
新型コロナウイルス感染症の影響で人々のライフスタイルや働き方が変わり、新たな需要が生まれた。日本でもそれに応える形でさまざまなサービスが事業を急拡大させたが、中でも“フードデリバリー”はその代表例の1つと言えるだろう。
ライドシェアサービスとしてスタートした「Uber」だが、今やそのサービス名を聞いて浮かべるのは「Uber Eats」、つまりフードデリバリーの方ではないだろうか。
同サービスを筆頭にDiDi FoodやWolt、foodpandaなどグローバルで事業を展開するサービスが立て続けに日本に進出。国内発の出前館や楽天デリバリー、menu、Chompyなども含めて多くのプレイヤーがせめぎ合う。
コロナ禍で打撃を受けた飲食店に目を向けると、デリバリーやテイクアウトは貴重な収益源になりうる。そのため少しでもユーザーとの接点を増やすべく、複数のデリバリーサービスを導入する事業者も少なくない。
ただ、そこで密かに飲食店の悩みのタネになりつつあるのが「タブレット問題」だ。
通常、飲食店ではタブレット端末を用いてデリバリーの注文を受ける。その際にポイントになるのが「各サービスごとに端末が必要になる」こと。
たとえば4つのデリバリーサービスを導入する場合、飲食店のキッチンなどに4つの端末を設置する。メニューの登録や更新作業も、それぞれの端末から毎回各サービスの管理画面にログインして行わなければならない。

2019年5月設立のtacomsが正式ローンチした「CAMEL」は、この課題を解決するための飲食店向けサービスだ。
CAMELの特徴は複数のデリバリーサービスの注文を1台のタブレットで一元管理できること。端末が1台に集約されるので受注業務の効率化が見込めるだけでなく、メニューの変更や商品の売り切れ設定なども1つの画面から一括で対応できるため余計な手間がかからない。
tacomsで代表取締役を務める宮本晴太氏によると、東京大学在学中に会社を立ち上げたこともあり、創業当初は大学生向けのデリバリーサービスを開発していたそう。ただ飲食店に営業に行くと「すでに他のサービスを導入していて、これ以上は増やせない」と断られることが多かった。理由を聞いているうちに行き着いたのが、飲食店のタブレット問題だったというわけだ。
「サービスごとにUIが違うので、まずはそれぞれの操作を覚えなければなりません。たとえば店舗でウーロン茶が売り切れた場合はデリバリーサービス側でも品切れの設定をする必要があるのですが、当然それも各サービスごとにやる必要がある。特にイートインも並行してやっている店舗ではそのオペレーションがものすごく大変であることに気づきました」(宮本氏)
一方で今後デリバリーやテイクアウトの需要が広がっていくことは間違いない。飲食店としてもチャネルを広げるほど売り上げの増加も見込めるため、オペレーションを統一できるのであれば複数のサービスを導入したいと考えていることもわかった。
「オペレーションの問題で複数のサービスを導入できないことや、それが原因で国内のマーケット自体が広がらないことはもったいない」。そう考えた結果、宮本氏は事業の方向性を変えることを決断する。
まずはCAMELを本格的に開発する前に簡単なデモとサービス資料をいろいろな飲食店に送ってみたところ、大手チェーン店なども含めて「まさにそこで困っていた」という事業者から相次いで返信があった。そこで明確なニーズを感じ、この1年ほどでCAMELのブラッシュアップを重ねてきた。

今回の正式ローンチに先駆け、はなまるうどんの一部店舗やデリバリー事業を展開するTGALなど複数社が試験的にCAMELを導入している。
TGALは近年注目を集めるゴーストレストラン(デリバリー専業の飲食店)形式で事業を拡大している企業だが、ゴーストレストランの場合は1つの拠点で複数のブランドを展開していることも多いため、管理するタブレットの数も膨大になりやすい。その分だけCAMELとも相性がいいそうだ。
サービスの利用料金は店舗数や店舗規模などによっても異なるが、目安としてはミニマムで1店舗あたり月額数千円くらいの金額感で利用できるとのこと。現在はUber Eats、DiDi Food、foodpandaなどに対応済み。開発中のものも含めてまずは8サービスに対応するが、今後もその数は増やしていく計画だ。
またPOSレジサービスとの連携なども含めた機能開発も強化していく方針。そのための資金としてtacomsではANRI、EastVentures、複数の個人投資家を引受先とした第三者割当増資により数千万円規模の資金調達も実施している。
グローバルでは昨年ソフトバンク・ビジョン・ファンドから1億2000万ドルを調達したOrdermarkなど複数の事業者がCAMELと近しいサービスを展開している状況(Ordermarkは自社でデリバリーブランドも展開しているため単一事業ではない)。国内でもこの領域でサービスを手がけるスタートアップがすでに数社登場しているため、デリバリー市場の拡大とともに今後さらに盛り上がっていきそうだ。