
従来はデータサイエンティストに依頼していたような高度なデータ分析が、用意されている“レシピ”どおりにデータをアップロードするだけで実施できる──。2020年4月創業のdatagusto(データグスト)が手がけるのは、そんな自動調理器のようなサービスだ。
同社は5月24日、DEEPCORE、East Ventures、ゼロワンブースター、G-STARTUPを引受先とする第三者割当増資により8500万円の資金調達を実施した。この資金を用いて現在一部の大企業にベータ版を提供中の自社サービス「datagusto」の開発体制を強化し、今年10月を目処に正式版をローンチする計画だ。
datagustoで代表取締役を務めるパー麻緒氏は、もともと外資系コンサルティング会社のデータアナリティクス部門でデータサイエンティストとして勤めていた。その際に海外ラグジュアリーブランドのバイヤーを務める友人から、データを用いて適切な発注数を予測する方法について尋ねられたことがdatagustoを作るきっかけになったという。
「(友人は)エクセルを駆使しながらものすごく頑張っていたのですが、データ分析の専門的な知見があったわけではなく、自身の手だけでは解決できませんでした。一方で私がコンサルティングファームとしてその課題解決を支援するのは、コスト的にも難しい。その話を聞いていて、ボタンを押すだけで簡単に結果が出るような仕組みがあればいいのにと思いました。企業の現場ではそのような課題が積み重なっていたので、担当者の人たちの意思決定をサポートできるツールが必要だと」(パー氏)
そこでWebデータマイニングの専門でヤフー出身の中村達哉氏(現CTO)とともに2020年4月1日に会社を立ち上げ、datagustoの開発に着手。同月にはEast Venturesと個人投資家から最初の資金調達も実施した。
datagustoのウリは冒頭でも触れた通り“レシピ”を使うことで簡単にAIを用いた高度なデータ分析ができる点にある。


このレシピとはdatagusto内で用意されている分析テンプレートのこと。ユーザーは「テレアポ予測」「顧客解約予測」「営業案件受注予測」などのレシピの中から、必要なものを選ぶ。各レシピには「そのレシピを使ってできること」や「必要となるデータ(素材)」などが書かれているため、後はそこに記載のあるデータを投入するだけでいい。
パー氏によるとこうした業務にはデータサイエンスの知識やスキルが必要とされ、専門的な人材を雇うか、もしくは外部の企業に委託することが多かった。一方でdatagustoであればレシピに沿ったデータを用意するだけなので、データ分析の専門スキルを持たない現場の担当者でも自分の力で答えを導き出せる可能性がある。

世界を見渡せば、DataRobotをはじめAIを活用した分析や業務の自動化を支援するプロダクトがいくつも出てきており、そうしたツールの中にはdatagustoに比べてカスタマイズ性などに優れたものも存在する。
ただ、必ずしも多くのビジネス現場でそれが求められているわけではないというのがパー氏の考え。「馬力があってフルカスタマイズができる既存製品は例えるならフェラーリのようなものであり、自分たちのツールはどちらかというと(比較的に手が届きやすい価格帯で使い勝手に優れたという意味で)プリウスのような存在に近い」という。
datagustoでは昨年10月よりリコーや大和ライフネクストなど大手企業数社にベータ版を提供しており(ベータ版は1IDあたり年間10万円で運用)、すでにレシピの利用もスタートしている。
ある保険会社の営業現場では「架電最適時間予測レシピ」を用いて、対象企業ごとにテレアポがうまく行きやすい時間をAIで予測。以前は担当者の勘と経験に頼りながら時間をかけて分析していたところにdatagustoを取り入れることで、リードの獲得率が3%から20%にまで増加したそうだ。
素材となるデータ自体は顧客企業が集める必要はあるものの、昨今はCRMなどのツールを導入している企業も多いため、まずはそれらのデータがあれば利用できるレシピを作成している。「『このデータがあればこんなことができる』ということが事前にわかれば、実際にデータを貯めてみようと行動に移せる点もレシピの利点」(パー氏)だ。
正式版に向けてはレシピの数をまずは10個ほどまで拡大していくほか、CRMツールとの連携などを進めていく方針。またdatagusto側が用意したレシピに加えて、ユーザー企業自らレシピを作成できるような仕組みも整えていく計画だ。