャンプー&ブロー専門店”なのだ。
「切らない美容室」が疲れを癒やす
5年前に創業して以来、“切らない美容室”として新たな美容室の在り方を広めてきたJetsetは、2019年5月に新業態となるサブスクリプション(月額定額制・1カ月1万6000円~)を導入し、銀座店だけで、現在までに約30人の会員がいる。
運営会社であるジェットセットの創設者でありCEOのジュリア・スポッツウッド氏は、「忙しい女性のライフスタイルを変えることが目標です。サブスクリプションなので、週に3日以上通われるお客様がほとんど」と語る。

客層は、職場が近くにあり仕事終わりに訪れる女性はもちろんのこと、近隣に住む母親たちも多い。「お客様同士も仲が良くて、皆さん、家事の合間や仕事終わりにリラックスしに来られます」とスポッツウッド氏。忙しい女性の疲れを癒やすため、シャンパンやローズヒップティーなどのワンドリンクと、マッサージのサービス付きだ。
2019年4月には、電通、B Dash Venturesが運営するファンド他を引き受け先とする、総額約3.2億円の第三者割当増資を実施した。調達した資金を活用し12月12日、新店舗である六本木ヒルズ店を開店。他の3店舗にはない、ショップインショップ(ショッピングセンターの中にある店舗のこと)の形態を取っているのも特徴だ。
「席数が限られていて、会員になっていただいたお客様に何度もリピートして使ってもらいたいので、1店舗あたりの会員数は50人ほどを目標にしています。そのため、シャンプー&ブロー文化を浸透させるため、今後は店舗数の拡大を進めていきたい」(スポッツウッド氏)
料金プランはサブスクリプション型の会員制と、ビジター向けの1回利用の2種類があり、専用のウェブサイトで簡単に予約ができるようになっている。
米国で大流行中の“シャンプー&ブロー”文化
スポッツウッド氏は神奈川県鎌倉市で生まれ、7歳の時に家族とともに米カリフォルニアに移住した。 そのまま米国で育ち大学を卒業し、ニューヨークで数年間働いた後、日本に戻り、PwC Japanにて、事業会社向けの金融コンサルティングに従事していた。

毎日仕事に打ち込み、リラックスする時間が取れない。“シャンプー&ブロー専門店”に出合ったのは、そんな時だった。
「30分ほどで気軽に通える美容室を欲していたら偶然、ニューヨークの友人がシャンプー&ブローの専門店が米国ではやっていると教えてくれたんです。試しに行ってみたら、ものすごく良くて。なぜ日本にはないのか、不思議に思うほどでした」(スポッツウッド氏)
流行の発信地であるニューヨークやロサンゼルスでは、シャンプー&ブロー専門店がいくつもある。中でも「dry bar(ドライバー)」は1ブランドだけで全米130店舗以上展開するほど人気が高い。スポッツウッド氏も「数年前まで全くなかったのに、知らぬ間に文化として定着していて驚いた」と笑う。
そこから「日本にないのなら作ってしまおう」というチャレンジ精神で一念発起し、PwCを退職してJetsetを創業した。
サブスクで「通うハードル」が一気に下がる
「創業当初のお客様は日本に住む外国人ばかりで、日本人がなかなか来てくれませんでした。アメリカでは日常的に美容室に行く文化があるのですが、日本では平均2カ月に1回、髪を切りに行くのが一般的。ブローのためだけに美容室に行くこと自体が、日本女性になじみにくく、シャンプーやブローをしに行く頻度やタイミングがつかめないという客が多かったんです」(スポッツウッド氏)
そこで、2号店となる銀座店からは、もっと気楽に生活の一部として使ってもらえるように、何度利用しても固定料金で済むサブスクリプションモデルを取り入れた。するとPRを全くしていないのに、開店初日で20人もの客が“通い放題”にひかれて来店した。

「当時、サブスクはまだ流行していませんでしたが、シャンプー&ブローの在り方と月額制のビジネスモデルがうまく合致したのだと思います。一度会員になると何度も来店してくれるので、スタッフもどんどんお客様の頭皮や髪の状態に詳しくなることができました」(スポッツウッド氏)
Jetsetのスタッフは全員、ほかの店舗で活躍していた美容師だ。彼らは、「髪を切るだけが美容師じゃない。Jetsetのサービスは、お客様を幸せな気分にさせることができる」と口をそろえる。
男性も使えるリラクゼーション
「忙しい女性のライフスタイルを変える」を目標に掲げるJetsetだが、もちろん女性専用ではない。男性客の割合はまだ少ないものの、徐々に増えてきている。一度生活の中にブローの時間を取り入れてしまえば、男性の方が利用頻度は高くなる傾向があるという。
「男性は女性に比べて、自分のためのリラクゼーションの時間を取ることが少ないと思います。たった20分でシャンプーからマッサージまでできるので、たばこを吸う代わりにここでリラックスできるのではないでしょうか」(スポッツウッド氏)
サブスクリプションモデルで通う障壁を下げ、少しでも忙しい人々がリラックスできる時間を増やす。米国発の文化ではあるが、都会の喧騒にのまれやすい日本人にもフィットするサービスになりそうだ。