Dcard Taiwan創業者・CEOの林裕欽(リン・ユーチン)氏 すべての提供画像:Dcard Taiwan
Dcard Taiwan創業者・CEOの林裕欽(リン・ユーチン)氏 すべての提供画像:Dcard Taiwan
  • 徹底したセキュリティ体制で大学生たちが自由に議論
  • 東京大学を含む5校に積極的にアプローチ
  • 日本国内の大学生9割が使うSNSを目指したい

FacebookやTwitter、Instagram──今や私たちの生活に欠かせなくなったSNSに加え、最近では新たに招待制・音声SNSの「Clubhouse(クラブハウス)」や招待制・写真共有SNSの「Dispo(ディスポ)」、「Poparazzi(ポパラッチ)」などが登場し、その生存競争は激しさを増している。

そうした中、今度は台湾発の新たなSNSが日本に上陸した。台湾の大学生向け匿名制SNSとして人気の「Dcard」だ。過去に「Dpick」という名前で日本展開していた(編集部注:2018年9月にサービスは一度終了している)が、新たに「Dtto(ディット)」の名でサービス内容をリニューアル。4月に再スタートを切った。

Dcardは、台湾大学の学生だった林裕欽(リン・ユーチン)氏が2011年に開発したサービス。林氏は2015年に狄卡科技股份有限公司(以下、Dcard Taiwan)を設立し、ユーザー間のマッチング機能や掲示板コミュニティ機能を軸に、広告やECなどのビジネスを展開している。

林氏によれば「現時点で世界での利用者数は500万人超、毎月1600万件以上の訪問者がいる」という。なお、売上は非公開だ。

「大学での友だちづくりのきっかけにしたかった」という、ひとりの大学生の思いから開発されたサービスは台湾国内のアプリストアのランキングで常にトップ5以内にランクインするほどの人気を誇り、台湾の大学生の約9割が利用するとも言われている。

2019年7月には、台湾の大統領である蔡英文(ツァイ・インウェン)氏がDcard Taiwanのオフィスを訪問し、「若い世代に必要なプラットフォーム」と発言したことでさらに注目を浴びた。創業者の林氏は、2020年4月にForbes Asiaが発表した「今最も注目すべきアジア人30名」のCONSUMER TECHNOLOGY部門にも選出されている。

日本ではDttoの名でサービスを本格化したDcard。現在は早稲田大学、慶応義塾大学、青山学院大学、東京大学、明治大学、一橋大学、中央大学、上智大学、学習院大学、お茶の水大学、法政大学、立教大学の合計12校でサービスを利用することができる。

大学生向け匿名制SNS「Dtto」
大学生向け匿名制SNS「Dtto」

Facebookの誕生から10年以上の時間が経過。ここ数年で若者を中心に“Facebook離れ”という言葉がささやかれるなど、多くの人が次なる居場所を求め始めている。そうした中、これからの時代のSNSについて林氏はどう考えているのだろうか。彼に話を聞いた。

徹底したセキュリティ体制で大学生たちが自由に議論

Dttoは「グルメ」「ファッション」「学生生活」など、さまざまなジャンルの掲示板が用意され、その掲示板内で学生同士が気軽に情報交換できるSNS。大学ごとの専用掲示板もあり、授業やサークルに関する情報を同じ大学の友だちとも共有しやすい。

また、24時間ごとに1枚だけプロフィールが書かれたカードを引けて、互いが承認するとやりとりができる「一日一会」と呼ぶマッチング機能も用意されており、偶然の出会いを楽しむこともできる。

「大学生の頃は、学校内で新しい友だちと知り合う機会が少ないと感じていました。そこで思いついたのが、このサービスでした。当初はカードを引いて新しい友だちをつくる仕組みしかなかったのですが『もっと自由に話せたほうがいい』と思い、掲示板コミュニティ機能を追加。いろいろな話題を匿名で自由に討論できるようにしたのです」(林氏)

カードを引く仕組みから“Dcard”という名でスタートしたサービスだが、現在はコンセプトも変わっている。林氏によれば台湾と香港はDcardという名前を残しつつ、日本版の提供をきっかけに、Dttoは世界進出用ブランドとして展開していくという。

「Dttoと同じ発音になる“Ditto”はラテン語で『相手の話すことに同意する』の意味。我々が目指したいのは、共感が生まれるサービスです。その目的を改めて認識してもらうことも意図しています」(林氏)

YouTubeやInstagramが憧れのインフルエンサーをウォッチする場、LINEは家族や友だちとプライベートなやりとりをする場だとすると、林氏はDttoを「大学生たちが討論できる場」と定義する。主な収益源は広告費。ユーザーの行動から好みを分析し、的確な広告を出せることを強みとしている。例えば、「好物研究室」という商品紹介ページを設け、ユーザーがそのまま商品を購入できるEC機能もある。

Dttoは討論ができる場所として人気を集めているというが、一方で匿名制SNSは性犯罪などの温床になってしまう可能性も高い。そこで、Dttoは徹底したセキュリティ体制を構築した。林氏によれば、3つのことを意識したという。

「1つ目は、登録時は所属する大学が発行したメールアドレス、もしくは学生証が必要であること。2つ目は、AIを活用した24時間体制のモニタリングを行い、討論の場などで危ない発言があればすぐアラートがあがるようにしています。そして3つ目がDM(ダイレクトメッセージ)の禁止。発言はすべてパブリックな場でしかできないようにしました」(林氏)

東京大学を含む5校に積極的にアプローチ

Dttoが台湾の次に進出したのは香港だった。その成功事例をもとに、日本版の展開を決断。台湾へ留学していた日本人大学生がDttoに触れ、「日本にあったら使う」とフィードバックされたことも後押しになったと林氏は語る。

Dttoは台湾トップクラスの国立大学・台湾大学と政治大学で当初のサービスを展開し、ユーザーのニーズや要望をつかみながら大学数を増やしていった。日本でもまずは12校、中でも早稲田大学、慶応義塾大学、青山学院大学、東京大学、明治大学の5校に注力しながら、さらに利用できる大学の数を増やしていくという。

「サービスの拡大に欠かせないのがリテンションです。Dttoでは、AI技術を使ってユーザーの好みにあわせておすすめのコンテンツを提示。アクセスしたらすぐに見たいものを見られるようにしています。また、投稿内容を他のSNSへシェアでき、新しいユーザーの獲得にもつなげています」(林氏)

最近ではClubhouseのようなサービスも登場するなど、SNSのトレンド変化はますます激しくなっている。そのなかで戦い続けるために「共感を大事にしたいと思っている」と林氏は語る。

「SNSは時代に合わせて変化し続けていかなければなりません。時代によって習慣や考え方は異なりますが、1つだけ変わらないものもあります。それが『共感』です。人は、理解されたい・認められたいという欲求を捨てられない。共感さえつかめていれば、サービスの価値は維持できると考えています」

「何か意見を語る場では安心して意見が言える“サービスとしての質”が大事です。Dttoでは、質はもちろん、安心感があるかどうかを重要視しています。今後もさまざまなSNSが登場すると思いますが、どのサービスに勝てればOKというより、それぞれがフォーカスする領域に専念し、ユーザーに提供し続けるのが最善の生き残り策だと思っています」(林氏)

日本国内の大学生9割が使うSNSを目指したい

林氏が「友だちづくり」のために始めたDttoは、瞬く間に台湾の人気SNSとなった。「これほどまでに広がることを予想していたのか?」と聞くと、林氏は首を振って否定する。

「まったく想像していませんでした。だって、当初は僕自身のニーズを実現したものだったんですから。台湾大学と政治大学の学生間だけで利用していましたが、嬉しいことに評判となり、他の大学から引き合いが増えていきました。正直、(これからも)どこまで発展していくのかは予想できません。でも、それこそが起業の醍醐味だと思っています」(林氏)

Dcard Taiwanのオフィスの様子
Dcard Taiwanのオフィスの様子

これからの事業展開について「まずは3〜5年かけて、日本の大学生の8〜9割が利用している状態を目指します。その後、大学を卒業した人や高校生など、利用層を上下に広げていきたいですね」と語る林氏。日本での展開を皮切りに、今後は東南アジアやアメリカ、ヨーロッパへの進出も前向きに検討している。

「新型コロナウイルスの影響でオンライン授業へ踏み切った大学も多いですが、社会や時代の変化を臨機応変に対応していくのは我々としてもチャレンジングなところです。そして、SNSは金融を含めた他サービスともつなげやすい。DcardはEC事業も始めていますが、ほかの新サービスへも展開していく予定です」(林氏)