hachidoriが開発する「recit」は動画メッセージを活用することで非同期のコミュニケーションをサポートするサービスだ
hachidoriが開発する「recit」は動画メッセージを活用することで非同期のコミュニケーションをサポートするサービスだ すべての画像提供 : hachidori
  • 3クリックで手軽に撮影、倍速視聴で効率よくインプット
  • 社内のZoom会議の負担軽減へ“自社ツール”として開発
  • 目指すは「Youtube for BtoB」

新型コロナウイルスによってリモートワークが主流となったこの1年強で人々の働き方も大きく変わった。“会議のオンライン化”、ビデオ会議もその1つだろう。

通常の会議はもちろん、従来であれば口頭で行っていたちょっとした相談や報告、雑談などもチャットツールやビデオ会議ツールを使って行うようになった。移動時間がなくなったことなども合わさって、以前に比べて会議の時間自体が増えたという人もいるはずだ。

そういった状況下において、グローバルでは「asynchronous meeting」領域への注目度が高まりつつある。日本語では「非同期ミーティング」などと訳されるが、文字通りリアルタイムで実施していた会議を非同期に変えることを指す。たとえば動画共有ツールを用いることで会議そのものを、もしくはその一部を非同期に置き換えていくケースがわかりやすい。

ツールを活用して相談事項や報告事項をウェブ上で録画し、動画形式で参加者に“事前共有”する。簡単な報告事項であれば、わざわざ会議を開かずとも動画を見るだけで十分かもしれない。参加者間で何かを議論して決める必要がある場合にも、報告の工程を動画に置き換えることで会議時間の短縮や質の向上が見込める。

実際にこの領域では先日1億3000万ドルの大型調達を発表した米国スタートアップのLoomを筆頭に、複数のプレーヤーが台頭し始めている状況。狭義の会議に留まらず営業やマーケティング、カスタマーサポートの分野など幅広い用途で活用できる余地があるため、今後さらに各企業が事業を広げていく可能性もある。

5月25日にビデオメッセージツール「recit(レキット)」を正式ローンチしたhachidoriも、コロナ禍での働き方の変化に伴って生まれたニーズに応えるべくサービスを立ち上げた1社だ。

3クリックで手軽に撮影、倍速視聴で効率よくインプット

recitの特徴

recitもLoomなどと同様、社内外で行われる報連相やフィードバック、会議などを動画メッセージに変えることで生産性向上や業務効率化をサポートする。

同サービスはGoogle Chrome上で動作するウェブアプリケーションのため、アプリのインストールなどは不要。撮影したい画面を開いた状態でボタンをクリックするだけですぐに撮影がスタートする。Google Chromeの拡張機能を使えば3クリックで撮影できる簡単さが1つの特徴だ。

動画はrecit上でトリミングをしたり、字幕を入れたりすることが可能。撮影者の顔を動画内で表示することもできるので、雰囲気や温度感も伝わりやすい。

撮影終了後にはすぐにシェア用のリンクが生成され、終了から最短10秒で動画を共有できる点もポイントだ。

これについては動画を細かく分割(スライス)した上で、各スライスごとに一度アップロードし、最後に結合処理をするような仕組みを採用。それによって非同期ながらリアルタイムに近い感覚ですぐに動画を共有できる環境を整えているという。

recitの解決する課題

共有された動画は2倍速で視聴できるため、見る側のユーザーにとっても効率がいい。わからない部分にはピンポイントでコメントを入れることができるほか、AIの自動文字起こし機能も搭載している。

recitは動画の編集機能などを備えたパーソナルプランが月額880円(年払いの場合)、「動画が誰にどれくらい見られたか」を把握するための分析機能などを備えたチームプランが月額1320円(年払いの場合)で利用できる。

社内のZoom会議の負担軽減へ“自社ツール”として開発

hachidori代表取締役の伴貴史氏によると、recitはもともと同社の社内ツールとして誕生したものだという。

hachidoriも多くの会社と同様、コロナ禍でリモートワークへと移行した。その結果としてちょっとした相談や報告なども含めてZoomミーティングが一気に増加し、「30分おきにそのスケジュールが入っているような状態だった」(伴氏)ことが悩みのタネになっていた。

そこで単なる報告や、その場で議論して何かを決める必要のないことなどは録画した動画を共有する方式に変えることを決断。一方でメンバーの負担を軽減するべく、動画メッセージの撮影・編集・共有が簡単にできるツールを自分たちで開発することにした。それがまさにrecitの原型だったわけだ。

社内会議にrecitを取り入れ、各メンバーがrecit上にコメントした内容を中心に会議を実施する形に切り替えたところ、会議に要する時間を約3割削減できただけでなく、会議の回数自体も2割減らすことにつながった。

目指すは「Youtube for BtoB」

こうしたポジティブな効果や海外の動向に加え、もともとhachidoriが力を入れていたアルバイトのシフト管理アプリ「CAST」がコロナの影響を受けていたこともあり、伴氏たちは新しい事業の柱としてrecitの製品化を本格的に検討し始める。

今回の正式リリースに先駆けて、まずは2月にベータ版をリリース。約3カ月に渡って運用してきた。

「リモートワーク環境においてSlackやZoomでのコミュニケーションが増えた企業が多いと思います。自分自身、テキストチャットだけではメンバーの温度感や緊急性が必ずしも把握できなかったり、話せばすぐに解決することに時間がかかってしまったりすることに課題を感じていました。一方でZoomだと日程を調整する必要があり、すぐに対話できないことに加えて、全てをZoomで対応するのは難しい。特に日本人の感覚的にZoomを設定すると30分とか1時間といった長さになりがちなので、動画を活用して非同期のミーティングができれば便利だという考えからスタートしました」

「ビデオ会議を同期コミュニケーション、テキストを非同期のコミュニケーションという形で使い分けられてるケースが多いですが、今後は細分化が進みその間を埋めるような手段のニーズが高まっていくのではないかと考えています。自分たちとしては非同期の領域において、テキストではなく動画を用いたコミュニケーションに挑戦していきます」(伴氏)

会議に限らず、カスタマーサポートやバグの報告など用途が広がってきているという
会議に限らず、カスタマーサポートやバグの報告など用途が広がってきているという
カスタマーサポートの場合

伴氏の話では、ベータ版は60社以上の事業会社に活用されたそう。ビデオ報連相ツールという打ち出し方が分かりやすかったため、当初は会議や報告の効率化に使われることが多かったが、次第にカスタマーサポートや営業など用途が広がっていっているという。

今後はサービスサイトへの埋め込みなど対外向けのシェア機能を強化するほか、recit以外で撮影した動画のアップロードや編集・分析などに対応していく計画。「Youtube for BtoB」として、ビジネス領域における動画コミュニケーションの統合プラットフォームを目指していくという。