
200以上の国と地域で展開し、月間3000万人もの月間訪問者数を誇るスニーカーやストリートウェアのマーケットプレイス「StockX」。運営するStockXは米国発のスタートアップだ。2019年に時価総額が1000億円(10億ドル)を超え、ユニコーン企業になった。
日本では昨年6月に正式サービスを開始した。先日は人気ブランド「#FR2」とのコラボレーション商品を発表するなど日本独自の施策も始まり、注目を集め始めている。
DIAMOND SIGNALでは昨年8月にStockXのCMO・ディーナ・バーリ(Deena Bahri)氏とStockX Japan統括のデュイ・ドーン(Duy Doan)氏を取材した。当時はコロナ禍が起因となり、「大々的に日本ローンチを発表するよりも顧客体験の向上に務めたい」と消極的に語っていた2人。
だがStockXは今年4月に約280億円(2億5500万ドル)の資金を調達。時価総額も約4165億円に達している。改めて日本市場における戦略や、AIを使った真贋鑑定、話題のNFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)を取り扱う可能性などについて、ドーン氏に話を聞いた。
──日本ローンチから1年ほどが経ちました。今のところ手応えは。
我々は昨年の6月にコロナ禍の下、日本でローンチしました。緊急事態宣言やロックダウンで外出が困難となり、世界中でECの利用が急速に進むこととなりました。そのため、StockXの流通総額は日本を含む世界中の国々で大きな成長を遂げました。StockX Japanの従業員数も昨年と今を比較すると約1.5倍に増加しています。日本市場にポテンシャルを感じているからこその増員です。
──約1.5倍に増員というと現在のStockX Japanの従業員数は。
それは今詳しくお伝えすることはできないので、申し訳ないです。
──外資系企業はあまり数字を明かさないことが多いですよね。
そうなんですよ。
──この1年でStockXの認知度は日本でどれほど高まりましたか。
この1年でもちろん認知度は高まりましたが、今でもより多くの人にStockXについて知ってもらわなければならない段階だと思っています。ですが、StockXでスニーカーを出品する日本のユーザーは急増し、昨年と今年を比較すると約5倍に増加しました。
その理由は、日本でのみ展開する流通する商品が多く存在するからです。日本限定スニーカーはもちろん、「NEIGHBORHOOD(ネイバーフッド)」や「visvim(ビズビム)」といった日本ブランドの商品は海外での需要が高い。
去年は東京でオリンピックが開催されるはずの年だったので、ナイキが「Jordan 3 Retro SE-T CO JP Fire Red Denim」などを日本限定でリリースしました。それらを含む出品が日本で急増しましたが、約5倍に増加というのは我々の想像をはるかに上回っています。
──StockXの強みは真贋鑑定を提供することで「適正価格で本物」が購入できることだとうたっています。オンラインマーケットプレイスのeBayも昨年10月に真贋鑑定の提供を開始していますよね。
StockXにはグローバルで300名ほどの鑑定士が所属し、日々、真贋鑑定をしています。データがたまればたまるほど、真贋鑑定の精度は高まっていきます。
より多くの企業が真贋鑑定をするのは良い流れです。ですが同時に、偽物もより精巧になっており、本物との見分けのつけ方も日に日に難しくなっています。StockXでは膨大なデータを保有した上で鑑定士をトレーニングしています。新たに真贋鑑定を提供開始した競合はまだ我々の強みに気づいていない状況だと思っています。
──真贋鑑定の精度は99.95%とのことですが残りの0.05%は。
例えばナイキのAir Jordan 1とTravis Scottのコラボレーションモデルは大量生産され、本物に限らずさまざまなバリエーションが展開されていました。このような場合、100%の精度を保つことは難しいのです。
ですが、我々の鑑定士は日々、世界中でこのようなスニーカーの真贋鑑定を行っています。本物・偽物を問わず膨大な量のデータがたまってきます。だからこそStockXが提供する真贋鑑定の精度は高く、競合サービスとはデータ量に大きな差があります。
──日本発の競合サービス「SNKRDUNK(スニーカーダンク)」を日本で展開するSODAは1月にSoftBank Ventures Asiaから出資を受け、「真贋鑑定、商品供給、カスタマーサポートにおいてAIの視点を取り入れていく」ことを発表しました。StockXでも真贋鑑定にAIなどといった技術を活用する予定はありますか。
我々がどのような技術を活用するかについて詳しく説明することは難しいのですが、今後も独自のプロセスを用いて真贋鑑定の精度を高めていきます。
──SNKRDUNKや「MONOKABU」など日本における競合他社をどう見ていますか。
競合サービスもユーザー数が伸びているようなので、非常にエキサイティングだと感じています。スニーカーやストリートウェアのファンが増えているといるということなのでしょう。
ですがStockXでは日本で展開されていないさまざまな商品を取り扱っています。国際的なマーケットプレイスであること。それこそが我々の最大の強みであり、競合との違いです。
──4月には約280億円(2億5500万ドル)の資金調達を実施しました。日本市場への投資はどこまで行うのですか。
金額について詳細はお伝えできませんが、国際的なマーケットプレイスであるStockXにとって、日本は最重要国のうちの1つです。
──世界10カ国に真贋鑑定センターがあり、昨年12月には香港に新設しました。日本でも真贋鑑定センターをオープンする予定は。
先ほどお伝えしたとおり日本では出品者が急増している状況です。日本のユーザーにもマーケットプレイスであるStockXが提供できる可能な限り最高な体験を提供したいと思っています。
──最近ではNFTと呼ばれるデジタルアイテムが話題となっています。(同じオルタナティブ投資的な商品を扱う)StockXがNFTを取り扱う可能性は。
今や誰もがNFTに興味を示していますよね。NFTは値段が上がったり下がったりするので、スニーカーやトレーディングカードの取引と非常に似ていると思います。そうした特徴を持つNFTとStockXというプラットフォームとの相性は抜群です。我々がどうNFTを巻き込んでいくのかは、今後を楽しみにしていてください。
──StockXにとって日本市場とは。今後の展開を教えてください。
StockXにとって日本は最重要国の1つです。多くの日本限定スニーカーが存在しますし、海外のスニーカーやストリートウェアのマニアたちはNIGOや藤原ヒロシといった日本人デザイナーから目を離せません。
今後もより多くの日本限定スニーカーや日本のブランドの商品をStockXに揃え、海外のユーザーたちに届けていきたいと思っています。#FR2とのコラボも「国際的な展開」を重視していたことで可能となりました。
一方で、日本のユーザーの顧客体験はまだまだだと思っています。日本語化をした上で去年の6月にローンチしましたが、今後もまだまだローカライズ化を進めていくつもりです。米国で提供している優れたユーザー体験をここ日本でも可能にするため、常にユーザーの声に耳を傾けています。