屋久島発のクラフトコーラ「屋久島1000年コーラ」 画像提供:Biground
屋久島発のクラフトコーラ「屋久島1000年コーラ」 すべての画像提供:Biground
  • クラフトコーラは島を知ってもらう装置
  • 足元の材料を救い上げて繋ぐ
  • いつかは、屋久島に答え合わせに来てもらいたい

素材や製法にこだわった「クラフト飲料」がブームだ。その流れはビールやコーヒーに続き、コーラにまで波及。ここ数年で“クラフトコーラ”に注目が集まっている。

クラフトコーラとは、コーラの実などのスパイスやハーブ、オレンジやレモンなどの柑橘類を中心につくられた健康志向のコーラ。2018年夏に「伊良コーラ」「ともコーラ」が誕生してから、新規参入も増え、今では100種類以上の銘柄があると言われている。

クラフトコーラが一大ブームの兆しを見せ始めている中、鹿児島県屋久島で新たにクラフトコーラの開発を始めた人物がいる。屋久島で生まれ育ち、屋久島の食材を使った料理店「居酒屋じぃじ家」を経営する日髙武士氏だ。なぜ、屋久島でクラフトコーラを開発することにしたのか。またコーラを通して何を目指しているのか。以下は日髙氏のコラムだ。

クラフトコーラは島を知ってもらう装置

筆者は屋久島で生まれ、屋久島で育った。大人になり、島を離れていくつかの仕事を経験した後、故郷に戻り、いまは飲食店を経営している。屋久島の素材を使った料理や、祖母から教わった味を「島の味」として提供している。

2020年の春、最初の緊急事態宣言が発令されてから、屋久島の観光客もぐっと減少した。「新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着けば、また屋久島に人は戻ってくる。いまは我慢の時だ」──そう考えると同時に、「待っている間にできることもあるのではないか」と思い、島の魅力や島の強さ、そしてそれらをどうすれば伝えられるかについて、考えをめぐらせていた。

その結果として行き着いたのが屋久島ならではのクラフトコーラだった。屋久島でしか作ることのできない、この島ならではのコーラだ。名前を「屋久島1000年コーラ」とした。

筆者なりにクラフトコーラの魅力を挙げると、次の3つに集約される。

まずは唯一無二の「手作り感」。スパイスの調合なども含めて、ここでしか味わえないという特別なものばかりだ。つぎは「健康志向とのマッチ」。一般的なコーラは果糖や香料などが多く使われているが、クラフトコーラはスパイスや天然素材を中心につくっている。コーラはもともと薬として飲まれていたとも言われているが、クラフトコーラはまさに「コーラでありながら安心して飲める」という現代の健康志向とマッチする。

最後は「ローカル性」。水やスパイス、甘味など、その土地ならではの素材を用いたオリジナルのコーラというのは意外とつくりやすく、実は個性を出しやすい飲みものでもある。水がおいしい土地で「地サイダー」がつくられるのと似ているかもしれない。

そして何より、それぞれの個性の違いを知るという楽しさがある。ビール好きがクラフトビールを飲み比べるように、コーラ好きがクラフトコーラを飲み比べるほどに市場が広がればいいと考えている。

屋久島の自然を伝えるには、島を案内するのが一番だ。だが、今は難しい。その「今は難しい」も、いつまで続くのかすらわからない状況だ。だから、筆者らの足元にある屋久島の自然を感じてもらいたくて、島の恵みを1瓶の中に詰めることにした。来てもらえないなら、屋久島の魅力に旅をしてもらえばいい。そう思ったのだ。

足元の材料を救い上げて繋ぐ

「屋久島1000年コーラ」の材料には、長い時を経て生成された屋久島の超軟水をはじめ、屋久島に自生している精油成分とミネラルが豊富な屋久島ウコン、種子島の黒糖と粗糖を使用することにした。可能な限り屋久島産、鹿児島産を選び、この地域のテロワール(土地の個性)を大切した。

繰り返しになるが、屋久島は本当に雨が多い。島の電力はほぼ水力発電で自給しているというほどで、豊富な水は、花こう岩によってろ過された地下水となり、屋久島の森を育てる生命の源となる。

屋久島宮之浦岳流水は「日本名水百選」にも選ばれていて、硬度は約10mg/Lという超軟水(一般的に軟水は硬度60mg/L以下)。特有のまろやかなおいしさはコーラの元となるコーラシロップに丸みを持たせ、優しい口当たりにしてくれる。

屋久島の水。これがコーラを作る1つめの重要な材料となる。商品名の屋久島1000年コーラはまさにこの島の水のように、屋久島の時を感じさせ、長きに渡って愛されるものになってほしいという想いを込めて名付けた。

また屋久島は、古い文献では「薬島(やくしま)」と書かれてていたほど薬草が豊富だ。中でもウコンは薩摩藩の命を受けて、栽培に力を入れていたほどの品質を誇る。

精油由来の抗菌作用があり、抗炎症作用、生活習慣病予防効果などを期待して利用されているため、胃腸薬の原料として今でも貴重な素材だ。この屋久島ウコンが2つ目に重要なコーラの原材料である。

いつかは、屋久島に答え合わせに来てもらいたい

屋久島にまだ来たことがない人には、屋久島の自然を、コーラを通して感じてもらいたい。屋久島が好きな人には、屋久島の景色を思い出してもらいたい。

そして、屋久島出身者はもちろん、鹿児島出身の人たちには、故郷の大地がつくったクラフトドリンクとして味わってもらいたい。

屋久島1000年コーラが「屋久島には、鹿児島には、こんな自然がある」と、誰かに伝えるきっかけになるといい。まだ動き出したばかりだが、筆者は“屋久島を伝える装置”としてのクラフトコーラを磨き、みなさんと一緒に育てていきたいと思っている。そしていつかは、屋久島に答え合わせに来てもらい、島を案内することができたら最高に幸せだ。

日髙武士(ひだか たけし)
屋久島で生まれ、屋久島でBigroundを起業。屋久島の第二の港町・安房(あんぼう)で、屋久島の食材を使った料理店「居酒屋じぃじ家」を経営。祖母から受け継いだ味、この島だからこそ作れる味を提供。また、飲食店以外に、屋久島の魅力を食で伝える事業を展開。屋久島に流れるゆったりと流れる空気のように、時間をかけて、未来に力強く残っていく商品を提供している。