
- 社外との日程調整を簡単に、オンライン会議用のURLも自動発行
- リモートワークの広がりでニーズ拡大、ベータ版は5000人が利用
- グローバルではCalendlyが3億5000万調達で急拡大
「リモートワークの日程調整を簡単に」というコンセプトのもと、2020年11月11日にベータ版の運用をスタートした日程調整カレンダーサービスの「Spir」。このツールが約半年間の試験期間を終えて、5月13日に正式ローンチを迎えた。
煩わしい日程調整の効率化を目指したプロダクトはこれまでもいくつか存在したが、少なくとも日本発で定番と言えるほど普及しているものはない。Spirが狙うのは、日程調整機能を軸としたビジネスカレンダーのスタンダードだ。
この目標に向けてSpirは正式版の提供とともに、One Capitalおよび複数の個人投資家から約2億円の資金調達を実施したことを明かした。
今後はこの資金を使って新機能の開発やスマホ対応などユーザービリティの向上に力を入れていく計画。7月からは新たにチームプランの提供も予定しており、本日より先行トライアルユーザーの受付も始めた。
社外との日程調整を簡単に、オンライン会議用のURLも自動発行
ベータ版ローンチ時にも紹介した通り、Spirは社外との日程調整を簡略化するカレンダーサービスだ。

同サービスでは主催者側がカレンダー画面から手動で複数の日程をピックアップする(日程調整)、もしくは指定した条件に該当する空き日程をカレンダーから自動で抽出する(公開URL機能)形で候補日程を選ぶ。
候補日程が決まれば専用のURLが発行されるので、後は相手に共有するだけ。URLを受け取ったユーザーがカレンダー画面に表示された候補日の中から好きな日程を選んで名前やメールアドレスを入力すれば、日程調整は完了する。日程を選ぶ段階でZoomかGoogle Meetの設定をしておけば、オンライン会議用のURLも自動で発行される。


従来であればカレンダーを確認した上で候補日をメールやメッセンジャーなどに打ち込み、相手と複数回メッセージを往復しながら日程を決めるのが王道だったかもしれないが、そんなストレスとは無縁だ。
GoogleカレンダーやOutlookと連携すれば、Spirのカレンダー上でまとめて複数のカレンダーを表示することも可能。公開URLを使う際には複数アカウントの予定を考慮した上で空き日程を抽出できるため、たとえば本業と副業、もしくは仕事とプライベートで別々のカレンダーを使っている場合などでも使いやすい。
また3人以上で日程調整をするための手段としてアンケート形式の日程投票機能も用意されている。

筆者自身、クローズドベータ版時代からのSpirユーザーだが、最近は自分から候補日を送る場合にはほぼ毎回このサービスを使っている(出先からスマホで急ぎの調整をする場合にはアナログな方法)。
シンプルなサービスではあるが、日程の抽出方法を上述した2つのパターンから選べるのが個人的には使いやすいポイント。以前から日程調整を面倒に感じていていくつかのツールを試してきたが、その多くが「Googleカレンダーの空き日程を自動で抽出するタイプ」であり、それになじめず最終的に断念してしまっていた。
好みや普段のカレンダーの使い方などにもよるが、自分で候補日をピックアップしたい人には合っているサービスと言えるだろう。
リモートワークの広がりでニーズ拡大、ベータ版は5000人が利用
ベータ版は人数を絞ってプロモーションなどもせずに運用してきたが、日程調整ツールという特性上ネットワーク効果が働きやすいこともあり、既存ユーザーが新規ユーザーを呼び込むような形で徐々に拡大。現時点でユーザー数は5000人を超えた。
Spirで代表取締役を務める大山晋輔氏によると、特にコロナ禍でリモートワークが広がったことがニーズの拡大にも大きく影響しているようだ。
「オンライン会議の利点の1つは移動時間を考慮する必要がなくなったことですが、その結果として以前に比べて会議の件数が増えたという人もいます。会議の数が増えた一方で隙間時間が減り、今まで以上に日程調整が面倒になっただけでなく、そもそもオンラインの場合は会議用のURLを発行するという手間が1つ加わる。そのような背景からSpirの引き合いも増えています」(大山氏)
非IT系の企業などでは、カレンダーツールではなく会社のホワイトボードなどで各自のスケジュールを管理しているケースも珍しくなかった。それがリモートワークに移行することでデジタル化された結果、Spirの対象ユーザー自体が増えたそう。まだ数は限られるが、初めてカレンダーツールを使うというユーザーも存在するという。
実際にSpirを試したユーザーからは「1件あたり10〜15分かかっていた日程調整が数分で済むようになった」といった声も届いており、ヘビーユーザー化している人も少なくない。そのような反響も受けて、さらにユーザー基盤を広げるべく今回のタイミングで正式リリースを決断したと大山氏は話す。
正式版もベータ版と同様に無料で使うことが可能。当面はウェイティングリスト形式での運用を予定しており、ユーザー登録をしておけば順番に利用できるようになる。
またベータ版ユーザーからの要望を踏まえ、6月には上位版となる有料のチームプランのトライアルも始める予定だ。

同プランは1ユーザーあたり月額1480円(税込み / トライアル期間は無料)で利用でき、以下の点が個人プランと比べた際の特徴となる。
- OR条件の予約型日程調整(公開URLによる日程調整)が可能
- 他のメンバーによる日程調整が可能
- 予約型日程調整で公開できるURL数が人数×10個に拡大(個人プランでは3つ)
- チームメンバーの複数アカウントのカレンダーを共有可能

グローバルではCalendlyが3億5000万調達で急拡大
グローバルで見ると、カレンダーサービスの領域では今年1月に複数のメディアで3億5000万ドルの大型調達を実施したことが報じられた米Calendlyの成長が特に著しい。
米ニュースサイト・TechCrunchが報じたところによるとすでに毎月約1000万人のユーザーが同サービスを利用している状況。Calendlyの主な収益源はSpirと同じくユーザー向けの月額課金(無料版に加え、月額8ドル〜の有料プランを複数展開)だが、そのサブスクリプション収益は年間約7000万ドル規模に達しているという。
「カレンダーツールがどこまで収益化できるのか」と疑問に感じる人もいるかもしれないが、国内だけでも一定の規模のビジネスにはなるというのが大山氏の見立てだ。
今回のチームプランを10人で使ってもらった場合、月額では約1.5万円で「一般的なSaaSの単価と同じくらいの規模感」(大山氏)にはなる。ベータ版を運用している中でもインサイドセールスや人材採用などを筆頭に、有料で使ってもらえるユースケースはいくつか見えてきているという。
その一方で「1人あたり1万円を払ってもらえるようなサービスにはならない」ため、当初から海外展開も見据えてプロダクト開発を進めてきた(なお大山氏は前職のユーザベース時代にNewsPicks USAのCOOとして米国事業の立ち上げ責任者も務めていた)。

当面は日程調整を軸としたカレンダーサービスとして、関連する機能の開発やモバイル対応などを進めていく方針。Calendlyの場合はさまざまな外部サービスと連携した日程調整以外の工程の自動化や効率化が1つの特徴になっているが、Spirでも外部ツールと連携した利便性の向上も視野に入れている。
「リモートワークの広がりもあって、GoogleカレンダーやOutlookといったカレンダーサービスがようやく日本でも幅広い領域で普及し始めています。かたや日程調整ツールに関しては海外と比べても遅れていて、まだまだ黎明期といえるような状況。まずは『日程調整をデジタル化するという体験を当たり前にできるか』が、自分たちにとって大きなチャレンジだと考えています」
「ただ、中長期的にはカレンダー自体を進化させていきたいんです。かつては手帳や紙などアナログだったカレンダーがGoogleカレンダーなどによってデジタル化されることで、自分以外の同僚と予定を共有できるなど一気に利便性が増しました。Spirではカレンダーを社外の人たちともセキュアに共有できるようにするのと並行して、そこに蓄積されていくログを活用して予定調整以外の領域でも使えるようなサービスを目指していきます」(大山氏)